メディア掲載  エネルギー・環境  2024.07.09

気候変動問題が社会と経済に与える影響は?

【ビョルン・ロンボルグ】気候変動問題は誇張されている
- もっと大事なことにお金を使うべきだ -

NPO法人 国際環境経済研究所IEEI2024625日)に掲載

エネルギー・環境

気温が上昇した際に、社会と経済にはどのような影響が生じるのでしょうか。その影響を分析した著名なレポートがあります。英国政府の依頼でスターン卿が分析を行ったスターンレビュー(STERN REVIEW: The Economics of Climate Change)です。

レビューの結論は、「気候変動は、経済に大きなマイナスの影響を与えると考えられるので、今対策を行う方が理に適っている」でした。将来のGDP の損失は5%、広範囲な影響を考慮すると最大20%とされていました。今GDP1%の程度の支出による対策を取ることにより、温暖化の最悪な影響を回避できるとされました。
ちなみに、2006年に提出されたレビューの中では石炭の役割に触れた記述もありました「再エネと低炭素エネルギーを大きく拡大しても、2050年のエネルギーの半分以上は化石燃料であり、石炭は世界で依然重要な役割を果たすのでCCSが重要になる」。

今の脱石炭の動きよりは地に足が着いた記述のように思えます。現在世界の発電の36%は石炭火力です。大石炭消費国中国とインド()がいつ石炭火力の発電量の減少に踏み切るのか依然不透明です。

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一方、気候変動は経済に影響を与えるものの、様々な視点から考える必要があると主張するのは、ビョルン・ロンボルグ博士です。2001年に出版された”The Skeptical Environmentalist”(邦訳:「環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態」)で世界的に注目され、2004年には米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」にも選ばれています。ロンボルグ博士が今回来日し、講演しました。キヤノングローバル戦略研究所杉山大志研究主幹が講演の概要を紹介されています。

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東大有馬純教授の招きで来日したビョルン・ロンボルグ氏にキヤノングローバル戦略研究所で講演して頂いたので、本稿ではそのポイントを紹介する。ビョルン・ロンボルグ氏はベストセラー「環境危機をあおってはいけない(山形浩郎訳)」などで知られる。気候変動問題に対して、社会全体の変化という広い文脈の下で、統計的な分析をし、明瞭な図で説得量のある論を展開してきた。

動画(筆者による日本語要約とQA付)
https://cigs.canon/videos/20240522_8116.html

講演資料
https://cigs.canon/uploads/2024/05/Tokyo%20Canon%20April%202024%2045min.pdf

ロンボルグ氏は、以下についてまず受け入れる。気候変動問題は存在し、それが人為的な温室効果ガス排出に起因するものであること。また、IPCCがまとめている気候モデルによる気候変動の予測や、それによる災害などの悪影響の増加についても、それを前提として話を進めてゆく。

その上で、いくつも重要な指摘をする。

気候変動問題は誇張されている

強いハリケーンの数は増えていない(下図)。ハリケーンが来る度にメディアは気候変動のせいで激甚化したと騒ぎ立てるが、根拠が無い。

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適応を無視してはいけない

洪水によって2100年にはGDP5.3%が失われるという試算があるが、このような試算は、「適応」を無視した結果である。ここでいう「適応」とは、気候変動の影響を軽減するような対策のことで、洪水の場合には、堤防の建設などがある。きちんと適応をするならば、最悪の温暖化シナリオであっても、2100年の損失は現在よりも少なくなる(下)。

そして、もともと気候変動があろうがなかろうが、防災投資は世界中で進んでゆくので、全く適応をしないというシナリオには、そもそも現実味が全くない。

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気候変動は世界の破局などではない――ひとつの問題にすぎない

世界はどんどん良くなっており、気候変動による悪影響は、その改善を僅かばかり遅らせるに過ぎない。下図では、世界全体における飢えによる死亡者の人数が、激減を続けていることが分かる。気候変動の影響は、この傾向を僅かに遅らせるに過ぎない。

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先進国の一方的
CO2削減は極めて経済的効率が悪い

気候変動対策には費用がかかる。その費用を払うことで、気候変動による悪影響を軽減するという便益が生じるが、それでは、その費用対便益を比較するとどうなるか(下図)。

EUCO2削減を熱心に進めているが、1ドルの費用を払っても、0.03ドルの便益しかない。これに対して、グリーンエネルギーへのイノベーションであれば1ドルの費用に対して11ドルの便益が生じるので、こちらの方が賢明な温暖化対策である。

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2050年CO2ゼロ目標は経済性が無い

世界全体で協調するとしても、2050年までにCO2をゼロにするという目標は、費用が便益を大きく上回り、経済的に正当化できない。下図では、費用が26.8兆ドルに対して便益が4.5兆ドルに過ぎないことが示されている。

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化石燃料を使って豊かになったほうがよい

化石燃料を大量消費すると、気候変動によって2100年にGDP5.7%が失われるが、それでも、一人当たりGDPは極めて高くなる(下図、黒線)。これに対して化石燃料使用を抑制すると、経済成長率が低くなるので、気候変動によるGDP損失こそは2.5%に減るけれども、化石燃料を大量消費した場合(黒線)の方が、世界の人々ははるかに豊かになる。このほうが望ましいではないか。

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気候変動よりも重要なことにお金の使うべきだ

気候変動だけが問題なのではない。気候変動では、イノベーションに投資すれば1ドルの費用で11ドルの便益を得ることが出来るが、CO2をゼロにしようとすると1ドルの便益も得られない。だが同じ1ドルを、他の事に投資すれば、もっと大きな便益が得られる。

妊婦・新生児の健康へ投資:87ドル
結核対策:46ドル
教育: 65ドル
・・

気候変動対策をしたい人々とは、何か良い事をしたい、という人々であろう。そうであれば、もっとも良い効果のある事にこそ、真っ先に投資すべきではないか(Best Things First)

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私がロンボルグ氏の講演に違和感を持った唯一の点は、モデルによる気候変動や悪影響の予測を無批判に受け入れている点だった。筆者は、モデルは過去を再現できず、将来の予測も不確かで、往々にして悪影響を誇張する傾向がある、と見ている。ロンボルグ氏も、モデルの予測に問題点があることはよく承知していた。しかし氏は、「私は経済学者であり、気候や生態系は専門家ではないので、それらモデル予測の結果を受け入れることにしている。モデルの結果を全て受け入れたとしても、縷々述べたような結論を得ることが出来る。このような論理だての方が、多くの人々に理解してもらえる」、とのことだった。

講演後、ベジタリアンのロンボルグ氏のために、精進料理屋で一席設けた。ベジタリアンになった理由を聞くと、13歳のときに、動物を殺さなくてよいと知ったからだ、という。「13歳の子供がこんなことを言い出して、周りの大人はさぞ迷惑だっただろうなあ」とのこと。彼はアルコールも飲まないので、「何か不健康なことはしていないのか」とちょっと意地悪に聞いてみたら、「ピザと炭酸飲料が大好きだ。いつも基本的に不健康なものばかり食べている!」とのこと。一気に親しみが湧いた瞬間であった。