メディア掲載  エネルギー・環境  2023.02.28

規制や補助金によるグリーン政策は中国を利するだけ、勝機は「上流」にあり

【後編】対中デカップリングをどう進めるか

JBPressに掲載(202328日付)

エネルギー・環境

経済的・軍事的に強大となる中国に対しどう対抗するか。前回の記事「強大化する中国、日本は最強の対抗手段である半導体規制で米国と連携せよ」では、米国が強化する半導体規制から、対中デカップリングと日本のとるべき道を検討した。後編となる今回は、太陽光・風力・電気自動車などのグリーン分野で深まる対中依存の現状と、日本の競争力回復について考える。

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不透明で予測不可能になった中国の意思決定

中国で文化大革命が終わると日本は対中ODA(政府開発援助)を始め、中国が改革・開放路線に転じると投資・貿易を積極的に拡大してきた。これは中国の経済成長におおいに寄与した。

米国も中国の経済成長を歓迎していた。経済相互依存が高まることは、戦争の抑止になると考えられた。また豊かになれば、中国も自由・民主といった普遍的価値をいずれ共有するようになる、という期待があった。

いま中国は日本の第1の貿易相手国になったが、これは、もともとは善意に始まったものであった。そして多くの企業が、苦労して市場を開拓し、事業を立ち上げてきた。いまそれがようやく実って収益を上げるようになった。

だが他方で、中国の政治体制は期待を大きく裏切ることになった。

今日、日本・米国が対峙しているのは、共産党独裁体制のまま、ますます強くなる中国である。のみならず、習近平国家主席は2022年の共産党大会で独裁体制を強化し、ますます中国の意思決定は不透明で予測不可能になった。

国益を合理的に考えればありえない台湾への軍事侵攻も、習近平独裁体制ならばありうるかもしれない。独裁体制の危うさは、まさにウクライナ戦争でロシアのプーチン大統領が実証したことだ。

経済の中国依存にどう対処するか

不測の事態に備えて、企業レベルでは中国離れが進んでいる。だがせっかく収益のある事業を全て手放すというよりは、東南アジアや日本などに拠点を分散するというリスク管理がなされている。これまでも「チャイナプラスワン」などと言われ実施してきたことの延長だ。これは個々の企業としては当然の行動であろう。

他方で、企業レベルではなく、国レベルで見た時も、経済の中国依存は重要な問題である。中国で事業をする企業が多いほど、日本の政治的な意思決定が、中国の影響を受けやすくなる。

実際に、中国は取引のある企業を通じて日本のみならず世界諸国に政治工作を仕掛けていて、これは「サイレント・インベージョン(静かな侵略)」として警戒されている。このため国レベルでも、中国への経済依存が過大にならないよう、マクロレベルでの施策が必要となる。

具体的な施策としては、工場の日本国内ないしは中国以外への友好国への立地(オンショアリング・フレンドショアリング)の促進などがあるだろう。

企業にとっては、中国への国際的圧力の高まりも対中依存を下げる動機になる。前回の記事で触れた半導体規制が強化されるとなると、今後、中国国内における日本企業の工場は半導体が不足することになり、生産設備の導入や更新に支障をきたしたり、生産される製品の性能が保てなくなって、操業には大幅に制約がかかったりするかもしれない。半導体規制は、中国国内の海外企業にももちろん効くのだ。

そうした中で、対中依存を大幅に下げるべき分野として欠かせないのが、太陽光・風力・電気自動車などのグリーン分野である。

太陽光パネルの中国シェアはまもなく95%に

太陽光パネルはいま世界の8割が中国製であり、まもなくこれは95%に達する見込みだ。このうち半分は新疆ウイグル自治区で生産されている。中国は原料であるシリコンの採掘・精製・太陽電池セル製造の全ての工程において圧倒的シェアを有している。

