コラム  財政・社会保障制度  2020.07.17

続6・新型コロナウイルス感染症との闘い ― 再び東京都「感染拡大警戒」の今、何をなすべきか

医療政策 新型コロナウイルス

コロナ感染拡大の第1波はとりあえず収束するかに見えた。しかし、6月下旬から東京都を中心に新規陽性者数は増加傾向に転じ、7月9日から過去最高の4日間連続200人超えを記録し、遂に7月15日東京都の小池知事は「感染拡大警戒」を呼びかけた。再び社会に不安が広がっている。

そこで、これまでキヤノングローバル戦略研究所の研究主幹として、医療技術評価の観点から新型コロナウイルス感染症との闘いについての提言を行っている東京大学公共政策大学院特任教授 鎌江伊三夫氏に、この「感染拡大警戒」の事態をどうとらえるか、制限緩和は続けても大丈夫なのかなど、今後とるべき現実的な対策について話を聞いた。

――東京都ではこのところ1日新規陽性者数200人超えが4日連続するなど、事実上、小池知事による「感染拡大警戒」宣言が出されました。秋にも来るのではと言われていた第2波が早めに始まったのでしょうか。

一般に感染症の第2波、第3波といった表現に特に定義はありません。確かに一旦収まってきたかのように見えた波が、6月下旬から再び拡大傾向になっていますので、単純に言えば第2波となります。しかし、一定の潜伏期間を経たのちウイルスの変異などの変化によって、再び波が起こるのを第2波と呼ぶとすれば、それとは少し違うようです。今の事態は、4月からの事実上の都市封鎖では抑え込み切れなかった残り火が、緊急事態宣言解除によって再燃してきた、いわば第1波の余波と見る方がよいかもしれません。いわゆる「夜の街」関連で20代、30代の比較的若年層を中心に感染の伝播が温存され、そこから市中全般への揺り戻しが起こっているように見えます。

――最近はPCR検査数を増やしているので、陽性者も増えて当然との意見もあります。それでも、やはり東京の1日新規感染者「200人超え」という数値は脅威でしょうか。

確かに、東京都での1日新規200人は第1波のピーク時に相当するレベルですので、このままのペースが続けば、絶対数の面ではいずれ医療の逼迫につながっていく恐れが十分あります。しかし、数ではなく率で見る倍加時間の観点からは、現時点ではまだもちこたえている状況です。図1は最近の東京都の新規・累積陽性者数と予測倍加日数のグラフです。これは、6月26日から7月16日までの新規(右棒グラフ)と累積(左棒グラフ)陽性者数を示します。累積は5月25日の緊急事態宣言解除後から起算しています。予測倍加日数(折れ線グラフ)は、指数関数を用いた前日比からの算定値です。2日間ぐらいで累積患者数が倍増すると感染爆発(オーバーシュート)といわれているのでその2日ラインを赤い点線で示していますが、折れ線グラフはまだその2日ラインより上位にあって、振れはあるものの倍加日数9~10日前後ラインで推移しているように見えます。


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図1. 東京都の新規・累積陽性者数と予測倍加日数の事例
・6月26日から7月16日までの新規(右棒グラフ)と累積(左棒グラフ)陽性者数
・累積は5月25日の緊急事態宣言解除後から起算、実数は棒グラフの高さ×10人
・予測倍加日数:前日比からの推定値

    

政府も東京都も、現時点では重症者受け入れの医療体制は逼迫していないとしていますし、無症状あるいは軽症の若い世代が陽性者の大半であれば、重症者の急激な増加による医療崩壊をきたす可能性は低いでしょう。しかし、楽観もできません。200人中100人規模で感染経路不明者がいるようですので、多くの専門家も指摘するように、今後、市中感染の広がりが懸念されます。再び高齢者世代へ感染が広がれば、重症化する人や死亡例も増加してきます。

――無症状の感染者が自分の感染に気がつかないままに感染を広げているのではないかといわれていますが、本当でしょうか。

確かに、メディアではそのような報道をよく耳にしますが、「無症状の感染者」という言葉には注意が必要です。医学的には、感染(ウイルスが体内に入ること)と発症(そのウイルス特有の症状がでること)は区別されます。感染から発症までの期間が潜伏期になります。当然、最長2週間程度といわれる潜伏期間は無症状ですので、この期間に他の人にうつすことがあれば、「無症状の感染者」が感染を広げたことになります。

