12月1日に始まった東京都議会の今年度第4回定例会で太陽光パネル義務化の条例案の審議が始まった。これに合わせ、義務化に反対する専門家および市民団体による記者会見を12月6日、都庁記者クラブで実施した。
東京都が条例化を検討している「太陽光パネルの新築住宅の設置義務化」について、反対する請願の概要を紹介した後、太陽光パネルの設置義務化のどこがどう問題なのか、各種専門家が人権問題、経済性、災害時の危険等の観点から明確に論じたものだ。
出席予定者は、請願提出者である筆者に加え、上田令子氏(都議会議員、地域政党自由を守る会代表、環境建設委員会 請願紹介議員)、有馬純氏(公共政策学者、東京大学教授)室中善博氏(技術士、技術士事務所代表)、山口雅之氏(市民団体、全国再エネ問題連絡会共同代表)、山本隆三氏(経済学者、国際環境経済研究所所長)だった。
記者会見の出席者。左から上田氏、筆者(杉山)、有馬氏、山口氏、山本氏
一時間にわたる会見の模様は、動画で見ることができる。まず冒頭、上田議員より、条例案の審議予定などについて簡潔な紹介があった。資料として、出席者プロフィール、発言要旨、請願提出の経緯などをまとめた文書が配付された。
次いで、筆者(杉山)から、9月20日に東京都に太陽光パネル義務化に反対する請願を提出したものの、誠意ある回答が全く得られなかったことを報告した。
そして、説明資料を用いて、改めて問題点を3点にわたり説明した。
《1 人権の問題:東京都は太陽光パネルを義務付けるとしているが、その太陽光パネルは世界シェアの殆どは中国製が占め、強制労働の疑いが強い。欧米は使用禁止の方向である。その一方で「事業者は人権を尊重すべし」と東京都は言うが、無理難題ではないか。東京都は事業者に責任を押し付けるのか? そのような義務付けが許されるべきか?
2 経済の問題:太陽光パネルの費用は電気代の形で国民全般が負担する。それは再エネ賦課金だけに留まらない。太陽光発電の本当の価値はせいぜい火力発電燃料の節約分しかなく、火力発電所や送電線等への投資を減らすことはできない。東京都は「建築主は元が取れる」と繰り返すばかりだが、その原資は国民全般の電気料金である。東京都はこの国民全般に付け回される負担について全く説明していないではないか。
3 防災の問題:江戸川区など江東5区においては大規模水害が想定されており、太陽光パネルの水没時には感電の危険がある。だが東京都は「まだ感電事故は起きていない」「水没時には専門家を呼ぶこと」などとするだけである。大水害で周囲一帯に太陽光パネルが水没しているときに悠長に専門家を呼べというのだろうか。それに「まだ事故は起きていない」から義務付けるというのは何事か。十分に想定されている範囲のリスクなのだから、よく安全を確認すべきである。》
次いで、有馬氏からは、太陽光パネルの義務化は、中国を利するだけであるとの指摘があった。気候変動に関する国際交渉において、日本政府代表団の高官として従事してきた氏の発言だけに重みがあった。
《世界最大の排出国である中国は、先進国向けに太陽光パネル、風車、バッテリー、電気自動車等を輸出し、途上国向けには石炭火力を輸出し、更にはロシア産の安価な石油天然ガスを調達することにより、世界的な脱炭素の動き、ウクライナ戦争いずれからも「漁夫の利」を得ている。……中国産の再エネ産品への依存度増大のみならず、太陽光パネルや風車などの変動性再エネや電気自動車の拡大による戦略鉱物への依存度拡大にも要注意である。石油の中東依存やガスのロシア依存とは別な意味での地政学的リスクをもたらすからだ。》
室中氏はあいにく都合が合わず出席できなかったが、要旨を筆者が代読した。室中氏は様々なエネルギー技術に現場で携わってきており、太陽光パネルの抱える問題も熟知している。
