前回、環境白書は、観測データの扱いが不十分で、「気候危機」を唱える根拠を示していない、と指摘した。
今回は「気候危機」を訴えるマップについて見てみよう。こちらも、データを示すというより印象操作になっており、明白な問題がある。
統計を見ると、台風は増えても強くもなっていないことが一目瞭然である。環境白書にこれを掲載しないのは、気候危機というレトリックに不都合な真実だったからではないか、と勘繰られても仕方無いのではないか。
環境白書には、マップ形式でデータを示している図が2つある。順に見てみよう。
環境白書には、異常気象が多発している、ということが繰り返し書いてある。そして、図1のようにエピソードがまとめてある:
まず指摘したいのは、このような異常気象マップは、作ろうと思えば、例えば50年前でも何時でも作れるものであり、「異常気象が多発するようになった」ということの証拠にはならない、ということである。「多発するようになった」というのであれば、後述のような統計で示すべきであるが、それが無い。
さてこの図では、地球全体が赤く染まり、僅か20年~30年の間に随分と地球が暑くなったように見える。
2019年は、エルニーニョもあり、確かに気温は高かった。けれども、2019年の平均気温と1981-2010年の平均気温の差は、下記図2の気象庁のデータを見るとせいぜい0.5℃程度である。0.5℃の違いを体感できる人は殆どいないだろう。灼熱地獄のような真っ赤な絵で印象操作をするのは如何なものかと思う。
そして、もっと看過できない問題点として、この図1はフェイクと呼ばれても仕方のない操作をしている。
図1を見ると、かなりの領域が赤く塗られていて、地球平均で1℃か2℃、ないしそれ以上の気温上昇が起きているような印象を受ける。
だが、そんなに平均気温が上がったはずがないから、何かがおかしい。それで気が付いたが、この年は寒かったアメリカ、カナダ、インドネシアなどの広大な地域が、字幕で隠されている!
確認しよう。図3は、別の論文にあった、環境白書と同じ2019年の平均気温の図である。ここでははっきりと、アメリカ、カナダ、オーストラリア、インドネシアは寒くなっている。(なおこの図では緑が暑い場所、青が寒い場所である。また、比較対象は環境白書と異なり、直近の10年間であることに注意。ただし図の大体の傾向は一致している)。
図3 直近10年間と比較した2019年の平均気温(Humlum, 2019)
じつは、図1の環境白書の図の赤い部分の高い気温は、大半が自然変動によるものだ。気象は年々自然変動している。ジェット気流が蛇行したり、気圧配置が変わったりして、年々、暑い場所があったり、寒い場所があったりする。それで2℃ぐらい平均気温が上がったり、下がったりすることは普通に起こる。特にこの年は、日本でも欧州でも暑かったが、北米等はそうではなかった。
色合いについても、真っ赤に塗るか、緑に塗るかで、全く印象が異なることが、図1と図3を比較するとよく分かる。
環境白書がやっていることは、寒かったところを字幕で隠して、暑かったところだけを赤く塗って示す、ということだ。これは、政府の白書が観測データを示す方法として、適切とは言えない。
環境白書にあるもう1つのマップは、食料生産についてのものだ。本文を読むと、「気候変動によって生じる大雨や干ばつ等により、私たちがこれまで大地から受けてきた恩恵、とりわけ食料生産がこれまでどおりにはいかなくなる可能性があります」とした後で、将来に食料生産が低下するというシミュレーションの話が延々と続く。だが、このシミュレーションは不確かなものだ(詳しくは、拙稿を参照されたい)。
ではどうなっているかというと、下図4が何の説明もなく掲載してある(p16):
だがいったいこの図を見せて、何を言いたいのか理解に苦しむ。これを見て、赤くなっている部分があるから、食糧危機だと言いたいのだろうか? この赤くなっていることが、地球温暖化と何か因果関係があるかどうかすら、全く記述が無い。
むしろ目を引くのは、この図が緑一色なことだ。つまり、殆どの地域では生産性は増加するか安定している。これはひとえに農業技術進歩の御蔭であろう。これを見て、気候危機が迫っており、食料生産が危機に瀕しているなどと読み取ることは到底できない。
環境白書には、容易に入手できる観測データすら掲載されていない。例えば「台風」「激甚化」と繰り返し書いてあるが、台風の統計データが全くない。
ではどこにデータがあるかというと、日本政府が別途まとめた資料には、きちんと掲載されていて、台風は増えてもいないし強くなってもいないことも記述されている:「2016 年の台風の発生数は26個(平年値25.6個)で、平年並であった。1990年代後半以降はそれ以前に比べて発生数が少ない年が多くなっている(図5上)ものの、1951~2016 年の統計期間では長期変化傾向は見られない。「強い(最大風速 33m/秒以上)」以上の台風の発生数や発生割合の変動については、統計期間を台風の中心付近の最大風速(10分間平均風速の最大値)データが揃っている1977年以降とする。「強い」以上の勢力となった台風の発生数は、1977~2016年の統計期間では変化傾向は見られない(図5下)」。
環境白書とは、本来は、まず丁寧にこのような統計データを示すべきだ。そうしないと、読み手が客観的に環境の現状を把握できないからだ。今回の環境白書の出来の悪さを見るにつけ、台風の統計データを掲載しないのは、気候危機というレトリックに不都合な真実だったからではないか、と勘繰られても仕方無いのではないか。