IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。
以前、IPCC報告の論点㉙:縄文時代の北極海に氷はあったのかで、IPCC報告の図(図1として以下に再掲)では北極の海氷が減っていて、南極の海氷は増えていると書いた。だが、地球全体の海氷の図は無かった。
図1
一方で、米国航空宇宙局NASAによると海氷の面積は変わっていない、とする記事が出た。
これによると、地球全体での海氷面積は図2のようになっている。縦軸は地球全体の面積に対する比率、直線は全期間での回帰直線である。
図2
北極では海氷面積は下がってきているが(図3)、
図3
逆に南極では大幅に増加している(図4)。その合計で、地球全体ではほとんど横ばいだったということだ。
図4
あれ? IPCCのレポートも3つのデータセットのうち2つはNASAだから、おなじデータを見ているはずだが...
そう思ってIPCCの図1を見ていると、3つ気づいた。
第1に、南極と北極の合計の図が無い。合計すると、少なくとも2015年ごろまでは、地球全体では海氷面積がほぼ一定という図になったはずだ。
第2に、IPCCのグラフは回帰直線が書いていない。代わりに、観測の初めの10年と終わりの10年の平均だけを書いている。
第3に、IPCCは特定の月だけ取り出しており、通年で図を書いていない。
つまり、IPCCのデータでも、南極と北極を合計して、通年でデータをとり、回帰直線を書けば、海氷は減っていない、と言うグラフになったのではないか?
合計しなかった理由は何か。回帰直線ではなく10年平均を書いた理由は何か。通年でデータを書かなかった理由は何か。
1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。
次回:「IPCC報告の論点㉟」に続く