《太陽光パネル設置については、「2050年の脱炭素や気温増加1.5℃以内」と強調される事が多いが、東京都で太陽光パネルを設置しても、気温降下に対する効果は0.000X℃程度、ゼロに等しい。……貴重な税金を大量に投入しても効果はゼロに等しいのであり、最悪のコストパフォーマンスになる。……この補助金やFIT金の原資は多くの国民の税金や再エネ賦課金であり、これを収入の一つとして受け取り、パネルを設置した一部の都民が儲けるという構造になっている。合法的と言えるのかもしれないが、設置予定のない多くの国民にとっては不公平感が一杯、国民の分断を図る事業であると言っても過言ではない。
本事業では、中国製パネルや部品が輸入され、国内で組み立てられた後、「日本製」として納入されるものと考えられる。「屋根上のジェノサイド」とも揶揄される中国製パネルを頭上に設置して、その下で毎日暮らしていくというのでは、道義的かつ情緒的な問題を感じる都民が出てくるかもしれない。こうした事象の可能性も予見されるため、それが起きた場合の配慮義務違反(不法行為)についても、行政が問われるのではないだろうか?》
全国再エネ問題連絡会の共同代表を務める山口氏は、拙速なメガソーラー推進が引き起こした数々の問題が、拙速な義務化によって東京で再現されることに警鐘を鳴らした。また、問題は東京だけに止まらないことも指摘した。全国でメガソーラーが引き起こしている数々の問題と対決している氏の発言であるだけに切迫感があった。
《私達、全国再エネ問題連絡会は、昨年7月18日、メガソーラーや風力発電の建設に伴う土砂災害や景観被害、環境被害等を防ぐために、全国各地で反対している団体とネットワークを築き全国組織を結成しました。現在は全国47団体が加盟しています。
この設置義務化は、消費者である住民の意思に反して実質的に強制されることになりますから、当会として、東京都が進めようとしている太陽光パネル設置義務化が他の道府県にも波及しかねず、対岸の火事と傍観している訳にはいかないため同席させて頂くことになりました。
太陽光発電パネルには、環境、火災、感電、廃棄、ジェノサイドなどの深刻な問題があることは、各先生方からご指摘ご説明されているとおりと思います。
その問題点は、何一つ解決していないにも拘わらず、東京都は、強引に進めるのであれば、住民の「命や暮らしを守る」ことを使命とする地方公共団体の本旨に反し、更に言えば、東京都は、人の命や人権を軽視していると言っても過言ではないと思います。
東京都は、都民に数年で設置費用は回収でき、それ以降は収入になる旨説明されていますが、その原資は再エネ賦課金であり、都民以外も負担を強いられるわけで、加えて、ジェノサイド問題は、他の道府県の住民も、その意に反し間接的に加担させられることになりますから設置義務化に強く反対し再考を求めます。》
最後に、山本氏からは、経済負担について資料を用いた詳しい説明があった。商社でエネルギー事業に携わった経験があり、いまは経済学を教える氏からは、格差拡大の問題と、企業の負担について指摘があった。
《収入と持ち家比率は比例している。パネルを導入した家庭は、FIT賦課金額および送電線維持費の負担が減るが、その減少分はパネルを導入しない、あるいは(アパート、賃貸住宅などに居住するため)できない家庭が負担することになる。所得が高い世帯の負担が減り、低い世帯の負担が増えるので、格差を拡大させる政策になる。
家庭での賦課金額の負担は年間1万円を超えたが、真の問題は産業部門の負担額にある。表のとおり、賦課金額の負担額は鉄鋼業では従業員一人当たり年間50万円を超えると推測される。スーパー、デパートなどでも一人当たり10万円程度の負担だろう。G7中最低、韓国より平均賃金が低くなった国で格差拡大政策を導入することは許されるのか。》
引き続き、質疑応答も30分弱にわたり活発に行われた。会場には30人ほどの記者が詰めかけ盛況だった。記者会見の後には、6000名に近い「太陽光パネル義務化反対」の署名を、上田都議の案内で知事室に提出した。この署名は、小池都知事宛に提出した一都民としての筆者の請願書を引用する形で、上田都議が署名協力呼びかけ人となって集まったものだ。
東京都の太陽光パネル義務化には、これだけの専門家や市民団体の代表が反対している上に、多くの反対署名がある。都は提起された問題点をよく検討し、拙速な義務付けは撤回すべきである。