ワーキングペーパー  グローバルエコノミー  2022.02.16

ワーキング・ペーパー(22-001E)What drives fluctuations of labor wedge and business cycles? Evidence from Japan

本稿はワーキング・ペーパーです

経済理論

「労働ウェッジ (labor wedge)」は労働市場の非効率性や歪みを表す指標の一つであり、一定の仮定の下で、生産・消費・労働供給のマクロデータから計測される。この労働ウェッジは、不況時に悪化することがよく知られており、景気循環を理解する鍵として注目されている。しかし、これまで労働ウェッジの変動がどのような要因で起きているかについて、また、景気循環の変動要因との関係について分析した研究はほとんどなかった。

そこで、本研究では、①労働ウェッジの変動をもたらす主な要因は何か?また、②労働ウェッジの変動をもたらす主な要因は、景気循環の変動要因と同じか?について、分析を行う。不況や好況のメカニズムを理解する上で労働ウェッジが重要な変数であるならば、景気循環をもたらす要因と労働ウェッジの要因が同じであるはずである。

本研究では、標準的かつ中規模な動学的確率的一般均衡 (DSGE)モデルを用いて、どの構造ショックが労働ウェッジと景気循環の変動をもたらすかを、日本のデータを用いて推定する。モデルでは、名目価格や名目賃金の価格硬直性、消費の習慣形成、設備投資の調整費用、資本ストックの稼働率など景気循環を考えるうえで重要とされる要素が考慮されている。本研究の新しい特徴の一つは推定方法である。DSGEモデルを用いた従来のベイズ推定では、構造ショックの標準偏差に対するパラメータの事前分布は逆ガンマ分布を用いる。これは標準偏差がゼロである可能性を排除しており、構造ショックの存在を仮定してしまっている。しかし、存在しない構造ショックをアドホックに仮定することは推計結果に悪影響を与えかねない。そこで、本研究では、構造ショックが存在しない可能性を許容するために、構造ショックの標準偏差のパラメータに関してより柔軟な事前分布として正規分布を採用する。

主要な結果は以下の通りである。事前分布を逆ガンマに設定した従来の推計方法での結果を見ると、景気循環をもたらす構造ショックの中では投資の調整費用ショックが最も重要であるのに対し、労働ウェッジの変動は家計の効用関数の割引率を変動させる選好ショックや一時的な技術ショックによって生じることがわかった。一方で、本研究で用いた構造ショックが存在しない可能性を考慮した推計による結果をみると、労働ウェッジも景気循環も、主に恒久的な技術ショック(全要素生産性の水準を変動させるショック)と投資調整費用ショックによって変動していることがわかった。本研究の結果は、景気循環と労働ウェッジは同じ構造ショックの変動によってもたらされており、労働ウェッジは景気循環の変動を理解する上で重要な変数であることを示している。


本稿は "What drives fluctuations of labor wedge and business cycles? Evidence from Japan" CIGS Working Paper 20-006E に、新たな研究成果を加えて、大幅に改定・修正したものです)

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