ワーキングペーパー  グローバルエコノミー  2024.12.06

ワーキング・ペーパー(24-022E)Transparency vs Privacy Credit Markets

本稿はワーキングペーパーです。

経済理論

多くの国の信用市場では、借手に関するネガテイブな情報を提供することに制限を設けている。例えば、アメリカでは、公正信用報告法(Fair Credit Reporting ActFCRA)により、信用情報機関によって個人の破産情報が保持されるのは最長10年間までと定められている。この期間が経過すると、貸手に提供される記録から削除されるよう義務付けている。過去の信用情報をあえて公開しないこうした規制は一体何の意味があるのであろうか。

本論文では、理論モデルを構築して、信用市場における借手のネガテイブな情報提供への制限が経済学的に正当化されうるかを考察する。それを目的として、二つの異なる情報構造をもったシステムのパフォーマンスを比較する。一つは、Transparencyで、借手の過去の信用情報が全ての貸手に共有される。もう一つは、Privacyで過去の信用情報は借手の個人情報とする。借手は毎期毎期異なる貸手に直面し、一度投資した貸手と取引することはない。資金調達できれば、借手は毎期毎期プロジェクトを行うが、その成否は借手のタイプに依存する。つまり、借手が良いタイプであればある確率で成功し、悪いタイプであれば必ず失敗する。借手のタイプは貸手にも、借手自身にも分からない。

こうした設定下で、貸手は異なるシステムによって異なる信念をもち、異なる投資行動をとる。Transparencyの下では、貸手も過去のプロジェクトの成否情報を共有するため、借手と同様、貸手も貸し出しが行われるたびに借手のタイプについての信念をアップデートする。ところが、Privacyの下では貸手はそうした情報を得ることがないため、信念のアップデートを行わない。そのため、Transparencyの下ではPrivacyと比して、貸手はより悲観的になり、より早く貸し出しをやめてしまう。つまり、Transparencyの下では、情報的外部性(貸し出しを行うと、他の貸手にとって有用な情報が生み出されるのにそれを考慮しないで投資する)が存在するため、過少投資、さらにはPrivacyと比して総経済厚生が低くくなってしまう。

多くの実証研究によれば、信用情報機関が個人のデフォルト情報へのアクセスに制限を課している国ほど全体的な総クレジット供給が大きい。本論文で得られた結果は、これと整合的である。

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ワーキング・ペーパー(24-022E)Transparency vs Privacy Credit Markets