コラム  国際交流  2023.06.08

『東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編』 第170号(2023年6月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない —— 筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

AI・ビッグデータ 国際政治・外交

政治経済社会における人工知能(AI)の活用に関し、様々な課題、それと共に解決策が議論されている。

米国連邦議会調査局(Congressional Research Service(CRS))は523日、報告書(“Generative Artificial Intelligence and Data Privacy:A Primer”)を公表し、連邦議会として法制準備上の課題を列記した。また同じ日、英 The Economist 誌は AI 時代の人間の役割を論じた記事を掲載した(“What Would Humans Do in a World of Super-AI?”)。記事の中には現在欧州を中心に活躍しているフィリップ・アギヨン教授が Harvard 時代に著した論文の中の文章が引用されている —— 参考までにそのアギヨン教授の論文(“Artificial Intelligence and Economic Growth”)は小誌104号(201712月)で既に触れている。

学際的研究機関(Center for Internet & Society, Harvard University)の若き研究者ジョシュ・サイモンズ氏による1月発刊の本Algorithms for the People:Democracy in the Age of AI)は、AI 時代における民主主義に関し課題と解決策を論じている。筆者の印象に残った彼の主張は“Democracy is not automated”だ。即ち民主的な政治活動は、自動化不能の活動(non-automatable activities)なのだ。

また、420日、米国の調査機関(Pew Research Center)が経済(特に雇用)を中心に AI の初期的導入に対して「現在如何なる印象を米国人は抱いているか」を調べた興味深いアンケート調査結果を発表している(添付PDF:p.4の表参照)。

焦土と化したウクライナの街の映像を見ると言葉では表現不可能な感情が湧く—— 確実な事は〝悲劇は今なお……〟。

59日のモスクワでの戦勝記念日、プーチン大統領は演説の最後で「За Победу! Ура! (勝利の為に! 万歳!)」と叫んだ。この時に、筆者の〝早期停戦への希望〟は消えてしまった —— まだ止めないのだ‼ 各国の主張 —— 例えば20日の G7 広島コミュニケ、中国《環球時報》の22日付社説、そして露メディア(Интерфакс)が21日に伝えた露外務省の声明 —— を読むと、“de-escalation”を探る道筋は窺えない。

戦況を日々伝える米国 think tank(Institute for the Study of War (ISW))の創設者であるキンバリー・ケーガン氏は Yale 大学の歴史学者故ドナルド・ケーガン教授の義娘だ。ケーガン教授の古典的名著(The Outbreak of the Peloponnesian War, 1969)は、今でも多くの研究者が言及している —— 例えば Oxford 大学の国際関係学専門家、ドミニク・ジョンソン教授は近著(Strategic Instincts, 2020)の中で触れている。

ケーガン教授は戦争の悲劇に関し思慮の浅い指導者が抱く〝undue optimism (適切さを欠く楽観主義)〟を警告した。平和の為に今こそ思慮深い世界的指導者の〝芸術〟的政治手腕に期待している —— そしてプロイセンの国益と国際協調の為に活躍した宰相ビスマルクを巡って「政治は可能性の芸術(Politik ist die Kunst des Möglichen; Politics is the art of the possible)」と語られた事を思い出している。

大阪国際会議場(グランキューブ大阪)で4月22日に開催された日韓関係の会合で討議に参加した。

会合は駐大阪大韓民國総領事館主催の「アジア太平洋における韓日関係(아시아태평양에서의한일관계)」だ。近畿大学の金泰旭(김태욱)教授の司会で発言者が各自の意見を述べた後、討論に移った。筆者は米中大国間競争の狭間に置かれた日韓両国が「如何なる姿勢で臨むべきか」を論じた。即ち不確実性に満ち、しかも極めて流動的な情勢の下、①両国はまさしく『孫子(손자)』が教える如く、「彼を知り己を知れば百戦殆うからず(당신이 적을 알고 자신을 알면 백번 전투를 해도두려워할 필요가)」の精神で、情報収集・情勢判断に正確を期する事、また②『莊子(장자)』が教える如く、米中両大国の前では、日韓の「蝸牛角上の争い(와각지쟁)」を慎む事を訴えた。そして参考となる歴史的事例として、ソ連のミサイル(SS-20;РСД-10 «Пионер»)配備が東西間の緊張を高めた1979年、ヘルムート・シュミット西独首相が果たした緊張緩和への触媒的役割(Doppeldolmetscher;double interpreter)に関して簡単に説明した。会合では韓国の優れた外交官や西田竜也東海大学政治経済学部長等と共に楽しく議論出来た事を喜んでいる。

5月初旬はサミット関連で忙しくする海外の友人達との会食や情報交換を楽しんでいた。

九州が再び “Silicon Island” 復活で活気づいている事を、外資系企業の人々を現地に案内した友人達から情報を聞く機会を得た。再び〝電子立国〟と日本が呼ばれる事に期待している。ところで、小誌は本来海外情報を諸兄姉に伝える事を主目的にしている。だが、今回は最後に1冊の邦書に触れてみたい —— 桂幹著 『日本の電機産業はなぜ凋落したのか』(2023年)。

同書は、経済や経営、或いは技術の専門家ではないと著者自身が謙遜しているが優れたビジネスマンの記録だ。著者は日本電機産業が〝無敵〟の地位から厳しい現況に至った過程を実体験に基づいて記している。そして彼は5つの〝大罪〟を提示した —— 誤認・慢心・困窮・半端・欠落だ。要約すると、電機産業は①海外情報を軽視し、デジタル化の本質と台湾・韓国の台頭を誤認し、②Ezra Vogel 先生の著書 Japan As Number One の表題を読んだだけで慢心に陥り、③Internet の登場を軽視したため新たな経済機会を捉えられずに経済的困窮を経験し、④労働者が参加する意欲を打ち消すような中途半端な組織に企業が変貌し、⑤再起の為の具体的行動を示唆すべき戦略的ビジョンが欠落していた、と記している。

著者は Vogel 先生の Japan As Number One Japan “IS” No.1でなくて AS” No. 1と記されている事、また先生の意図は慢心した米国に対する警告である事を記している。筆者は Vogel 先生のご子息(Steven)の米国の自宅で、Vogel 親子が六本木の国際文化会館に滞在中、同書が綴られた事を聞いた昔を懐かしんでいた。そして久しぶりに Steven に連絡を取った次第だ。

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『東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編』 第170号(2023年6月)