コラム  国際交流  2011.11.30

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第32号(2011年12月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない。ハーバードにいる一研究者である筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

 10月下旬から11月初旬にかけて欧州出張をした際、①チェルノブイリ原発の事故発生時、仏国政府の対策を立案したパリの友人と、また②欧州の代表的な中国専門家(Sinologists)の能力と評判に詳しいベルリンの友人と面談を行い、筆者自身が気付かない視点・論点を数多く教えてもらった。

 それにしても国際間の知的対話を実りあるモノにするのは難しい。いや、実は知的対話は国内ですら難しいのが現実なのだ。我が研究所(CIGS)の仲間は、この点に関して次の様に論じている--(a)山下一仁氏は「TPP交渉 参加反対論の不可解さ」(9月24日付『北日本新聞』)の中で、農業に加え、医療、労働、投資の分野等で反対論者が「世界の通商交渉について十分な知識もないままで、想像で反論を作り上げている」点を指摘し、また(b)瀬口清之氏は「日本経済の復興の行方が、今後の日中関係を決める」(5月31日付『日経ビジネスオンライン』)の中で、中国に出張し自分の目で中国を見て理解する人が急増する現在、「偏った報道を続ければ、早晩、日本のメディア自身が信頼を失う」危険性を指摘している。これに関し、欧州の友人達も歯に衣着せぬ意見を述べていた--(i)「日本のTPP反対論者は、政治経済学や国際情勢を正確に理解し、国際的な議論を俯瞰した上で国内議論を進めているのか? 単に外国との交渉能力が無いだけではないのか?」、(ii)「日本のマスメディアは予備知識、語学力、調査能力が貧弱だ。自国のなでしこジャパンですらワールドカップで優勝するまで真価を見抜けなかったではないか!」、また(iii)「(世界遺産の)平泉や小笠原では世界に開いた姿勢、農業では世界に背を向ける姿勢を採る日本は精神的に問題(schizophrénique)では?」、と。

 これに対し筆者も"日本男児"として微笑みつつも反駁しない訳にはいかなかった--「確かに君の様なENA出身のエリートは素晴しい"考える葦(un roseau pensant)"だ。が、ポアンカレが指摘した通り、仏国民の大多数は"考えない人達(des hommes sans pensée)"でしょ?」、と。また「偉大な哲学者はドイツ・メディアを酷評したよ--"低劣な著述家の大多数は、新刊書しか読まない民衆の愚かさだけを頼りに生きている: 彼等の名はジャーナリスト(Ein große Menge schlechter Schriftsteller lebt allein von der Narrheit des Publikums, nichts lesen zu wollen, als was heute gedruckt ist--die Journalisten.)"」、と。・・・



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「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第32号(2011年12月)