メディア掲載  エネルギー・環境  2021.10.26

中国だけが得をする≪国連気候会議COP26≫

Daily WiLL Online HPに掲載(2021年10月24日)

エネルギー・環境

来る1031日から英国グラスゴーで国連気候会議・COP26が開催される。おそらく膠着状態となり、成果も薄いだろうと考えられているが、ただ一つの国が利をかすめ取ってしまう恐れがある。中国だ。習近平は9月に「海外の石炭火力発電事業への資金提供を止める」と発表し、先進各国の称賛を受けた。しかし具体的な内容は無く、いつから止めるかなどは明確にされていない。にもかかわらず、COP26が近づくにつれ欧米の政権は、さほど中国の体制を非難しなくなった。このような形で、COP26の裏では「気候変動」を人質に取り、先進各国を操る中国の姿が予想されるのだ


成果が見込めなかったはずのCOP26だが…


来る1031日から英国グラスゴーで国連気候会議が開催される(正式名称は気候変動枠組み条約第26回締約国会議)。交渉は膠着状態で事実上は何の成果もなさそうだが、中国だけは最大限の利益を得ることになりそうだ。

今年は米国バイデン政権、ドイツメルケル政権、フランスマクロン政権、イギリスジョンソン政権、それに日本の菅政権、と、脱炭素に熱心な政権がたまたま出揃った。そしてこの4月に米国が開催した気候サミットでは、G7諸国は軒並み「2030年にCO2半減、2050年にはゼロ」を宣言した。

ただし、中国をはじめ、新興国はそのような宣言をしなかった。それで今度のグラスゴーでの会議ではG7が新興国に同様な宣言を求めるという構図にはなっているが、新興国が応じる気配はない。

まあ、G7も言っているだけで実行不可能であるのみならず、欧州ではすでに無理な再エネ依存の政策が祟ってエネルギー価格の高騰が政治問題になっている。早晩、G7の無謀な数値目標は問題視され、見直しが入るだろう。

かかる状況で、新興国が経済成長の足かせになるような宣言をすることは馬鹿げている。G7が圧力をかけるなどといっても、説得力も政治力も無く、新興国は譲ることはなさそうだ。

ということで、事実上は何の成果も無い会議になりそうなのだ。


中国の助け船


ところがここで、中国が助け船を出した。

習近平は先月、「海外の石炭火力発電事業への資金提供を止める」と発表した。さてこの理由は何か?

まず中国は大いに感謝された。COP26の議長であるアロク・シャルマは「習近平国家主席が海外での新規石炭プロジェクトの建設を中止すると約束したことを歓迎する。これは私が中国を訪問した際に議論した重要なテーマだった」と述べた。米国の気候変動対策特使であるジョン・ケリーは「素晴らしい貢献だ」と言った。最近すっかり嫌われ者になった中国に最大級の賛辞が送られた訳だ。

だが実際のところ、習近平は実質的にはまだ何も譲歩していない。習近平は具体的に「いつ」資金提供を止めるのかを言っていない。中国が着手した石炭火力プロジェクトは2019時点で7000万キロワットもあったが、これを止めるとは言っていない。これは日本の全石炭火力4800万キロワットより遥かに多い。また「どの」資金提供を止めるかも言っていない。公的なものだけなのか、民間を含めるのか。プロジェクトファイナンスだけを対象にするのか、否か、などだ。実質的に何を本当に止めるのか、まだ全然分からない。

その一方で、国内では、いま中国は世界の石炭の半分を燃やしており、ますますこれは増える。中国には、日本の20倍以上の10億キロワットの石炭火力発電所があり、毎年、日本の全発電設備容量4800万キロワットに匹敵する大量の発電所が建設されている


「気候変動」を人質にとる中国


それにも関わらず、欧米の政権はここのところ、温暖化問題に限らず中国に好意的であり、中国の体制を非難しない。なぜだろうか?

中国は国連気候会議をフル活用しているのだ、と英国貴族院議員のマット・リドレーは述べている

“グラスゴーでの協力を中国に求めるために、英国と米国はどのような譲歩をしたのか? それは有益な譲歩なのか?

習近平の今般の発表の数週間前に、バイデン政権が、ウイルスが武漢の実験室起源かどうかは「分からない」とした報告書を発表したのは偶然だったのだろうか?

米国のバイデン大統領、ハリス副大統領、ケリー特使は、最近の人権に関するスピーチで、中国について言及することを慎重に避けている。なぜか?

香港で自由が弾圧されているのに、英国が黙っているのは偶然だろうか? 

内容不明な「海外石炭事業の停止」宣言によって、事実上何の成果も無いであろう「国連気候会議が「成功」したと演出してみせることで、中国は数々の譲歩を引き出したのではないか?

私は、明白に宥和政策があったと言っているわけではない。だが中国のリップサービスを頼みの綱にしてしまっている英米が、このタイミングにおいて、他の案件で中国を厳しく批判できるとは思えない。中国はもちろんこの機会を最大限利用する。こんなゲームをすることは有益なのだろうか。

いま中国は、かつての英国のお株を奪って「分割統治」を仕掛けている。つまり米国と豪州には敵対する一方で、英国には愛嬌を振りまいている。

中国共産党の機関紙「環球時報」は先月、米国は「不安定で支配的」であるが、英国は「協力的で従順だ、と書いている。“

中国はこの願っても無い美味しい構図を継続させようとするだろう。もしも気候変動会議の結果、「グラスゴーアクションプラン」が合意されて「継続的に中国と協議する」などとなったら、今後何年間も同じような譲歩を続けることになるのだろうか。

「気候変動」を人質に取られ、より現実の危機として差し迫っている中国の人権侵害問題やパンデミックの責任追及を見逃すことになれば、G7は迂闊にも中国の術中に嵌ったと言わざるを得ないであろう。