論文  財政・社会保障制度  2024.03.31

2022年法による英国医療改革 -統合ケアサービスと新しいNHS診療報酬支払方式-

明治大学専門職大学院『ガバナンス研究』2024年3月 掲載

医療政策

英国医療は、税を中心的な財源として運営している国民保健医療サービス(National Health Service、以下、NHSと略す)である。20227月より施行されている「2022 年保健医療ケア法(Health and Care Act 2022、以下、2022年法とする)」は、「2012年保健医療ケア法(Health and Social Care Act 2012、以下、2012年法とする)」以来の大きな改革と言われている。2012年法以降に確立された制度・組織を解体するために制定された。この法律は、元NHSイングランド最高責任者のサイモン・スティーブンス(Simon Stevens)氏のリーダーシップの下で作られた。スティーブンス氏は、デイビッド・ニコルソン(David Nicolson)氏の後を引き継ぎ、20144月から20217月までNHSイングランド最高責任者として活躍した。

2012 年法では、2001年に発足したプライマリー・ケア・トラスト(Primary Care Trust)2002年に発足した戦略的保健局(Strategic Health Authority)が廃止され、新たに、一般家庭医(General Practioner)主導のクリニカル・コミッショニング・グループ(Clinical Commissioning Groups、以下、CCGと略す)が創設された。2012 年法は、大きな組織・制度再編の法律であり、NHS内の調達が変更され、競争が重視され、NHSでは、さまざまな懸念が持たれるようになった。

2022年法は、医療と福祉的ケアを連携するべく、より地域に立脚した組織再編や連携促進、そのための予算配分などに変化を及ぼした。CCGは統合ケア委員会(Integrated Care Boards)に再編された。また、調達と料金体系(診療報酬体系)の見直しは、サッチャー政権以降、長く続いていたNHSの内部市場を解体としたと言われている。2022年法で、二次医療に対する診療報酬額を定める規則について、これまでの公定価格表(National Tariff)から、新たにNHS診療報酬支払方式(NHS Payment Scheme)が採用された。NHS診療報酬支払方式は20234月より開始されている。

日本でも、2025年を目途に、地域包括ケアシステムの構築が推進されており、また、地域別診療報酬制度についても議論されており、英国の取り組みについて検討することは意義がある。したがって、本稿では、統合ケアシステムとNHS診療報酬支払方式を中心に2022年法による英国医療改革を検討する。


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明治大学専門職大学院ガバナンス研究科 『ガバナンス研究』No. 20 (2023年度発刊)

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