IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。
前回に続き、以前書いた「IPCC報告の論点③:熱すぎるモデル予測はゴミ箱行きに」の続報。
過去の気温の再現について、気候モデルは、地表近く(2m)では観測値との一致は割と良いが、上空1万メートル程度までの大気(対流圏と呼ぶ)を見ると、一致が悪い。
このことは以前から指摘されていたが、今回、改めて確認された。
図は、モデル計算(赤)と複数の観測値(黒)を比較したもの。(青は海面温度を固定したモデル計算だが本稿では説明を割愛する)。
さてモデル計算(赤)は観測値(黒)よりも明らかに右側に外れている箇所がいくつもある。とくにa)とc)には多い。これはモデルのクセであることをIPCC報告も(あまり気が進まなさそうではあるが)認めている。
そしてこの差はかなり大きい。a)とc)ではモデル計算と観測値の差が0.3かそれ以上ある箇所がある。10年あたり0.3℃だから、100年あたりだと3℃ということになる。
過去の地球温暖化が1℃で、今後1.5℃か2℃の温暖化を議論しようというときに、これだけモデルと観測に差がある訳だ。
なお以上は熱帯についてだけの図であったが、同様なモデルにおける対流圏の「加熱」は地球全体に及んでいることも指摘されている。
IPCC報告は、一方ではモデルにこれだけ問題があることを認めながら、他方ではそのモデルによる予測を滔々と説明している。だがこの予測は信頼に値するのだろうか?
モデルにこれだけ問題があれば、本来なら、予測結果はいったん取り下げて、やり直すべきではないか? 衛星観測の第一人者である元NASAのジョン・クリスティはそう主張している。
1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。
次回:「IPCC報告の論点⑬」に続く