メディア掲載  エネルギー・環境  2020.04.10

山火事は地球温暖化のせいなのか?

NPO法人 国際環境経済研究所HPに掲載(2020年3月25日)

 最近、山火事が地球温暖化のせいで起きているという意見がよく聞かれるようになった。だがこれは本当だろうか?じつは山火事の主な原因は森林管理の失敗である。地球温暖化との関係ははっきりしていない。「気候危機」と叫ぶ前に、冷静な検討が必要だ。


1.山火事は自然の一部だ

 山火事についてまず理解すべきことは、それが自然の一部だということだ。日本では秋になると葉が落ちて、春になると草木が芽吹く、というサイクルがある。これと同じように、乾燥した地域では、植物が育つと、山火事が起こり、その後でまた草木が芽吹く、というサイクルがある。

 様々な草木が山火事の後で芽吹く中で、筆者のお気に入りはアミガサダケ(ポルチーニ)だ。フランス料理でソースに絡めて食べると絶品。料理研究家マイケル・ポーランの本によると、これが山火事の後に大量に発生するため、山火事のニュースを聞くと車を飛ばして駆け付けるグルメが居るそうだ。

 山火事のおかげで生息する生物が多いことから、米国のイエローストーン自然公園では、山火事を人が消すことは「不自然である」として止めてしまった。筆者も見に行ったが、本当に、焼け跡がそこかしこにある。知らない人は痛々しく思うようだが、これが自然の本来の姿なのだ(参考: 拙稿、「山火事が保全するイエローストーンの大自然注1) )。


2.山火事は人間が管理するものだ

 だがいくらそれが自然の姿だといっても、山火事が頻発するようでは生活に支障を来すので、人間は山火事を管理するようになった。具体的には、


①森林の一部を帯状に切った防火帯を作る
②火の用心! 火の不始末をしないこと
③定期的に伐採と火入れをする


等である。このうち①②は皆さんご存じと思うが、実は③も重要である。要は、時間の経過とともに植物が繁茂すると、山に燃料が溜まっていくことになるので、山火事が起きた時に大規模に燃えてしまう。そうならないためには、時々、草木を切り出してやらねばならない。

 イエローストーン自然公園は思い切りよく③を(完全では無いが)拒否して山火事に任せているわけだ。他方で、日本中の森林では、①②③を全て実施して、山火事が起きないように管理している(じつは③はあまり出来ていないが、幸いにして日本は湿潤なので、大規模な山火事は滅多に起きない)。


3.山火事は増えているのか、山火事の理由は何か

 17世紀以来、今が山火事の多い時期かと言えば、そうではない。19世紀末以降、人間が自然に介入し、山火事が起きないようにしたことで、アメリカの山火事の件数はかつてに比べて激減した(図1)。

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図1 北アメリカにおける火災の発生
北アメリカ西部800地点以上における火災発生の統合記録。
Curry (2019) 自然災害と闘う-復興、回復力、準備注2)



 近年を見ると、1980年以降、確かに山火事は増加している(図2)。これは地球温暖化の傾向と重なっているので、地球温暖化のせいだと短絡的に結論する人が多い。だが、この相関関係は、因果関係とは限らない。

 山火事が増えた原因は、幾つか挙げられている:注3)
 ・長年に渡って山火事を抑制したため、山に燃料が増えてしまった。
 ・木材利用が衰退し、山に燃料が増えてしまった。
 ・環境保護名目で山の利用を規制した結果、山に燃料が増えてしまった。
 ・人の居住地が山に拡大して、火災が増えた


 もちろん、旱魃になれば、山火事は起きやすくなる。しかし、これは山火事の根本的な要因ではない。根本的な要因は、上記の4つだ。

 近年、米国の一部で、乾燥して暑い日々が続いたことは確かである。しかし、これと地球温暖化との因果関係はよく分かっていない。IPCCの第5次評価報告書(2013年)では、その政策決定者向け要約の7ページの表1において、旱魃の強度・期間が増えたか否か、「世界規模では確信度は低い(=分からない、ということ)」「地域的には、地中海及び西アフリカでは増加した可能性が高く、北米中部及び北西オーストラリアでは減少した可能性が高い」としている注4)