電気自動車は電池にコバルトとリチウムを、モーターにレアアースであるネオジムを大量に使う。いずれも中国が大きなシェアを占めている。

中でもレアアース精錬は世界の9割を中国が占めている。レアアースの採掘・精錬工程は公害を起こしやすいため規制の厳しい先進国は資源を有しているにも関わらず生産をしていない。

この中国の独占状況は少なくとも向こう5年は変わらないと国際エネルギー機関は見通している。風力発電設備製造においてもいまや世界シェアの大半を中国が占めており、部品や材料も中国の存在が大きい。

いま日本は太陽光発電、風力発電、電気自動車の大量導入を進めているが、これによって中国依存を深めている。いずれも規制や補助金による導入であるが、潤うのは中国企業である。

さて米国では、ウイグル強制労働防止法が施行され、ウイグルでの人権侵害に関与した疑いのある製品は輸入禁止となった。

これには太陽光パネルがもちろん含まれる。最大手の3つの中国メーカーの製品はいま米国の税関を通ることができず、コンテナが港で山積みになっている。このため米国では太陽光パネルが品薄になり多くの発電事業が遅れている。米国産の太陽光パネルは5年先まで注文がいっぱいだという。

現状ではこれで行き場のなくなった太陽光パネルが他国に流れる。おそらく日本にも流れているだろう。米国は日本にもこの強制労働への対応などについても歩調を合わせるように求めており、外務省・経済産業とその米国のカウンターパートである商務省・通商代表部(USTR)などが協議するプロセスが今年の1月に立ち上がった

もともと太陽光パネルはCO2がいくらか減る以外には良いことはほとんどない。国民経済にとってはコスト負担にしかなっていない。人権侵害をするのでは本末転倒であるから、日本も米国同様の輸入禁止措置をとるべきだ。

「大量導入」から「生産強化」への転換を

加えて、グリーン政策の大転換が必要である。これまでの「大量導入」をやめて、「生産強化」を図るべきだ。どういうことか、説明しよう。

これまでは、政府は再生可能エネルギー全量買い取り制度や電気自動車への補助金などを通じて「大量導入」を促してきた。だが結果として、中国製品および中国製の材料・部品が多く流れ込み、中国依存が高まることになった。

これをやめ、政府は「生産強化」に舵を切るべきだ。これには研究開発、工場立地、設備導入、人材育成、福利厚生などへの政府投資・補助などがある。研究開発については、教育の強化、研究開発減税、研究開発補助など多くの手段がある。工場立地については、インフラ整備や、投資後の一定期間の減免税などがある。こういったことは、どこの国でもやっている。

米国はインフレ抑制法(IRA)により、グリーン産業に対して税控除などの補助金による生産強化を図っている。今後10年で5000億ドル(約65兆円)を支出するとしている。

欧州では、ウクライナ戦争によって決定的となったエネルギーコストの増大に加え、このインフレ抑制法も契機となって、企業投資の米国シフトが鮮明になっている。対抗措置として、米国同様の補助金による生産強化を求める声が高まっている。

下流は下策、上流が上策

「生産強化」はグリーンな投資に限る話でもない。米国は2022年8月に成立したCHIPS法によって半導体産業の生産強化を図っている。同法には米国の半導体製造や研究開発への527億ドルの補助金などが盛り込まれている。

インテル、テキサスインスツルメンツ、マイクロンなどの米国産業はもちろん、TSMC、サムスンなども数兆円規模の米国投資を検討しており、同法による補助対象の候補に挙がっている。

孫氏の兵法風に言えば「下流は下策、上流が上策」ということだ。生産側を上流とし、需要側を下流として頭に描こう。下流にアプローチして、規制や補助によって需要を増やすのは中国を利し、中国依存を深めるだけの愚策だ。そうではなく、上流にアプローチして、生産をテコ入れして世界市場に輸出できる競争力ある製品を作るのが上策ということだ。

環境問題に熱心な政治家は、太陽光xx万キロワット導入などと、すぐに国内での導入目標をぶち上げて、それを規制や補助金によって実現したがる。しかしこの悪癖は国益を損なうだけであり、もう止めねばならない。