しかし、潜伏期間中の無症状者を前もって知ることはほとんどできないので、潜伏期間中に本当に他者に感染させるのかどうか、その科学的検証は極めて困難です。一般的には、潜伏期間中の感染性はほとんどないと思われます。しかし、COVID-19の場合、発症の数日前から感染性をもつとの報告がありますので、その点は濃厚接触者の追跡範囲を決める際に留意すべきでしょう。また、感染しても発症しない場合もあり得ます。その場合の疫学データを集めることは事実上できません。

従って、市中感染があまねく広がってはいない現時点は、街中のいたるところに「無症状の感染者」がいて知らずに感染を広げているのではないかと、科学的データの裏付けもなく心配する段階ではありません。

――やはり、無症状の感染者を見つける広範な検査が必要になるのですね。

いいえ、そこにはかなり注意が必要です。単純に広く検査することが必ずしもよいとは限りません。なぜなら、検査に関する誤情報や誤解が氾濫しているのが現状だからです。検査結果を正しく解釈できないと感染の広がりを正しく把握できませんし、指標を見ての適正な対策も打てません。

最も困った誤情報・誤解は、「陽性者=感染者」の思い込みです。実際、メディアのほとんどが、「7月9日東京都の新規感染者数224人」と報じています。正しくは「7月9日東京都の新規陽性者数224人」です。診断検査では、「感染の可能性の有無」は判定できますが、「感染の有無」は判定できません。従って、「陽性」の判定結果は「感染の可能性あり」を意味し、「感染あり」ではありません。

陽性判定の場合、本当は感染していないのにたまたま陽性結果がでる(偽陽性と呼ぶ。いわば濡れ衣)ケースが含まれます。この場合、いわゆる「無症状の感染者」といった誤った判断がなされることになります。そのため、検査を行って陽性判定が出たが無症状の場合、1)感染しているが潜伏期間中、2)偽陽性(当然、無症状)の2つの可能性があります。しかし困ったことに、検査時点ではこの両者を区別する方法がありません。一方、陰性判定でも、本当は感染しているのにたまたま陰性結果がでる(偽陰性と呼ぶ。いわゆる見逃し)ケースが起こります。この偽陰性者には、検査陰性のお墨付きをもらった「無症状の感染者」が存在すると思われます。

従って、「無症状の感染者」を見つける広範な検査が必要であることは間違いありませんが、単に検査を拡充しても感染拡大抑止の決め手にはならないことを知っておくべきでしょう。まずは、新規感染者224人と聞いても、それは感染の可能性のある新規陽性者224人の間違いでしかなく、感染者数ではないとの認識から出発する必要があります。

――それでは、実際の感染者数はどうすれば分かるのでしょうか。

正確な数は誰にも分りませんが、検査の精度を考慮して理論的に推定することができます(A Coronavirus Pandemic Alert: Massive Testing for COVID-19 in a Large Population Entails Extensive Errors)。例えば、東京都7月9日「200人超」の場合、図2のような試算結果になります。厳密な検査実施人数は分かりませんが、ここでは小池知事が会見で述べた3,400件を実施人数としています。その結果、陽性224人の中には、濡れ衣の偽陽性12人が含まれ、本当の陽性は212人ということが推定されます。偽陽性の12人は当然症状がないので、無症状の「感染者」と誤認識されていることになります。さらにここで重要なのは、91人の偽陰性が「感染者でない」と見逃されている可能性があることです。先ほども述べましたが、この偽陰性者の中には無症状の人もいるでしょうから、陰性判定をもらったために、当人は知らないまま「無症状の感染者」として感染を広げる可能性があります。


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図2. 東京都7月9日の新規陽性者数と感染者数
・PCR検査の感度70%,特異度99.6%を仮定

     

――かなりの見逃しがあるということですね。それでは、いくら検査を拡大しても感染を防止することにつながらないことになりませんか。

その通りです。実際の感染者は303人と推定されますが、その約3分の1を見逃していると推定されます。これだけの見逃しがあれば、現行の単一のPCR検査実施では感染拡大の十分な抑止は期待できません。もちろん、診断のためには検査を行うほうがよいのは当然ですが、先述のように偽陰性者に「感染なし」のお墨付きを与えてしまい、逆に感染拡大を助長する結果になりかねない恐れもあります。

この検査の限界を心得ておかないと、市中感染が広がっていくにつれて検査を拡大しても、感染拡大は収まらず偽陽性者は増え続け、偽陽性も含む陽性者をすべて「感染者」として入院させざるを得なくなり、結果として入院ベッドの不足から医療崩壊につながる危険が起こってきます。それを筆者は「大規模検査の罠」と呼んでいます。ですから、質問でご指摘のように、単に検査件数を拡大すれば感染の封じ込めができると考えるのは間違いです。

