レポート  外交・安全保障  2016.04.13

第21回PAC政策シミュレーション「新安全保障法制下での邦人保護と危機管理」概要報告と評価

1.概要

 2015年11月14~15日、当研究所は第21回PAC政策シミュレーション「新安全保障法制下での邦人保護と危機管理」を実施した。今回のシミュレーションでは、2015年9月に成立した新たな平和安全保障関連法案のもとで、海外に進出する企業の危機管理をどう推進するか、邦人の安全をいかに守るか、そして国際協力活動に従事する自衛隊の新しい任務をどのように位置付けるかを主要なテーマに設定した。

 前回(第20回)のシミュレーションでは、「新安保法制はシームレスか?」というテーマを設定し、主として日本周辺の事態や南シナ海における危機シナリオと「重要影響事態」及び「存立危機事態」の認定と運用に焦点を絞った。今回のシナリオは、新安保法制の検証・第2弾として位置付けられ、シミュレーションの舞台を東アフリカ(ソマリア・南スーダン・ジブチ)に置きつつ、そこでの国際協力活動における任務の拡大と邦人保護・救出、危機対応を主たる課題とした。その意味で第20回と21回の政策シミュレーションはそれぞれ前編・後編と位置付けられる。

 新たな安全保障関連法案では、在外邦人の保護措置として「外国における緊急事態に際して生命または身体に危害が加えられるおそれのある邦人の保護措置を自衛隊の部隊等が実施できるようにする」(自衛隊法第84条の3)ことを盛り込んだ。具体的には邦人保護を行う地域において、戦闘行為が行われておらず、当事国の同意、当事国の権限ある当局との連携が見込まれる場合、任務遂行型の武器使用を含む形で自衛隊が保護措置をとることが可能となった。これに先立つ自衛隊法改正(第84条の4:在外邦人等の輸送)では、在外邦人の輸送についてもより実践的な任務の遂行ができるようになった。

 2013年1月のアルジェリア人質事件を教訓に発足した「在留邦人及び在外日本企業の保護の在り方等に関する懇談会報告書」では、平素からの官民の連携と情報の共有、危険発生時・発生後の対応能力の向上が勧告された。さらに2015年初頭に過激派組織ISに日本人2名が拘束・殺害された事件を経て、日本政府は中東の在外公館の体制強化や、言語・文化に精通した専門家の育成など、イスラム過激派に関する情報収集・分析を強化する方針を示した。また外務省には「国際テロ情報収集ユニット」が新設され、情報収集を強化するとともに、外国の治安・情報機関との交流強化が盛り込まれている。

 今回の政策シミュレーションでは、新たに成立した安全保障関連法案や最近の諸改革の中で、在外邦人の安全をどのように守るのか、危機の発生にどのように対応するのか、を検討した。その際に、海上を航行する民間船舶の安全、北アフリカにおける治安情勢の悪化に伴う民間人の保護、新たなPKO任務の付与に伴うリスクの増大をシナリオとして扱うこととした。

 また今回の政策シミュレーションでは、政府機関に加えて、メディア、犯行グループ、一般市民がソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を通じて情報発信を行い、情報が交錯し複雑化する中で、政府・企業がいかなる意思決定をするかを検討することとした。

 本シミュレーションには、現役官僚、研究者、企業関係者、ジャーナリストなど約40名が参加し、2日間の演習を通じて多くの教訓と課題が抽出された。シミュレーションのチームとプレイヤーは、日本政府(首相官邸・外務省・防衛省・警察庁)、ジブチ・ソマリア・南スーダン、テロリスト集団(ソマリア武装勢力・エチオピア武装勢力・ジブチ国内勢力)、メディア(日本メディア・国際メディア)、市民(人質家族・ブロガー)、民間企業(事件の当事者となる航運会社)を設定した。

 各プレイヤーは、11月14日(土)午前から翌15日(日)午前までの実質24時間にわたり、東アフリカを取り巻く情勢が刻々と変化する中で、事態を把握し、政策的対応を考え、外交交渉、合意形成、報道などの具体的対応を行った。・・・

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