メディア掲載 財政・社会保障制度 2012.05.08
前回の連載記事でも述べたように、厚生労働省は2011年5月、国会の厚生労働委員会に提出した社会保障制度改革案において、医療イノベーションの評価、特に薬価算定に医療経済学的手法の応用を検討する旨を明記した。また、平成24年度の厚生労働科学研究費において、費用対効果を勘案した医療技術等の評価に関する研究・調査の要望額として8千万円が計上された。そこでは、「保険償還価格の設定において、医療技術、医薬品、医療機器の保険償還価格の設定におけるさらなるイノベーションの評価及び、費用対効果を勘案した評価の導入に向けた取組を実施」と謳われ、導入に向けた今後のステップとして、平成26年度一部導入、更にその後の全面的な導入が明記された。政府が示唆したこの医療技術評価(HTA)導入へのロードマップには、正式な導入時期は明記されていないが、診療報酬改定のタイミングを考慮すれば、全面導入は平成28年度か、それ以降の偶数年度と考えられる。
このロードマップには産業界からも大きな関心が寄せられているため、新制度の円滑な導入のためには、まず、関連用語への共通認識が必要である。連載第1回の記述通り、そもそも学問の発展には用語の標準化が必要であり、国際医薬経済学・アウトカム研究学会(ISPOR)により編纂された用語集―原題 "Health Care Cost, Quality, and Outcomes - ISPOR BOOK OF TERMS" の日本語版が、その役目を果たせるのではないかと期待されている。今後、そのような書を通じて、我が国における医薬経済学やHTAの必須知識と、それを語る共通言語を確立する必要がある。
そこで今回は、医薬経済学と医療経済学の相違点をはじめ、とりわけ重要な概念である科学的根拠に基づく医療(EBM)及び価値に基づく医療(VBM)が、HTAとどのように関連するかについて考える。
<医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団より許可を得て医薬品医療機器レギュラトリーサイエンスVol.43, No.4, P.319-324 (2012) より転載>