――東京をはじめ全国的に再燃の兆しが見える中、経済再生をはかる政府は5,000人までの大規模集会を解禁しましたし、国内旅行を促進するGo Toキャンペーンも前倒しして7月22日から開始する方針ですが、大丈夫なのでしょうか。一応、東京を発着する旅行は対象外にするようですが。

従来の感染防止対策のままでは懸念されます。感染症対策の観点からは、7月末くらいまでは全国的に再燃の傾向がどのようになるのかを見極めてから、さらに緩和するかどうかを決めるべきでしょう。そもそも東京都の小池知事は15日の「感染拡大警戒」会見の際に政府にGo Toキャンペーンの再考を促しました。しかし、西村経済再生担当大臣がすぐにそれを否定するといった政府と東京都の考え方のねじれが見られます。このような首尾一貫しない方針は、第1波の緊急事態宣言発出時にもありましたので、第1波の教訓が活かされていない証左でしょう。16日時点で安倍首相もGo Toキャンペーンの延期に「迷い」があるとの報道もあり、どうやら東京を発着する旅行は対象外にするとのことは当面、妥当と思います。感染抑止に有効な具体的戦略を欠いたまま、場当たり的に経済再生に前のめりなるのは危険です。

第1波は、おそらく、クラスター追跡の限界を全国の接触8割削減によって克服し、一旦は収束レベルにまでもち込めたと思われます。しかし再燃の兆しが起こってきたことを見ると、やはり、全国の接触8割削減の歯止めなしで、距離をとる防御策や従来のクラスター追跡だけでは、感染を収束レベルに抑え込んでおくことはできないということなのでしょう。今、多くの専門家から、これまで十分でなかった検査の拡充が必要との意見がありますが、米国は数千万件の検査を行っているにもかかわらず、結果として感染抑止に歯止めがかけられていないというトランプ政権の現実を直視すべきでしょう。

ただし、わが国の場合、これまでの教訓から国民レベルでの感染予防様式が実現されていますので、感染もずっと拡大し続けるのではなく、現行の予防策の効果とどこかで均衡し、一定の感染規模に落ち着くことが考えられます。ですから、政府は、Go Toキャンペンーンのような経済活動によって、その均衡点がどれくらいになりそうなのか、一定レベルに落ち着くと予測される感染の規模は果たして制御可能なのかといった説明責任を果たすべきです。確固たる見通しや対策案もないままに「前のめり」になると、結局、接触8割減しかないといった最悪のシナリオに、また逆戻りせざるを得ない事態に追い込まれかねません。

――新型コロナの感染の様式として、これまでは飛沫と接触感染といわれてきましたが、最近、空気感染も否定できないとの見解をWHOも認めました。飛沫感染と空気感染とはどう違うのでしょうか。

飛沫とは「水分を含んだ5マイクロメートル以上の粒子」を意味します。目に見えるか見えないかは別として、いわゆる唾液のしぶきのことです。インフルエンザは飛沫感染の代表格ですが、咳、くしゃみ、会話によって出る飛沫に含まれるウイルスを吸い込んで感染がおこります。飛沫は通常1~2メートルで地面に落下すると言われますので、新型コロナも飛沫感染であれば、1~2メートルの距離を保つことが感染予防にある程度有効と考えられてきました。一方、空気感染では、結核菌や麻疹、水痘ウイルスのように、飛沫が乾燥して5マイクロメートル未満に小さくなった粒子に含まれて空気中を漂い、広い範囲に感染を広げます。ですから、飛沫感染と空気感染では、まず、感染警戒の範囲が感染者の1~2メートル以内なのか、部屋全体なのかの違いがあります。また、飛沫感染ではその場所に感染者がいなければ感染は起こりませんが、空気感染の場合は、その場所を感染者が立ち去っても、空間の換気が悪ければ感染の可能性が持続します。

新型コロナでは、接触・飛沫感染が基本ですが、飛沫感染と空気感染の中間的なエアロゾル感染の可能性もこれまで指摘されていましたので、わが国では3密(密閉、密集、密接)を避けること、また室内の換気をこまめに行うことが推奨されてきました。そのため、空気感染が指摘されても、個人でできる対策は特に大きく変わらないと思われます。しかし、電車や劇場など公共の空間では、これまで以上に、ウイルス除去可能なエアフィルターの導入など、換気対策の強化が必要です。

