コラム  国際交流  2019.10.18

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第126号(2019年10月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

 8月下旬、フランクフルトとベルリンで、英米独仏の友人達が集う研究会に参加した。米国の友人がBrexitに伴う混乱を憂慮しつつ英国企業の衰退を指摘した。そして英国を含む将来の欧州企業の衰退と共に中国の世界進出に対し懸念を示した。また米欧の友人達は中国企業の現在の躍進を、1980年代の日本企業の活躍になぞらえ、世界経済がくすぶり続ける米中貿易摩擦のなかで激震に遭うのではないかと心配していた。

 Fortune Global 500の国別企業数を見る限り、英国企業の衰退は著しい。2000年当時、英国の40社が世界の500社の中に数えられていたが、2019年にはわずか17社になっている(Fortune誌、8月号、p. F15を参照)。尚、Fortune誌8月号の表紙の表題には、中国企業の躍進を示唆し、"Star Power: Despite a raging trade war and a softer economy, China's corporate giants are getting bigger, richer, and more competitive"と記されている。友人達とは、中国企業が今後も拡大を続けるのか、或いは日本企業の如く次第に減退するのか、と話し合った。

 Fortune Global 500が発表された初期の1995年、149社の日本企業がrankingに入り、米国の151社に迫る勢いであった。ところが、10年後の2005年には81社に減り、20年後の2015年には54社、そして2019年には52社となっている。また、Global 500のBest 10の企業を見ると、1995年に日本企業が6社入っていたのに対して、2019年には、わずかトヨタ1社になっている(p. 4の表を参照)。



 筆者の欧州滞在の最後の日(9月1日)、ドイツのザクセン・ブランデンブルク両州の議会選挙が行われた。日本のマスコミでも報道された通り、極右政党「ドイツのための選択肢(Alternative für Deutschland AfD)」が両州議会の第2政党となったのだ。独保守派のFrankfurter Allgemeine Zeitung紙(FAZ)は、9月2日付記事の中で、AfDの拡大を懸念する見解を示している。

 同紙は、「選挙戦での勝利をもとに、AfDは人民の政党としての行く末を見つめている(Nach ihren Wahlerfolgen sieht die AfD sich auf dem Weg zur Volkspartei)」と語り、そしてAfDは更に「東方からのドイツの支配を視野に入れている。しかも与党のキリスト教民主同盟(CDU)との連立をも語ろうとしている(will vom Osten her das Land erobern. Von der CDU wünscht sie sich Gespräche über eine Koalition)」と述べている。現地に長年住んで同国の識者と親密な知的会話の経験など無い外国人の筆者はこの政治的危機を正確に理解することは出来ない。このため極右政党がドイツを支配しないよう祈ることしか出来ない。FAZ紙もAfDの共同代表間での意見の相違等を指摘し、この選挙結果からただちにドイツ全体の極右化はないと判断しているが、歴史が示す通り、経済状態の急変で一般市民の心境変化が起こる事を忘れてはならない。

 筆者はドイツの友人達に対して帰朝後、次のようなメールを送って警告した次第である。 「1925年7月、ヒトラーが『我が闘争(Mein Kampf)』を出版した時、Frankfurter Zeitung紙は、書評の表題を『ヒトラーの終焉(Erledigung Hitlers)』と称し、ミュンヘンの新聞(Das bayerische Vaterland)紙は『我が闘争(Mein Kampf)』をもじり、"Sein Krampf (ヒトラーの痙攣(ケイレン))"と非難した。ところが8年も経ないうちに、ヒトラー内閣が成立したではないか」、と。



 一般市民が経済的不安を抱かないようにしなければ、政治的煽動家が人々の心の隙間に忍び寄り、驚く程の愚かな政治的決断がどの国にも訪れる。英国のBrexitしかり、ドイツの州議会選挙しかりだ。その意味で、経済的安定を保障するような旺盛な経済活動、しかも所得格差の是正をも勘案した経済発展が望まれる。

 豊田章男トヨタ自動車社長の出身校でもあるパブソン大学のビジネス・スクールは、企業家精神に関する優れた報告書を発表している事で有名だ(Global Entrepreneurship Monitor (GEM))。今年の6月に創刊以来20周年を迎えた報告書には、日本の企業家精神に関して大変興味深い指摘がなされている。即ち、国際比較をする限り、日本の新規事業に関する企業家精神は低調だ。勿論、堅調で安定した経済活動が存在している限り、敢えてリスクを取って新規事業に飛び込む必要はない。また新規事業が成功するとは限らないために、旺盛な企業家精神がそのまま堅調で安定した経済活動に直結するわけではない。しかしながら、経済が低調かつ不安定な現況下で、イノベーションという言葉がしきりに叫ばれている今、社会のあらゆる側面においてチャレンジ精神が求められていることは明白である。



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