コラム  国際交流  2023.08.07

『東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編』 第172号(2023年8月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない —— 筆者が接した情報や文献を ①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

中国 欧州

分岐化したグローバル化(bifurcated globalization)が、米中の政治的対立を背景に一層色濃くなってきた。

74日、台湾の経済団体主催の会合でTSMCの創業者(張忠謀/Morris Chang氏)は、「グローバル化の再定義(重新定義全球化)」と題した講演を行った。同氏は世界の現況を「国の安全保障・科学技術・経済を傷つけない限り、企業は利益を海外で追求し、財・サービスを輸入する事が許される(不傷害本國國家安全以及科技經濟領先條件下, 允許本國企業在國外牟利, 也允許國外產品與服務進入本國)」と表現した。そして聴衆に向かい「これをグローバル化と今も見做す事が出来るだろうか?(這樣還能算是全球化嗎?)」と問いかけた。

周知の通り、世界がTSMCの工場を求めている。友人情報に依れば、ドレスデン工科大学(TU Dresden)が期待を膨らませているらしい。他方、米国ではアリゾナ工場の完成が近づくにつれて、技術者等の人材確保に懸念が出てきている(添付資料2を参照)。米国の友人が「日本における人材確保は問題無いの?」と尋ねてきた。残念ながら現地に不案内な筆者は「メディア情報でしか判断出来ない。でも人材難は確かだ。補助金の投入で資金は確保出来ても人材育成は簡単に実現出来ない。ドラッカー先生が〝資本は人材を欠けば役に立たない(Capital without people is sterileと仰っていた事を思い出しているよ」と答えた次第だ。

欧州の中核をなすドイツが713日に公表した対中戦略(China-Strategie)に関し友人達と議論している。筆者は61ページの資料を読み、その文章の〝厳しさ〟に驚いている。例えば「中国は変貌したのだ。中国の変貌と同国が採る政策の結果、我々は中国に対する姿勢を変える必要がある(China hat sich verändert – dies und die politischen Entscheidungen Chinas machen eine Veränderung unseres Umgangs mit China erforderlich)」と述べている。だがその一方で、ドイツにとり中国は「同時的にパートナーで、競争相手国で、制度上の対抗国である(gleichzeitig Partner, Wettbewerber und systemischer Rivale)」と〝玉虫色(irisierend)〟の表現も使っている——因みにドイツ政府は同時に英語版も公表している。その中で、強調のために太字(bold)にしている文字が独語版と〝微妙〟に異なっている。この事も気になっている(単なるミスなのか意図的なのか?)。

また或る専門家は、独政府高官が「中国経済は依然としてドイツにとり〝乳牛〟だ。未だ〝処分〟する時ではない」と語った事を伝えている(Foreign Policy, July 21)。この事を知り苦笑した英国の友人に対し、筆者は次のように語った:

「流石はドイツ。日中関係が険悪な1930年代に、ドイツの或る外交官は次のように呟いた振り子の如く、或る時は中国に、また或る時は日本に。一方に強く傾けば他方の不満を買う。我々は日本の友情を求めつつ、同時に日本の宿敵である中国の軍拡に努めるのが現状である(Sie bewegt sich in Pendelschlägen mal nach der chinesischen, mal nach der japanischen Seite, und das starke Ausschlagen nach der einen Seite schafft auf der anderen Mißstimmung. Der gegenwärtige Zustand kommt darauf hinaus, daß wir Freundschaft mit Japan suchen, zu gleicher Zeit aber den wichtigsten Gegenspieler Japans, China, aufrüsten)〟」(注:ドイツが対中軍事・経済支援を停止したのは1938年であり、1937年の日華事変後だったのだ

かくして日本の企業も流動的な国際情勢を睨みつつ世界戦略を更に洗練する必要がある。幸いにも中国日本商会が614日に公表した資料(「中国経済と日本企業 2023年白書」)に依れば、中国による「公平性」・「透明性」向上に期待し、企業活動を進める事が記されている。他方、欧米では在中事業を切り離す戦略(“siloing”)を採る企業に関する報道が散見される事が気がかりだ。

こうしたなか、政経不可分の中国をよく知るため、筆者は以前購入したが未読の本(习近平总书记系列重要讲话精神»«平语近人:习近平总书记用典》等)を眺め始めたところだと友人達に伝えている。

残念だが西太平洋で緊張感が高まりつつある。米連邦議会調査局(CRS)の資料を読みつつ議論をしている(添付資料p.4の図参照)。

77日朝、英 Financial Times 紙を見た友人から連絡が来た。人民解放軍(PLA)が米国海軍を撃破したというWar Gameの結果に対し、台湾のthink tank(國防安全研究院 (INDSR))が反論したという記事だ(“Taiwan disputes China’s claim of ability to sink US Navy . . . ”)。

残念だが、筆者は一次資料(测试技术学报》に掲載された中国の資料及び台湾の網路安全與決策推演研究所の資料)が手元に無いために、二次資料を基に返答した次第だ。いずれにせよ偶発的な軍事衝突がエスカレートしないために防止策の案出が必要だ。

今秋退任予定のミリー米統合参謀本部議長が630日にNational Press Clubで行った演説に感動している。ミリー将軍は以前ノルマンディーの戦いの地を訪れた時に、当時第82空挺師団の軍曹だった老人との会話を紹介した。将軍は彼から大戦の戦術的教訓を聞き出そうとした。だが老人が語った言葉は全く異なったものだった —— 彼は目に涙をためて「将軍、大戦を再び起こさぬように (General, never let it happen again)」。将軍はその言葉を繰り返し、演説の最後にもその言葉を語った。そして将軍は将来の戦争の性格が激変する事に触れ、10~15年後、無人の飛行機・艦船・戦車が近代的軍隊の約3分の1を構成する可能性を語り、それに向けて、米国がロボットや人工知能(AI)を開発する必要性を語った(同様の事を将軍は2020年12月、think tankのBrookings Institutionで語っている)。

将軍の演説を聞きつつ今年邦訳が出た本(AI at War, 2021/AI海戦』)を思い出していた。面白い事に同書第8章(Practical Applications of Naval AI)の冒頭、人気アニメ(The Simpsons)の台詞(1997年放映)が記されている。筆者はアニメ制作者の先見性に驚くと同時に、7月初旬のRobot Reportの記事、またITU主催の会議にも驚いている(添付資料2参照)—— Humanoid Robot分野で嘗ては日本が最先端だったが、こうした情報に依ると実用化に向けた海外企業の成長が著しい。そして今、将軍の言葉を思い浮かべつつ、日本の将来を心配している。

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『東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編』 第172号(2023年8月)