――さきほど、従来の感染防止対策のままでの経済活動促進は懸念されると述べられましたが、それでは今後、従来とは異なるどのような具体的対策が必要でしょうか。これまで、「メガクラスター追跡作戦」を行えば医療か経済かの論争は不要であると提言されていますね。

はい、やはり検査を用いた追跡戦略の強化が重要だと思います。東京都での再燃傾向の出現を見ると、従来の感染防止対策では不十分だと考えるのが妥当かと思います。これまでの感染防止対策は、行政が行う単一のPCR検査とクラスター追跡、接触・旅行の制限と個人・社会がとる予防措置としてのマスク、フェイスシールド、社会的距離の確保です。新型コロナに特化したワクチンと有効な治療薬がまだ確立されていませんので、従来と異なる対策となると、当面、PCR検査とクラスター追跡を強化すること以外に方法がありません。そこで、提案しましたのが「メガクラスター追跡作戦」です。

それは、PCR検査を用いた従来のクラスター追跡を、担当職員がもっと頑張って行うべきだといった激励の話ではありません。目標、対象、方法、措置のすべてにわたって、従来のクラスター追跡とは異なった戦略になります。

――その「メガクラスター追跡作戦」ではどのように検査を行うのでしょうか。

まず、検査戦略の目標を、これまでのように偽陰性に無頓着なままで「陽性者を発見する」のではなく、「感染者全員を発見する」に変更します。つまり、診断のためにとりあえず行う検査ではなく、偽陰性をできるだけ無くして1人未満に抑え、感染を封じ込めることを目指します。

そのためには、検査の対象範囲をこれまでよりもはるかに広くとる必要があります。従来、数百人規模のような大きな集団感染が発生した場合にメガクラスターと呼ばれますが、これはあくまでも追跡検査を広げた結果、後付けで判明してくる集団発生です。ここで言うメガクラスターは、それとは違います。感染者が1人でも発生した場合、その濃厚接触者や濃厚でなくても一定の空間や行動を共有した人(準濃厚接触者)を1次レベルの検査対象者とし、さらに、2次レベルでは、その1次レベルの検査対象者の濃厚接触者や準濃厚接触者までを検査対象者の範囲に含めます。いわば、2次レベルまでの感染潜在者の一群をあらかじめ想定して「メガクラスター」と呼んでいます。ですから、「メガ感染潜在者群」と呼ぶほうがよいかもしれません。

さらに、偽陰性をできるだけ無くして1人未満に抑えるためには、従来のような単一検査では駄目なため(図2に示したように91人の偽陰性あり)、検査の方法を変える必要があります。そこで考えられるのが多段検査(あるいは繰り返し検査)の方式です(図3)。例えば、簡便な抗原検査を2回繰り返し、3回目はPCR検査で確認するという多段階の検査システムを導入します。


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図3. 多段検査システムと2つの代表的判定方式

     

この場合、一連の検査で起こり得る陽性/陰性結果の組み合わせに応じて、最終的な判定をどうすべきかが問題となります。主として、偽陽性を減らす偽陽性重視型か、偽陰性を減らす偽陰性重視型の2つが代表的な判定方式です。前者は、3回とも陽性が出た場合のみを「陽性」、他は「陰性」と最終判定します。一方、後者は3回とも陰性が出た場合のみを「陰性」、他は「陽性」と判定します。「メガクラスター追跡作戦」は感染を封じ込めることを目標としますので、偽陰性重視型の方式でなければなりません。

――これまでも大規模な検査実施を望む声はあります。「メガクラスター追跡作戦」でも多段階で必要となる検査数はかなり多くなりそうですが、これまで要望されてきた大規模検査とどう違うのでしょうか。

検査数が多くなることは同じですが、似て非なるものです。単一のPCR検査による大規模スクリーニング検査は、偽陽性も偽陰性も相当な数に上りますので、偽陽性の人権問題もありますし、偽陰性が出る点で感染の封じ込めが期待できません。一方、「メガクラスター追跡作戦」で提案される検査は、偽陰性をなくす多段階の検査システムで、最初から感染の封じ込めを狙います。単一のPCR検査では、経路不明者の数や率が問題と言われますが、ここで言うメガクラスター追跡では、感染症確認1例からの封じ込めが開始できますので、経路不明者の存在は問題にはなりません。つまり「感染見逃しゼロ作戦」と言い換えることもできます。

