メディア掲載  エネルギー・環境  2022.04.26

IPCC報告の論点51:気候変動で食料生産が減っている?

アゴラ(2022年4月19日)に掲載

エネルギー・環境

前回に続いて、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読む。


今回のテーマは食料生産。以前、要約において1つだけ観測の統計があったことを書いた。

だが、本文をいくら読み進めても、ナマの観測の統計がとにかく示さていない。

唯一、漁獲量については下図があった。(図5.13

fig01_sugiyama.png

これを見ると、漁獲量はどんどん増えている!

ところがこの説明をする本文では「気候変動によって海洋の食料生産が悪影響を受けている」となっている。例えば以下の箇所:

これを読むと海洋の養殖は気候変動で悪影響を受けている、と書いてある。しかし、上図を見ると、海洋の養殖の漁獲量(Aquaculture productionMarine、図中の薄い茶色の部分)は「うなぎ上り」だ。

筆者は3000ページを超える本文を全部眺めたが、あらゆる農作物生産について、「気候変動が悪影響を及ぼしている」という記述が無数にある。

だが、下記のような生産量の統計の図は、ついに報告のどこにも見当たらなかった。

技術進歩のペースが上回り、世界の食糧生産は増加の一途である。気候変動による陰りなど見られない。

fig02_sugiyama.png

図は拙著「地球温暖化のファクトフルネス」より

まず観測・統計データを確認するという基本が、なぜ守られていないのだろうか。


1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。