コラム  外交・安全保障  2025.10.29

Urgently Advocating a Precise Understanding of the Principle of Proportionality: From the Perspective of the Inherent Situation of the Japan Coast Guard and the Japan Maritime Self-Defence Force

規制・法制度

本稿は、2025922日にキヤノングローバル戦略研究所(CIGS)のHPで公開したした拙稿、「海上保安庁の安全確保に不可欠な比例性原則の理解」を発展させ、英語で執筆した論文である。前回の拙稿につづき、今次の拙稿も、筆者の海上保安庁有識者ネットワーク「Compass Voice」のメンバーとしての発信である。二つの拙稿の趣旨・目的は、先の拙稿に付したリード文で説明したように、概要、次の点にある。

「筆者は、比例性原則とは、『相手が行うことと、同じことで、対応してもよいという意味である』という誤解を、繰り返し耳にしてきた。これは、海上保安庁のみならず、海上自衛隊にとっても、極めて重大で危険な誤りである。海上保安庁も、海上自衛隊も、後者は、自衛隊法82条のもとで海上警備行動に従事する場合には、警察機能を果たすのであり、その武器の使用は、「警察比例原則」「比例性原則」とされる警職法7条により制限されるからである。危害を与える武器使用は、より厳格な制限に服する。国内法上の比例性原則は、国際法である武力紛争法上の比例性原則とは、全く、異なる。

筆者は、そのような比例性原則をめぐる誤解があるならば、学問的な整理や知識の紹介により、それを解消したいと考えている。しかし、それだけにはとどまらない。筆者の深刻な懸念は、法、すなわち、比例性原則の正確な認識と理解が欠けていれば、海上保安庁および海上自衛隊の安全が著しく損なわれることに向けられている。

そうした懸念に基づき、比例性原則の正確な認識と理解に一助を提供することが、筆者にとっての重大で喫緊の課題である。」


今次の英文での拙稿においては、次の点をあらためて意識した。

第一に、比例性原則の学問的な整理を、実践に即しながら行うことに意義があると考える。第二に、比例性原則を、日本の海上保安庁の、国際的にみて特殊な状況に照らして分析し、それを英語で発信する必要性があると考える。

第二の点は、筆者がCIGSHPで、マレーシア安全保障会議2025で報告した内容を発信したときの趣旨と同じである。そこでの説明は、概要、次のとおりである。

「日本における海上自衛隊と海上保安庁との関係について、特徴的な点は、海上保安庁は、警察・法執行機関であることを、常に維持しなければならないという点である。それは、武力攻撃への対処や武力紛争において、海上自衛隊と共同するという、極限状況においてすらも、あてはまる。

このことによる最も重要な帰結は、海上保安庁の武器の使用に対する制限である。

多くの国では、海上保安庁(coast guard)と海軍(navy)は、武力攻撃への対処や武力紛争において、ときには、海上保安庁を海軍の一部に統合して、両者の共同がはかられている。端的にいえば、そのような状況においては、海上保安庁は、海軍・自衛隊として機能することになる。

そうした実践をもつゆえに、日本における海上自衛隊と海上保安庁との特殊な関係は、諸外国には、理解することが難しいかもしれない。

しかしながら、日本人登壇者として、『マレーシア海上安全保障会議2025』という重要な機会をとらえて、こうした特殊な関係を説明し、理解を求める責務があると考える。なぜならば、それらの諸国は、近海での武力攻撃への対処や武力紛争において、日本と協力する可能性があるからである。」


関連する兼原研究主幹の論文

・「海上保安庁の安全確保に不可欠な比例性原則の理解」 https://cigs.canon/article/20250922_9248.html

・「マレーシア海洋安全保障会議2025」講演について https://cigs.canon/article/20250701_9012.html

“How to Ensure the Safety of the Japan Coast Guard While Maintaining Its Nature as a Police Organ When It Conducts Missions in Collaboration with the Japan Maritime Self-Defense Force under the Control Guidelines,” Japan Review, Vol. 6, Nov. 2, https://www.jiia-jic.jp/en/japanreview/pdf/05JapanReview_Vol6_No2_Atsuko%20Kanehara.pdf

“Reconsideration of the Distinction between the Use of Arms in Law Enforcement and the Use of Force Prohibited by International Law―With an Analysis of the Inherent Significance of This Issue to Japan,” Japan Review, Vol. 5, No. 2, https://www.jiia-jic.jp/en/japanreview/pdf/JapanReview_Vol5_02_%20Kanehara.pdf

“The Use of Force in Maritime Security and the Use of Arms in Law Enforcement under the Current Wide Understanding of Maritime Security,” Japan Review, Vol. 3, No.2, https://www.jiia-jic.jp/en/japanreview/pdf/JapanReview_Vol3_No2_05_Kanehara.pdf


兼原研究主幹は、海上保安庁有識者ネットワーク「Compass Voice」メンバーです。

全文を読む

Urgently Advocating a Precise Understanding of the Principle of Proportionality: From the Perspective of the Inherent Situation of the Japan Coast Guard and the Japan Maritime Self-Defence Force