IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。
今回は理系マニア向け。
「温室効果って、そもそも存在するのか」と言うご質問を頂いた。そこで今回は、数式たっぷりの、その方面の人には詳しく書いてあって解りやすい論文があったので紹介する。お好きな方はぜひ原文(無料)にチャレンジを。
van Wijngaarden, W. A., & Happer, W. (2020). Dependence of Earth’s Thermal Radiation on Five Most Abundant Greenhouse Gases.
気体の分子は、光を放射・吸収して、振動・回転する。運動するとドップラー効果もある。大気中の分子のこれらの放射・吸収をことごとく積分すると、図1のようになる
図1
横軸は光の振動数ν、縦軸はエネルギースペクトル密度。青線は地表からの黒体輻射。
f=1の黒線が、現在の大気の組成における地表から宇宙への輻射である。青線より低くなっているのは、分子による吸収があるから。もっとも大きい吸収はH2Oの寄与。
CO2だけ濃度をゼロにするとf=0の緑の線のようになる。CO2も結構多くのエネルギーを吸収していることが分かる。これが現状のCO2による温室効果だ。
CO2濃度を2倍にするとf=2の赤線のようになる。黒線とほとんど重なっているのは、吸収が飽和しているためだ。
図2はメタンについて同様に書いたもの。はやり現状から2倍にするところでは飽和していて殆ど黒と赤の線の区別がつかない。
図2
ということで、CO2もメタンも図で見ると温室効果はすでに現状の大気でかなり飽和している。
ただ、それでもなお、CO2を2倍にすると3.0W/m2の温室効果があり、メタンを2倍にすると0.7W/m2の温室効果がある(下表、説明は略)
このように、CO2とメタンは地上からの黒体輻射を吸収する温室効果がある。それは濃度とともに飽和傾向にはあるが、いまなお、濃度上昇をすると追加の温室効果が生じる。
以上のように、CO2やメタンに温室効果があるのは本当。
ただし、これがどのぐらい地球の気温上昇に寄与するか、というのは別の大きな問題になる。大きく寄与するという意見もあれば、ほとんど寄与しないという意見もある。
1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。
次回:「IPCC報告の論点㉞」に続く