 他方で、歴史的には、いまカリフォルニアで起きているよりも強烈な旱魃が、地球温暖化とは関係のない自然変動として起きた。ここで言う自然変動とは、エルニーニョ現象や、それに類似した北大西洋振動などの、数十年規模に亘る気候の変化のことである。

 第4次全米気候評価報告NCA4(2019年)は、以下のように述べている:「近年の旱魃やそれに伴う熱波は、アメリカの⼀部では記録的な強度に達した。しかし歴史的には、1930年代のダストボウル時代こそが、干ばつや極端な熱波の最⾼記録水準であり続けている」注5)


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図2 アメリカの山火事 。1916年~1930年ごろにかけて頻発している。
アメリカ西部11州の山火事延焼面積 (WFAB) 時系列観測値(Curry 2019) 注6)


 ダストボウルとは、米国を襲った恐ろしい気候変動だった。この時期にアメリカでは山火事が頻発した(図2)。畑は荒廃し、砂嵐が村を襲い(図3)、農民は流民となった。


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図3 「ダストボウル」時代の米国の恐ろしい砂嵐。カンザス州、1935年。米国政府資料注7)


4.世界の燃焼面積は25%も減った

 話を米国から世界に移す。NASAのデータによると、2003年から2015年にかけて、世界の燃焼面積は25%も減った(図4)。最大の理由は、人間が、肥料や農業機械を利用して生産性の高い農業を行うようになり、焼き畑や火入れ等の形で火を利用することが減ったためである注8)

 北米カリフォルニアのように山火事が増えている地域もあるが、世界全体では、燃焼面積はむしろ減っているのだ。


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図4 世界の山火事面積。2003年から2015年にかけて25%も減少している。NASA資料注9)


5.まとめ

 山火事が起きているからといって、すぐに地球温暖化と結びつけるのは誤りだ。山火事について語るためには、まず以下のことを知っておく必要がある。

 第1に、山火事は自然現象である。第2に、山火事は人間の森林管理が下手だと起きる。第3に、乾燥や熱波は山火事のきっかけにはなりうるが、根本的な要因ではない。第4に、乾燥や熱波は地球温暖化が無くても起きるものである。地球温暖化との因果関係はよく分かっていない。第5に、世界全体で見ると燃焼面積は大きく減っている。

 カリフォルニアの山火事を分析したブレークスルー研究所のZeke Hausfatherは、気候変動や自然変動が山火事の悪化に一定程度寄与している立場だが、根本的な問題は森林管理の失敗にあり、
 ・居住地域の拡大を規制する
 ・森林を伐採する
といった、森林を好む人々に不人気な政策を採らない限り、今日直面している山火事を防ぐことは出来ない、としている注10)

注1)https://www.canon-igs.org/article/20180905_5176.html

注2)http://ieei.or.jp/wp-content/uploads/2019/10/Curry-Japanese.pdf

注3)https://thebreakthrough.org/issues/energy/wildfire-causes

注4)https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/2018/02/WG1AR5_SPM_FINAL.pdf

注5)https://www.globalchange.gov/nca4 ; http://ieei.or.jp/wp-content/uploads/2019/10/Curry-Japanese.pdf

注6)http://ieei.or.jp/wp-content/uploads/2019/10/Curry-Japanese.pdf

注7)https://www.photolib.noaa.gov/Collections/National-Weather-Service/Meteorological-Monsters/Dust/emodule/647/eitem/3016

注8)https://www.forbes.com/sites/michaelshellenberger/2019/08/30/forget-the-hype-forest-fires-have-declined-25-since-2003-thanks-to-economic-growth/#2640466c163d

注9)https://earthobservatory.nasa.gov/images/90493/researchers-detect-a-global-drop-in-fires

注10)https://thebreakthrough.org/issues/energy/wildfire-causes