コラム  2023.12.05

世界経済の潮流と金融市場:2024年に向けて

堀井 昭成

 米中対立、ウクライナ戦争、パレスチナ紛争などを伴いつつ、世界で緊張が高まっている。そのなかで日米経済は完全雇用のもと、それぞれの物価安定に向かっている。来年はどうか?当研究所は計量的経済見通しを作っていない。ここでは、世界経済に現在作用する力のなかで特に重要、と筆者が考えるものについて触れてみたい。


 まず、アメリカの経済政策。冷戦終結後30年間に前進した「もの、ひと、かね」のグローバリゼーションが近年それぞれの面で後退し、つれて経済活動の不確実性が高まりコストが増加してきた。(注1)アメリカでは、この間に拡がった富の格差を背景に国民の政治的分断が顕著になった。そこでコロナ禍に見舞われた2020年、政府は大型の財政支援を、中央銀行は金融緩和を実施し、2021年には景気が回復するなかでも、所謂 inclusive recovery(つまり格差縮小)を狙って財政支援と金融緩和を続けた。(注2)その後インフレが明確になるにつれて金融政策は引き締めに向かったが、財政面では2022年夏「インフレ低減法」(IRA)とCHIPS法による企業向け大型財政支援が決定されて、今その効果が企業投資に発現しつつある。


 最近のアメリカ経済の動きをマクロ経済学の教科書的に理解すると、財政政策の拡大によってIS(投資貯蓄)曲線は右上方にシフト、この間金融引き締めによってLM(流動性)曲線は左上方にシフトした。そこでアメリカ経済の均衡点は、景気拡大、金利高、ドル高を伴い成立した。株価については、金利高によるPERの低下と経済成長によるROEの上昇が相殺するなかで、強弱ニュースに反応して浮動した。


 2024年は?これまで需給逼迫をもたらした要因、すなわち財政支援に支えられた個人消費とコロナ禍に伴う供給障害(含む労働)は、後退する方向にある。しかしながら、財政の投資刺激効果が続く中で、国際紛争・対立が激化するもとでは支出面からも財政赤字は継続するだろう。そうしたもとで完全雇用が急速に崩れるとは見込めないため、金融政策はインフレ減衰の程度を見極めつつ慎重に緩和を探るものとみられる。


 次に、シリコン・サイクル。半導体などITC関連業界の生産は、世界市場における在庫・設備循環によって2年上昇、2年下降の循環を辿ってきたが、2023年暮れには底を打って上昇過程に入りつつある。この循環に最も敏感なのが中国、韓国、東南アジアの経済だ。中国経済については、近年、不動産投資と負債膨張のツケの表面化や共産党中央のよる民間経済活動の締め付け強化などから経済成長が下方屈折したうえ、2023年はシリコン・サイクルの下降期にあたったため製造業中心に不振が増幅されてきた。バブル崩壊後の日本経済にも短期的景気循環があったように、中国経済も、構造的な調整圧力が続くもとでも、シリコン・サイクル面からは2024年に景気上昇局面を迎えよう。中国経済と共振するアジア経済、そしてドイツ経済も同様に。


 こうした海外経済の展望にそれと整合的な金融市場での均衡を重ねると、日本経済を取り巻く環境はまずまずだ。次にリスク分析に進むべきだろうが、紙面の制約からここで筆を止める。2024年を「甲辰」(きのえたつ)年にふさわしい生成・成功の年にしたいものだ。


[1] 2022.06.03 『パラダイムシフトの加速』
https://cigs.canon/about/management/akinari_horii/20220603_6820.html

[2] 2021.06.07 『インフレ懸念、あるいは渇望』
https://cigs.canon/about/management/akinari_horii/20210607_5914.html


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