メディア掲載 エネルギー・環境 2021.09.10
Daily WiLL Online HPに掲載(2021年9月8日)
退任を表明した菅総理。政権1年の間に成し遂げた政策も多かったが、特に力を入れていた「脱炭素」については、実に"左傾化"したエネルギー政策であったと言わざるを得ない。しかし、自民党が新たなリーダーを選ぶことになった今こそ、まさにその左傾化を見直す好機なのだ。そのために必要なポイント5点を挙げる―
菅総理の退任表明により一気に政局が混沌となり、根本的な政策論争の時機になった。
様々の論点があるものの、重要な論点の1つとしてあげたいのが、今後のエネルギー政策だ。すなわち、菅政権の下ですっかり「左傾化」したエネルギー政策を、どう国益に沿うように叩き直すか、ということに着目したい。
菅政権は昨年秋の所信表明演説で「2050年CO2ゼロ」つまり「脱炭素」を宣言し、今年4月には「2030年までにCO2を2013年比で46%削減」すると宣言した。これは従来26%だったところを一気に20%も深堀したものだ。
これにより、日本のエネルギー政策は「脱炭素」一色となった。
数値目標は、従来は関係省庁や産業界と審議会などの場で意見交換をして合意してきたが、そのプロセスは飛ばされてしまった。
これはよく言えば「高い環境目標を掲げた官邸主導」だが、悪く言えば、「経済成長と安定供給などの国益を無視した官邸の暴走」である。
いまの日本のCO2削減量は2013年比で13%だから、46%といえば今から33%も僅か9年で削減することになる。2013年は原子力発電が全て止まっていた年であり、これを全て再稼働させても26%までの削減がやっとであると見られていたところ、極端な目標の深堀りとなった。
上記のような状況を述べただけでも、このような目標は実現不可能であることが分かる。のみならず、強引に目指すならば経済は破綻し、安全保障も損なわれる。
※参考書籍:「脱炭素は嘘だらけ」(産経新聞出版)
菅政権の下で、この数値目標はエネルギー基本計画案に書き込まれた。同案は、今後閣議決定される予定になっているが、新政権の発足を機に根本から見直すべきだ。
では見直すとして具体的にどうすべきか、ポイントを述べよう。
現行のエネルギー基本計画案は、無謀な数値目標を設定した一方で「環境と経済の好循環」「グリーン成長」を達成するなどと、綺麗ごとを言っている。
現実には、環境と経済の対立関係(環境対策に力を入れるほど国民の負担が増し、必然的に景気は下降してしまう)は厳然と存在する。それをどう踏まえて政策に反映するのか、これを書かないのは国民を欺く行為である。
ここははっきりと、「脱炭素政策によって新たな経済負担を国民に課さない」と公約すべきだ。そして、エネルギー基本計画においても、経済負担を抑制するための具体的な制度を設計すべきである。
現行のエネルギー基本計画案に従えば、今後10年の間に、莫大な量の太陽光発電パネルが設置されることになる。
だが、いま世界の太陽光発電パネルの8割は中国製であり、5割は新疆ウイグル自治区で生産されている。その生産にあたっては強制労働等のジェノサイドとの関係が疑われており、米国は現に輸入を禁止している。
すなわち現在の太陽光パネルは、残念ながら、屋根の上のジェノサイドと呼ぶべき状態にあるのだ。当然、ジェノサイドの関与が疑われている製品の輸入はもちろん禁止すべきである。
ジェノサイドとの関係が明確でない製品についても、安全保障の観点から徒らに中国依存を高めるような政策は改めるべきである。
世界の主要国は、安全を確保しつつ、原子力発電をきちんと利用している。脱原子力に突き進んでいるのはドイツなどのごく少数の国だ。
だが日本は、技術力は高いにも関わらず、既存の原子力の稼働すらろくに出来ていない。これは日本の統治能力、政治能力の弱さに他ならない。今こそ政治的なリーダーシップが必要だ。
やるべきことははっきりしている。まず何よりも「原子力を推進する」ことを宣言し、政治的な覚悟をはっきりさせることだ。
具体的には、再稼働を可能な限り早期に進め、リプレース・新増設に着手すること、そして小型モジュール原子炉(SMR)などの更に安全・安価な原子炉技術開発を重点化することだ。これにより日本は脱炭素政策を、空想的かつ自滅的なものではなく、現実的で国益に沿ったものにできる。
原子力を基軸に据えることで、安定して安価な電力が供給できる。これは経済成長をもたらし、財政を健全化して、日本の国力を高めることにつながる。加えて、太陽光発電などで中国依存を高める必要もなくなる。
4つ目は、防災に投資を惜しまないことだ。実際にきちんと防災投資をしたおかげで、災害を免れた例が相次いでいる。
令和元年の東日本台風は、カスリーン台風(1947年に関東地域に甚大な被害をもたらした台風)の再来と評価されるほどの多くの雨を降らせた。だが八ッ場ダムなどを整備したおかげで、東京は大きな災害を出さなくて済んだ。
米国でも、この8月にハリケーン・アイーダが襲来したが、ルイジアナは水没を免れた。これもハリケーン・カトリーナの大被害を教訓として、きちんと防災投資をしたおかげだった。
「台風が地球温暖化のせいで激甚化している」というのはフェイクニュースであり、統計を見れば台風は強くなってなどいない。むしろ、1950年代ごろに比べると、ここのところ日本には強い台風は来なくなった。だが、だからこそ、油断大敵であり、きちんと防災投資をしなければならない。
※参考書籍:『地球温暖化のファクトフルネス』
公共事業が悪者扱いされ続けた結果、日本の防災投資の水準は低いままになっている。必要な防災投資を行い被害を防止することは、人命や財産を守るのみならず、経済成長の基礎でもある。
「2050年CO2ゼロ」「2030年にCO2を半減」といった数値目標は、じつは科学的根拠は極めて乏しい。災害の激甚化など起きていないし、将来予測も不確かだ(参考書籍:『地球温暖化のファクトフルネス』)。この数値目標は環境運動で推進され、リベラル志向の西欧諸国と米国民主党がそれに乗り、菅政権も擦り寄ったのだ。
また、この数値目標には実現可能性も全くない。これは世界のどの国も同じだ。
しかし、日本での報道等を見るとつい勘違いしてしまうが、脱炭素は世界の潮流などではない(参考書籍:『脱炭素のファクトフルネス』)。
米国では共和党や石油・ガス産出州が反対するから、大規模なCO2規制は出来ない。中国もインドもエネルギー消費量を増やし続けている。ドイツのエネルギー政策は破綻している。原子力、石炭、風力など、あらゆるエネルギー技術を否定した挙句、結局ロシア頼みのガスパイプラインを今頃必死になって引いている。
日本はよくこの世界の状況を見て、数値目標は、実現する必要も無ければ、実現することは不可能であることを理解すべきだ。
エネルギー基本計画においては、現行の数値目標は飽くまでも努力目標に過ぎないことを明記すべきだ。その上で、現実のエネルギー政策に資するために、異なるCO2排出量を持った複数のシナリオを追加で策定すべきである。