前回に続いて、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読む。
今回は2章「陸域・水域の生態系」。
要約と同様、ナマの観測の統計がとにかく示されていない。
川や湖の水温が上がった、といった図2.2はある(図はここでは省略)が、これ自体は環境影響と呼ぶようなものではない。
唯一あった環境影響の統計データの図は、図FAQ2.3.1だ。(FAQは「よくある質問」の意味)。
この図の右側はアメリカ西部の山火事の面積を示している。
「気候変動が無い場合」が薄いオレンジで、「気候変動が在った」ために、それに濃いオレンジの分だけ焼失面積が増えた、としている。
ただしこの「気候変動が無い場合」というのはシミュレーション計算の結果なので、本当の意味の観測データはこの両者を足した部分になる。(シミュレーションについては別途詳しく論じる)。
これを見ると、「おお、山火事の面積がどんどん増えている、大変だ!」となりがちだが、じつはこの図には大問題がある。
図の説明を読めば分かるが、これは「累積の(cumulative)」の面積なので、年々増えるのは当たり前なのだ! 大変に誤解を招きやすい図である。意図的に誤解させようとしているのではないかと勘繰りたくもなる。
それでも山火事は増えているが、この図2.3.1が与える印象よりは、ずっと緩やかだ(下図)。
因みに、米国の山火事は、1930年前後のほうが遥かに多かった。
こうしてみると、図FAQ2.3.1が、いかに間違った印象を与えるかが分かるだろう。
図 米国における山火事による森林燃焼面積(Alexander, 2020)。データは米国政府による。参考迄に日本の面積は93(100万エーカー)である。
出典:「地球温暖化のファクトフルネス」より
1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。