ワーキングペーパー  グローバルエコノミー  外交・安全保障  2023.02.09

ワーキング・ペーパー(23-001J)フューチャー・デザインに基づくG7広島サミットへの提言

~地球公共財のための国際的ガバナンス~

本稿はワーキングペーパーです

国際政治・外交 ロシア

エグゼクティブサマリー

ロシアのウクライナ侵攻、それがもたらすエネルギーや食糧安全保障の危機、炭素・窒素・リンの循環を含む地球循環システムの崩壊、生物多様性の崩壊など、人類は様々な問題を抱えている。このような生存に関わる喫緊の課題に直面する私たちが、即座に効果の現れる対応によって課題を解決しようと試みるのは、当然である。

しかし、そのような解決策が数十年後に生きる将来世代からベストなものであると評価されるとは限らない。未来についての議論が、個々の国の短期的な利益によって妨げられ、長期的な未来についての合意形成や創造的なヴィジョンの開発が妨げられたとき、そのような懸念が現実のものとなる。

そこで、現在の世代と交渉する声を持たない未来の世代の利益が守られるような長期的な未来の設計のための様々な手法が開発されてきた。その中でも近年特に注目されつつあるのが、政策立案者が未来の視点から政策を想像することを体系化した「フューチャー・デザイン(FD)」という手法である。

私たち(第25著者)は、ロシアによるウクライナ侵攻のもたらす衝撃に晒されている2023年において、G7広島サミットに参加する各国首脳たちがFDの手法を採用した討議の時間を設けることのメリットをシミュレートすることを目的として、討議を行った。そして、2053年の国際社会の姿を具体的に描き出した。その結果、一見したところ関係性が明らかでない諸論点が、30年というタイムスパンの中で関連し合って、国際社会の協調が実現される道筋を構想した。この経験を踏まえ、私たちは2023G7広島サミットに参加する各国首脳に対して、以下の事柄を提案する。特に、各国首脳が、地球公共財の供給のための国際的ガバナンス体制の構築に努めることを強調したい。

提言

(1) G7広島サミットにおいて、主要7か国首脳は、ロシアによるウクライナ侵攻が終結しているであろう2053年に実現している協調的な国際社会における、仮想将来大統領/首相の立場に立ってほしい。

(2) その立場から、潜在的に関連し合う以下の5点の政策課題に関して、2023年のG7首脳がどのような整合的な解を導出すべきだったかについて検討し、2023年のG7首脳に対して助言してほしい。

ウクライナへの軍事侵攻への対抗策として実施している各種の対ロシア制裁におけるG7としての結束の重要性とその出口戦略について。

② 中国がアメリカ・ロシアの核軍備管理体制に参加し、透明性の高い核軍備管理を行うよう促すための、また、中国がアメリカを含む西側諸国と自由な世界経済の発展に向けて協調するよう促すためのG7の取り組み。

③ 気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)で創設が決まった、気候の災害で「損失と被害」を受けた脆弱な国に資金提供する基金に関して、今後行われる制度設計のための議論におけるG7の役割。

④ グローバル・サウス、特に20世紀の緑の革命の恩恵にあずからなかったアフリカに富の配分がなされるための、G7の取り組み。

⑤ ロシアのウクライナ侵攻が終結した後の世界における地球公共財の供給のための国際的ガバナンス体制を構築することを通じて、核軍縮を含む世界の安定化・自由貿易の広がり・温暖化防止・配分的正義を一体的に実現させるためのG7の取り組み。

まず①の論点において、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、第二次大戦後に築かれてきた国際秩序を根底から揺るがす暴挙であり、決して容認されることはないとの強い意志をG7は結束して示す必要がある。対ロシア制裁について、出口戦略も含めあらかじめ合意しておくことで、G7各国の足並みが揃い、制裁が最後まで実行力を持ち続ける。このことは、軍事侵攻終結後の世界において再びこのような悲劇が起きないための抑止効果を持ち得る。②の論点は、軍事侵攻終結後の世界において、世界の安定の鍵を握るであろう中国に関わるものである。③の論点は、ロシア産の化石燃料に依存しない安定した世界を構築することにも関わる。④の論点は、軍事侵攻終結後の世界において、2022年の国連におけるロシアへの非難決議に反対・棄権した国々も含んだ国際社会の融和を図るための論点である。⑤の論点は②~④に関わる取り組みを統合する方法に関するものである。

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フューチャー・デザインに基づくG7広島サミットへの提言 ~地球公共財のための国際的ガバナンス~