メディア掲載 エネルギー・環境 2021.07.26
Daily WiLL Online HPに掲載(2021年7月15日)
菅首相・小泉環境相の下、脱炭素のためとして太陽光発電の導入に邁進する政府。先日「太陽光発電は最も安くなった」という試算が示されたが、本当だろうか。経済負担以外にも、太陽光発電には深刻な問題が山積しており、このままでは≪屋根の上のジェノサイド≫が起きかねない。データを真摯に検討し、政府は導入政策を白紙から見直すべきではないかー
過日、「政府試算によると2030年には太陽光発電が最も安くなった」と一斉に報道された(テレビ朝日記事「2030年時点の発電コスト 太陽光が最安に 原子力を初めて下回る」、NHK記事「2030年時点の発電コスト 太陽光が最安に 原子力を初めて下回る」)。
同試算によると、2030年に発電所を新たに建設した場合を想定した1キロワットアワー当たりのコストは、
▽事業用の太陽光で8円台前半から11円台後半
▽原子力は11円台後半以上
▽LNG火力は10円台後半から14円台前半
▽石炭火力は13円台後半から22円台前半
となっている(図)。
via 経産省資料
だが、同じ1キロワットアワーでも価値が全く違うので、この比較はじつは全く意味が無い。電気は欲しいときにスイッチを入れて使えるからこそ価値があるのだ。太陽光発電は太陽が照った時しか発電しないので、このコストは「押し売り価格」となり、原子力や火力発電は欲しいときに使えるので「買いたい価格」なのである。つまり、同じ条件での比較になっていないのだ。
そして、太陽光発電の設備を建設しても、太陽が照っていない時のためには火力発電の設備はやはり必要だから、太陽光発電は必然的に二重投資になる。
のみならず、送電線も補強しなければならないし、大量に導入すると、太陽が照った時に一斉に発電して余った電気は捨てることになる。
以上のことは先のNHK記事には申し訳程度に付け足されているが、テレビ朝日記事は無視している。もともとの政府資料には一応書いてあるが、これまた、いかにも太陽光が一番安いかのように、誤解を招くまとめ方になっている。
「太陽光発電の大量導入」なる政策を正当化したい、という政府の思惑が透けて見える。
しかし、縷々述べた様に、太陽光発電の価値は、せいぜい火力発電の燃料を焚き減らすぐらいしかない。世界諸国が脱炭素に向かうことを想定した世界エネルギー機関IEAの「ネットゼロシナリオ」では2030年の天然ガス価格は1キロワットアワーあたり2.6円だ。太陽光発電の価値は実際はこの2.6円程度しかない。到底、コストに引き合わない。
将来ではなく、実績はどうかというと、太陽光発電等の固定価格買取制度の下で、いま賦課金による国民負担は年間2.5兆円に上っている。だがこれはCO2を年間2.5%減らしているに過ぎない。つまり1%のCO2を減少させるために1兆円もかかっている。2.5兆円といえば平均的な3人世帯当たりだと6万円であり、年間12万円の電気代が事実上1.5倍になるほどの国民負担になっている。
莫大な経済負担の他にも、今の太陽光発電は問題だらけだ。
・中国製の太陽光パネルはウイグルでの強制労働の疑いが濃厚。このため、米国は中国製品の輸入を事実上禁止した。
・施工の悪い太陽光パネルは全国で土砂崩れを引き起こしている。熱海の土石流との因果関係も疑われ調査中。
・広大な面積の森林・農地を破壊し、景観や生態系を損ねている。
「これからは太陽光発電は安くなる」という政府試算は、これまでの価格低下の傾向を延長した結果で得られている。しかし、太陽光発電は唾棄すべき理由で安くなったのだ。
すなわち、太陽光パネルの心臓部である結晶シリコンは、世界の生産の8割が中国であり、内6割はウイグルであるのだ。中国製品が世界を席捲したのは低価格によるが、その背景には強制労働、石炭火力発電による安価な電力、緩い環境規制がある。もし米国並みに中国製品を排除すれば、太陽光パネルのコストは2倍になるという。
このような太陽光発電の現状を鑑みれば、太陽光発電の過剰な推進は「屋根の上のジェノサイド」と言えまいか。
土砂災害、環境破壊、経済負担などの問題も山積している。太陽光発電の導入政策は、白紙から見直すべきであろう。