メディア掲載  財政・社会保障制度  2014.01.28

キーワードは「自治体の一層の自立」

「地方財務」2014年1月号に掲載

1. 2013年の三大ニュース

①消費増税と自動車関連税変更の決定

 2014年4月から消費税率が8%になることが決まり、国民や企業の間では、消費増税にともなう減税に注目が集まっていたなか、2013年12月12日に『平成26年度税制改正大綱』が出された。税制改正大綱によれば、消費税率10%時に生活必需品などの消費税率を低く抑える軽減税率を導入することや、大企業の交際費の非課税枠を拡大すること、復興特別法人税を廃止することなど減税の一方で、給与所得控除の縮小など増税の方向もみられた。

 そのなかで、自治体に影響を及ぼす割合が高いのは、自動車関連税であろう。自動車取得税が2014年4月に、5%から3%に引き下げられ、消費税率10%の段階で廃止される。その代わり、その段階で、自動車取得税のグリーン化機能を維持・強化する環境性能課税(環境性能割)を、自動車税の取得時の課税として実施することとなった(詳細については2015年度税制改正で具体的な結論を得る)。つまり、自動車取得税は廃止されるが、新しく環境性能課税が自動車税の取得時課税として実施される。また、軽自動車税については、2015年度から新車に対して新たな税率が適用され、増税の方向となった。

②第5回税制国際会議(The 5th ITD Global Conference)への出席

 2013年12月にモロッコで開かれた、OECD、国際通貨基金(IMF)、世界銀行、欧州委員会などが運営しているITD (International Tax Dialogue)の国際会議に出席し、日本の自治体の税務行政についてスピーチした。この国際会議は2年に一度開かれており、通常は政府高官のみに開かれた会議であるが、私は特別招待スピーカーとして稀な機会を得た。

 今回のテーマは「国と地方自治体における税務行政の政府間連携」であった。私は、"Tax administration at lower levels of government"という、まさに自治体の税務行政というセッションだったので、民間委託や共同徴収、一元化徴収など、日本の自治体の取り組みについて思う存分話すことができた。他のスピーカーは米国と世界銀行の方々で、司会はベナン共和国の方であったため、英語とフランス語が入り混じる大変面白いセッションであった。私のスピーチに対しては、「うちの国も困っている。日本の事例は興味深い」という感想が多数寄せられた。これまでずっと日本の自治体の取り組みを世界の方々に知ってほしくて話す機会を探していたので、素晴らしい場所で念願がかなったといえる。

 どこの国も、限られた国家財源のなかで、政府がどのように自治体をサポートするか、自治体税務行政を効率的に効果的に実現していくか、国民の税負担の公平性をどのように実現するかといった共通の課題を持っていた。日本の自治体が世界に貢献する機会はこれからもあるのではないかと思う。

  興味のある方は、ITDのホームページをご覧ください。 参加報告はコチラからご覧いただけます。

③PPP/PFI事業の推進

 2013年6月5日の安倍政権の経済政策の3本目の矢となる「成長戦略第3弾スピーチ」で、安倍首相は「今後10年間で、過去10年間の実績の3倍にあたる12兆円規模のPPP/PFI事業を推進していく。」と述べた。その後、2020年の東京オリンピックも決まり、東京では建設ラッシュが見込まれる。東京以外の地域でも、空港、上下水道、高速道路などPFI手法を用いた公共事業は拡大していくだろう。

 PPPとはPublic Private Partnershipの略で、日本では官民連携と言われることが多い。PFIとはPrivate Finance Initiativeの略である。PPPはPFIも含む広い概念を持ち、民間委託も含まれると考えてよいだろう。安倍首相は同スピーチで「『官業』の世界を、大胆に開放していく」、「『民間活力の爆発』が成長戦略のキーワードである」とも述べており、自治体ではすでに、②で述べたように、税務業務を始め、あらゆる自治体業務で、民間委託や指定管理者制度、PFIなどの官民連携に取り組んでいるが、今後ますます官民連携が拡大されるだろう。


2. 2014年の展望

 このように2013年の三大ニュースを述べてきたが、それをふまえて、2014年の展望について述べたい。

 キーワードは「自治体の一層の自立」であろう。2014年は消費増税が始まる。政府は消費が失速しないように、あらゆる手立てを行おうとしているが、実際には、消費増税が始まってみないと、どのような影響があるか分からない。同時に他の税目も変更があるので、日本の経済がどのように変化するかは予想しにくい。また、円安や世界情勢にも影響されるかもしれない。自治体財政は良くなるかもしれないし、悪くなるかもしれないし、変化がないかもしれないという不確実な状況下においては、各自治体の一層の自立が必要である。ここでいう自立とは、①税や料の徴収など自主財源となる機会を確実にとらえ、周りの状況に左右されない財政の基盤作りに努力すること、②歳出面においても、単に歳出削減に終わるのではなく、効率的かつ効果的な行政を目指すこと、③自治体行政を支える自治体職員1人1人が意識を持って行動することである。

