レポート  外交・安全保障  2019.01.16

第29回CIGS政策シミュレーション「中東危機新時代:米イラン関係の悪化と中東をめぐる国際関係」概要報告と評価

1.概要

                                   

 2018年10月20日(土)~21日(日)、当研究所は第29回CIGS政策シミュレーション「中東危機新時代-米イラン関係の悪化と中東をめぐる国際関係」を開催した。本企画を構想したのは2018年上半期、米国がエルサレムをイスラエルの首都と認定し、イラン核合意からの離脱を表明した時期だった。その後、米国が厳しい対イラン制裁を課して国際社会がその対応に追われていく中で、米国とイランの関係は次第に悪化、シミュレーション開催直前には、サウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏がトルコで行方不明となる事件が発生した。同事件の調査が続く中で、同氏はサウジアラビア大使館内で殺害されていたことが判明した。これにより、トルコ、米国、EU諸国などはサウジアラビアに対する非難を強め、シミュレーション実施前日には、遂にサウジアラビア政府が公式に同氏の殺害を認めるに至った。

 これら現実に同時進行する新たな動きを踏まえつつ、本シミュレーションでは、202X年の然るべき時点を想定し、揺れ動く中東情勢の状況を踏まえ、様々な検討を行うこととした。中でも最大の課題は、中東を巡るサウジアラビアとイランの対立状況が深刻化する中で生まれつつある中東秩序の新たな将来につき、関係各国の対応について考えることである。

 アラブの春以降、イラク・シリアなどでプレゼンスを高めてきたイランは、2015年の包括核合意によってイラン革命以来、ようやく国際社会への復帰を果たした。こうした中、中東の盟主を自負するサウジアラビアやイスラエルの対イラン警戒心は増大した。米国トランプ政権が決定したイラン核合意離脱と強力な再制裁をサウジアラビア・イスラエル両国は全面的に支持した。米国の同盟国であるEU諸国や日本なども、国内で対米批判が巻き起こる中、基本的には米国と歩調を合わせた。一方で、シリア内戦での協力など、イランと関係の深いロシアは、イランに対する関与を強化した。中国は米国を批判しつつも、イラン・サウジアラビア両国とは等距離を保った。

 そこで本シミュレーションでは、サウジアラビアとイラン両国の対立激化を軸に、中東危機の新たな時代の様相について、国際関係がどのように推移し、各国がいかなる対処を行う可能性があるかにつき検討することとした。その際、カショギ氏殺害事件に代表される地域国際情勢の変化がサウジアラビアと諸外国との関係にもたらす変化にも検討対象を広げた。具体的には、サウジアラビア政府がカショギ氏事件の幕引きをどのように図り、それがいかなる影響を中東地域にもたらすのかを考えた上で、カショギ氏事件以降の新たな情勢の下、サウジアラビアに各国がどのように向き合うのか、対イラン関係を含め、どのような交渉や合意が可能かを本シミュレーション参加者に検討してもらうこととした。


 本シミュレーションには、現役官僚、研究者、企業関係者、ジャーナリストなど約60名が参加し、2日間の演習を通じて多くの教訓と課題が抽出された。シミュレーションのチームとプレイヤーとしては、イラン(最高指導者、大統領、外相、国防相、革命防衛隊司令官など)、サウジアラビア(国王、皇太子、外相など)、アメリカ(大統領、国務長官、国防長官、統参本部議長、大統領補佐官他)、ロシア連邦(大統領、首相、外相、国防相、軍参謀総長他)、中国(国家主席、首相、外相、国防部長、軍参謀長他)、日本(首相、外相、防衛相、NSC長官他)、メディア(国際メディア、日本メディア他) を設定した。なお、コントローラは、トルコ、UAEやバーレーン、EU諸国などをも担当しつつ、全体のシミュレーション進行を統括した。・・・

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