コラム  国際交流  2023.07.03

『東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編』 第171号(2023年7月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない —— 筆者が接した情報や文献を ①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

AI・ビッグデータ 国際政治・外交

台湾情勢に関する資料について内外の友人達と頻繁に意見交換を行っている。

米国think tankBrookings Institution4月に発表した本(U.S.-Taiwan Relations: Will China’s Challenge Lead to a Crisis? 小誌5月号参照)や622日にAtlantic Council及びRhodium Groupが共同で発表した資料(“Sanctioning China in a Taiwan Crisis: Scenarios and Risks”)、そして独think tankMERICS66日に発表した英文資料(“How China Imposes Sanctions”)を中心に友人達と意見交換している。

Brookingsの本に内モンゴルの珠日河に台北の街並みを訓練用に再現した軍事基地の記述がある。その基地には総督府や外交部の実物大模型も存在している。その模型の写真を見ると、本物に比べて〝美しさ〟に欠ける。台北にある本物の総督府は東京駅を設計した辰野金吾氏の弟子達が設計した建物だ(1919年完成)。筆者は友人達に「あの美しい台北の建物が壊れたら残念だから、台湾危機が勃発しない事を願う」と語った。

Atlantic Councilの資料は中国が軍事行動を起こした際のG7側の制裁措置に関する分析だ。もしも現在の対露制裁の如き措置をG7が採れば、supply chainsが分断され、経済は大打撃を受ける。このためG7諸国は131万、中国も1,344万の労働者が直ちに困窮する事を想定している。

何はともあれ平和が一番。625日、衛星放送(CCTV4«中文国际»)を観ていると、「台湾危機に備える米日両国、蔡英文も参加を熱望(«美日备战〝台海危机〟蔡英文急着入伙»)」という表題が現れて驚いている。我々は真剣にde-escalationを考えねばならない。

安全保障政策及び産業政策に関してドイツが新たな指針を公表している。

614日、ショルツ首相は「ドイツ(戦後)史上初の国家安全保障戦略を策定しました」と記者会見で述べて、安全保障戦略の資料を公表した(Integrierte Sicherheit für Deutschlande: Nationale Sicherheitstrategie, 添付PDF:2. 情報概観を参照)。その約1週間前、ハーベック経済・環境保護相は、8日に「重要な産業政策に関し一里塚(Wichtiger industriepolitischer Meilenstein)」として電子産業に対するEUの助成策を公表した(添付PDF:2. 情報概観を参照)。分岐化するグローバル化の中でドイツ電子産業が如何なる形でnetworksを構築するのか、今後の動きが楽しみだ(添付PDF:p.4~5の図参照)。

先月も様々な分野における人工知能(AI)の利用に関する議論がなされ、その幾つかに筆者も参加した。

AI活用でPaul McCartneyJohn Lennonと共演するとの報せに驚いた。Lennonファンの筆者にとり、AIによるLennon復活に何の意味があるのか、未だ分からない。音楽とAIの関係に関しては2007年に米国Aspen Instituteで討論した時以来、素人ながら時々議論に参加している。その時の筆者の稚拙な質問は「BrahmsWagnerの作風の違いをAIは如何に認識して作曲するのか」だった。

5月下旬に開催された王立航空協会(RAeS)の会合(Future Combat Air and Space Capabilities Summit)でも、AIの活用に関し興味深い発表がなされた。この会合で印象に残った言葉は“Integration runs across domains but also across allies”だ。あらゆる側面で、国境を越え、人と機械が繋がり、その中でAIが果たす役割は、と考えると、日本の優秀で若い研究者達に心から声援を送りたくなる。

留意すべきは現在のAIは未だ多くの問題を抱えている点だ。この点に関し、Oxford大学のイリヤ・シュマイロフ氏が、論文(“Model Dementia”“The Curse of Recursion”)を5月末に発表し、表題が示す如く、AIがあたかも認知症再帰一辺倒の呪いに陥る危険性を示している。

今年はG7の会合が日本で開催される関係で、海外の友人達との意見交換が普段より多くなっている。

読者諸兄姉も薄々感じていると思うが、日本経済に対する海外の評価は余り芳しくない。友人達の多くが「日本は清潔だし、国民は親切・勤勉だし、治安は良いし…。だけど、どうして経済は相対的に後退してしまったのか」と筆者に訊ねる。

これに関して筆者は、経済学には縁が薄く、哲学や自然科学に詳しい友人達に対して、次のような説明をしている。

今は量子力学全盛の時代だが、アインシュタイン先生の相対性理論で考えれば、日本と世界の相対的な差が分かるかも知れない。先生は、時間の経過が観察者の移動速度や位置によって異なる事を示した。一台の電車の中の乗客にとって周囲との関係は、自宅等建物の中に居る時と変わらない。車内で楽しく話し合っている乗客は自宅や公園に居る時同様、座って静止し談話している。違うのは乗車中の電車の〝速度〟だ。日本という電車は、もはや〝新幹線〟ではなく〝各駅停車〟なのだ!! だが、中に乗っている人々は速度を気にしつつ外を眺めない限り、また複々線で横を〝特急〟や〝快速〟が抜いて行かない限り、〝鈍行〟に乗車している事は分からない。電車の速度に細心の注意を払う人だけが〝鈍行〟である事に気付いている。時折、日本の要人は海外の人々と外国で面会するが、その要人は、言わば〝駅〟で外国の要人と会っているため、乗車している電車の速度には殆ど気が付かないのだ。まさに“The passage of time actually varies depending on your point of view”である。

米国のトランプ前大統領が機密書類を保管している自宅の写真を見て驚いている。

以前、ヴァン=エヴェラMIT教授の案内でボストン南部のケネディ大統領の図書館を訪れて資料を見た事がある。資料は全て番号が付けられて保管されている。筆者が見た資料は1961年のベルリン危機の時、パリ出張中のシュレジンジャー特別補佐官がワシントンに居る大統領と電話で相談し、副大統領のドイツ派遣を決定した事をRitzのペイパー・ナプキンにメモしたものだ。それを見た時、公的史料保存の重要性を痛感していただけに、今回のトランプ前大統領の行動に驚いている。

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『東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編』 第171号(2023年7月)