①確実な徴収

 2014年度以降、消費増税のみならず住民税や自動車関連税なども自治体に影響を及ぼす。三位一体改革で交付税が削減される代わりに、所得税から住民税へ3兆円の税源が移譲されたが、自主財源割合の低い規模の小さな自治体のなかには、かえって財政が苦しくなったところもある。2014年も自動車取得税が減税されることによる税収減が起こり、消費増税による地方自治体への配分によってカバーされるのではないかと一部で言われているが、減税分すべてがカバーされるかどうかについては疑問が残る。そこで、自治体には確実に徴収することを勧める。現在では、各課だけで頑張らなくても、庁内での公債権・私債権の徴収一元化や他自治体との共同徴収または民間委託など、ITシステムによる名寄せの向上も相まって、さまざまな効率的な徴収方法が確立されてきている。各自治体に合った徴収方法で確実に徴収を行うのが、周りの状況がどのように変わろうとも影響されにくい最も重要な自立方法である。

②消費増税後の世の中の動きを迅速に把握し予測する

 今回の税制改正は、国民生活にも影響を与える。2014年は消費増税だけだが、2015年には所得税の最高税率が引き上げられ、相続税や軽自動車税も税率が上がる。2016年には給与所得控除が縮小されるといったように毎年影響が続く。

 今回の税制改正大綱は企業に優しい大綱と言われている。それは企業が従業員の給与を増やすという前提に立っているからだが、すべての企業が給与を増やすかどうかは未定である。企業の態度によっては、国民の労働形態にも変化が起きるかもしれない。そうなると、公的扶助や福祉・保育・教育などのさまざまな自治体サービスに影響が及ぶかもしれない。そこで、2014年には、世の中の動きを迅速に把握し、それ以降にも続く税制改正による世の中の変化を見通しておくことが必要である。たとえば、従業員の給与が上がらず、専業主婦だった妻がパートに出ることになった場合、保育施設や学童施設に頼るかもしれない。たとえば生活保護費を必要とする人が増えるかもしれない。自治体サービスの提供に動きがでる可能性の一方で、地方税や国保、保育料、授業料、給食費などの徴収にも影響を及ぶ可能性が出てくる。このように歳入歳出両面の動きがでると、最終的には予算にも影響してくる。備えあれば憂いなしで、2014年から世の中の動きを把握して見通しを立てることは重要である。

③PPPやPFIも含めた効率化手法を用いながら財政を乗り切る

 自治体の財政は相変わらず厳しい。少子高齢社会のなか、住民のニーズはますます高まり、予算はいくらあってもいいくらいである。また、どこの自治体もバブルがはじけてから一時期、新卒採用を抑制しており、団塊世代の退職も重なり職員不足が生じている。職員不足はこれからも続くため、安倍政権の官業開放の掛け声がなくとも、実務面からみて、民間企業やボランティアなど住民の力も借りながら、自治体サービスを提供していく機会が増えて行くだろう。官民連携手法は、これまでも、民間委託、PFI、指定管理者制度やボランティアなど、いろいろな形で活用されており、このような手法が効率的に自治体サービスに貢献するならば、どんどん活用し、この厳しい財政を乗り越えていってほしい。

④税収減を防ぐ自動車税環境性能割の導入

 自動車取得税や自動車税、軽自動車税は徴収額に地域差が少ないので、自主財源に優れた税とされてきているが、消費税率が10%になった段階で自動車取得税が廃止されることとなった。自治体にとって、せっかくの財源が減ることとなったのは、大変残念なことである。2014年から自動車取得税の減税が始まることになるが、朝日新聞の試算(2013年12月13日朝刊3頁)によれば、2014年の段階で900億円のマイナス、廃止後は1900億円のマイナスと書かれており、大変な痛手である。しかし、代わりに自動車税の取得時の課税として環境性能課税(環境性能割)を導入することになった。これは環境損傷負担金的性格を持ち、自動車取得税が持っていた同様の役割を引き継ぐことになる。朝日新聞の同じ試算では、1000億円のプラスが見込まれている。

 環境を維持・改善する目的の税制は各先進国でも取り組まれており、この新しい自動車税は地方税のグリーン化という役割を担う注目すべき税である。自治体でも、この新しい自動車税の環境性能割をきちんと理解し、環境を維持・保全する役割を担う準備を始めてほしい。

⑤世界と交流する自治体になる

 最後に、日本の自治体の取り組みを世界に発信することを勧める。私は時々、諸外国の自治体に訪れたり、メールのやり取りをしたりしているが、各国の自治体の状況を知り、日本の自治体の状況を伝えると、日本の自治体も捨てたものじゃないと実感できるし、諸外国の自治体の方々も同じような悩みや課題を抱えていることも分かる。私は、いつも、どこの国も公務員は公務員だなあと思う。考え方や話し方が似ているのである。試しに、読者のみなさんも他国の自治体の職員と交流してみよう。そうすれば、日本の良さ、自身の自治体の良さを実感でき、世界のなかで日本の自治体が貢献できることがみえてくるはずである。なにより世界は広いな、楽しいなと思えるはずである。