メディア掲載 グローバルエコノミー 2022.03.17
Le Mondeに掲載(2022年2月18日)
キヤノングローバル戦略研究所 英文サイトに掲載(2022年3月7日)
セバスチャン・ルシュヴァリエ:社会科学高等研究院(EHESS)教授、日仏会館・フランス国立日本研究所(UMIFRE 19)研究員、キャノングローバル戦略研究所インターナショナルシニアフェロー
この記事はアジア経済に関する月1回のコラムシリーズの1本として、2022年2月18日付けの仏ル・モンド紙に当初掲載されたものである。原文は以下のURLからアクセスできる:(翻訳:村松恭平)https://www.lemonde.fr/idees/article/2022/02/18/au-vietnam-la-croissance-aux-depens-de-l-environnement_6114275_3232.html
ベトナムの目覚ましい経済成長は二酸化炭素(CO2)の排出を急増させたが、この国の近代化はその問題をたいして緩和していないとセバスチャン・ルシュヴァリエはル・モンド紙の記事のなかで指摘している。
1986年に経済改革「ドイ・モイ」が始まって以降、ベトナムの国内総生産(GDP)の年平均成長率は5%を超えている。しかし、この成長は急速な環境破壊を引き起こした(Foreign investment, economic growth, and environmental degradation since the 1986 « Economic Renovation » in Vietnam, Duc Hong Vo and Chi Minh Ho, Environmental Science and Pollution Research, 2021)
この結果は、成長による環境への負の影響は一定の成長率の値を超えると特に海外直接投資(FDI)を通じた生産効率の向上によって小さくなる、という楽観的な予測に反しているように見える。
この予測は数多くの研究の対象にはなったが⋯⋯調査された国や時期に応じて結果はさまざまだ。それゆえ、このベトナムのケースはこの点についてよりよく理解するために特に興味深い。
ベトナムの1986年以降の経済成長は、化石燃料消費とCO2排出を著しく増大させた。どちらも15倍増えたのに対し、GDP成長率のほうは「たった」9倍だった。この成長は、大量にもたらされたFDI——1986年から87年にかけては250倍、その後、1987年から2019年にかけては1,500倍増加した!——の恩恵を受けた。
では、経済開放と貿易自由化によって促進されたFDIは、成長による環境への負の影響をテクノロジーの海外輸入によって小さくすることにいずれ寄与するとこれからも考えるべきか? あるいは、成長が鈍化するのを覚悟してFDIを制限すべきか? ベトナム政府はこのジレンマに直面している。
この問いに答えるために、ベトナムの二人の経済学者ヴォ・ドゥック・ホン(Duc Hong Vo)とホー・チ・ミン(Chi Minh Ho)は、短期的な影響と長期的な影響を区別し、エネルギー消費を二つのカテゴリー(化石エネルギーと再生可能エネルギー)に分け、FDIの環境への影響を調べながら、一人当たりGDPとCO2排出との間の関係の変化(1986年〜2018年)を分析した。
要約すると、この国が豊かになるにつれて環境破壊は(後退するのでなく)進行する傾向にあると彼らは証明した。さらに、FDIがこのプロセスを短期的に鈍化させるのに寄与するとしても、長期的にはそうはならない。というのも、より高度なテクノロジーが環境汚染を緩和するとしても、生産の増大が後になってこの利点を消し去るからだ。
最後にこの研究は、FDIそれ自体がエネルギー移行を促進するわけではないだけに尚更、化石燃料消費が成長のあらゆる段階で多大な負の影響をもたらすことを立証している。これらの結果により、次の二つの方向性への積極的な政府介入が明らかに求められる。
一方では、財務・テクノロジー・雇用面だけでなくエコロジー面の基準からも、海外投資プロジェクトを選別すること——これについては、ハティン省[ベトナム北中部]で生態系の大規模破壊が生じてからすでに行われている。そこではある台湾企業グループの製鋼所が排出した廃棄物により、この地に生息する海洋動物が大量死した。
他方では、化石燃料への依存を減らすために、ベトナム政府はより急速なエネルギー移行を推進しなければならない。現在の目標では、エネルギーミックスに占める再生可能エネルギー(主に水力発電で、太陽光・風力発電も含まれる)の割合を2030年までに3分の2まで引き上げるとしている。