ワーキングペーパー  グローバルエコノミー  2025.05.22

ワーキング・ペーパー(25-013E)Bubbles and Collateral

本稿はワーキングペーパーです。

経済理論

本論文は、担保がバブルを引き起こす新たなメカニズムを提示する。従来、資産バブルは一部の経済主体が資産価値を過大評価することで生じると考えられてきた。しかし本研究は、全ての当事者が担保資産に実質的価値がないことを確実に理解していても、他者が「より高値で買う愚かな誰か(greater fool)」の存在を信じているかもしれないという高次の不確実性のみで、資産が担保として機能し、それが経済全体での非効率な過剰投資を引き起こすことを明らかにする。

この理論的枠組みは、住宅市場や株式市場はもちろん、暗号資産を担保とするDeFi(分散型金融)にも適用可能である。たとえば、価値が不安定な仮想通貨を担保として安定通貨を借り入れる行為は、しばしばこの「他者の認識への期待」によって正当化されている。本論文は、こうした実務の裏に潜むリスクを理論的に可視化し、これまで指摘されたことのない新しい政策的インプリケーションを与える。

第一に、担保資産の取引禁止(マクロプルーデンシャル政策)は、過剰投資を抑える場合には有効だが、逆に投資不足のときには社会的損失を拡大させうる。第二に、金利引き上げは、リスク回避行動を促すことによりバブルを抑制できるが、効率的投資まで縮小させるリスクを孕む。第三に、政策当局による情報開示によって高次の不確実性を解消すると、資産価格の変動をむしろ拡大させ、社会厚生を損なう可能性がある。つまり、バブルを抑えるつもりの政策が、期待形成の構造変化を通じて逆効果になりうる。

本論文の独自性は、資産担保の価値評価が「誰がどう思っているか」ではなく「誰が他人がどう思っていると思っているか」に依存するという現代経済の構造を鋭く描き出している点である。これは、金融規制、中央銀行政策、そして暗号資産の規制設計において、極めて実践的かつ戦略的な含意をもつ。

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ワーキング・ペーパー(25-013E)Bubbles and Collateral