ただし、偽陰性を重視しますとどうしても偽陽性が増えてしまいます。そのため、図4にあるように、繰り返しのすべてで陽性が出た場合のみを最終判定の「陽性」とし、偽陽性をできるだけ減らすべきでしょう。陽性・陰性が混在する結果の組み合わせはすべて「判定保留または準陽性」とするのが妥当かと思われます。


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図4. メガクラスター追跡多段検査システムでの最終判定

   

検査後の措置としては、「陽性」者は原則入院です。ただし、無症状であれば施設での経過観察もあり得ます。「判定保留または準陽性」の場合、症状があれば入院、なければ自宅での経過観察が適切でしょう。そこは医療の逼迫度に応じた行政判断も可能でしょう。もちろん「陰性」者は問題なしとします。

――例えば、東京都の7月9日「200人超」時に、多段検査作戦を行っていればどのような展開になったのでしょうか。

先ほど述べたように、東京都では3,400人に検査を行って224人の感染者を見つけたとされていますが、まず、この認識に3つの問題点があることを確認します。第1は、図2で見たように実際は303人の感染者がいたと補正できますので、91人の見逃しがあったと推定されるという結果解釈の訂正の必要性です。第2は、2次感染レベルまでの対象範囲を想定すると、検査対象3,400人は少な過ぎたのではないかという点です。そして第3は、感染封じ込めには多段階の検査システムが必要であることへの認識不足があるのではないかという点です。 20200716kamae02.png ※クリックでオリジナル画像表示
(再掲)図2. 東京都7月9日の新規陽性者数と感染者数
・PCR検査の感度70%,特異度99.6%を仮定

     

そこで、「メガクラスター追跡作戦」では、さらに広範に対象人数は5,000人、うち予想感染者数は500人を想定したとしましょう。ここでは簡単のため、抗原検査のみの繰り返しを考えます。抗原検査の感度0.7、特異度0.99とすれば、1回の検査での偽陰性率は1-0.7=0.3なので、6回繰り返せば偽陰性者数は500人×0.36=0.3645となり、事実上、ゼロになります。詳細な計算は省きますが、このとき、6回とも陰性になるのは4,237人になります。

一方、1回の検査での偽陽性率は1-0.99=0.01なので、偽陽性者数は、感染していない4,500人×0.012=0.45となり、2回の検査で事実上ゼロになります。このとき、詳細な計算は省きますが2回とも陽性となるのは245人になります。結局、最終判定は「陽性」245人(ほぼ感染者といってよい)、「陰性」4,237人(ほぼ感染なし)、「判定保留あるいは準陽性」は残りの518人となります。

――感染封じ込めが可能という「メガクラスター追跡作戦」は必須のようにも思えますが、具体的に実行するとすれば課題はありますでしょうか。

具体化するにはいくつかあります。まず、感染封じ込めが期待できるのは大きな利点ですが、最終判定での「判定保留あるいは準陽性」への措置をどうするか、指定感染症法と整合させる行政判断が必要になります。これまでのところ、クラスター発生の店のピンポイントでの休業要請や休業補償が問題となっていますが、「メガクラスター追跡作戦」では、おそらくそういった問題を回避できます。なぜなら、検査対象範囲が広く、感染者を出した施設や店では「判定保留あるいは準陽性」はかなりの数に上り、ほとんどのスタッフに及ぶことが予想されます。そのため、2週間は事実上、休業せざるを得なくなるからです。

検査対象範囲が広くなることは、同時に限界も生じます。現在、東京都のPCR検査能力は1日6,500件程度といわれますが、抗原検査も使って1日数万件が当面の限界でしょう。従って、この新たな作戦が、医療と経済の両立を図れる唯一の手段だとしても、米国のように数十万人規模に市中感染が広がってしまえば、手遅れになります。従って、この作戦の成否は時間との勝負にかかっているとも言えます。

全国レベルでは、多段階検査の方法論の理解や普及が容易ではないかもしれません。また、ここでの試算は、確率論的に繰り返し検査が独立試行であることを前提としています。従って、その条件が成り立つのかどうか、封じ込めのための検査回数が適正かどうかなど、理論的な検討の余地は残ります。

いずれにせよ、現時点で感染封じ込めができる可能性のある唯一の戦略として、「メガクラスター追跡作戦」(あるいは「感染見逃しゼロ作戦」)の体制構築と機動的実行が望まれます。そのためには、感染症との闘いを国家の「安全保障」問題の一つと位置づけ、いわば感染防御軍を創設するくらいの政府の覚悟と至急の予算・人員配置が求められます。