著者 松山 幸弘
出版社 日本医療企画
ISBN 9784864393751
価格 本体2,500円+税
発行 2015年7月初版
松山 幸弘
Yukihiro Matsuyama
研究主幹
迷走した非営利ホールディングカンパニー型法人制度
現在進んでいる医療・介護改革は、わが国の未来にとって、大きな意味を持っています。しかし、政策決定の過程でさまざまな会議が開催され改革の具体案が提示されるものの、それが全体最適なのかどうかが示されていない現状があります。そこで、改革の正しい解釈、経営に与える影響をわかりやすく解説したいと考え、本書を執筆しました。私が前著(『医療改革と経済成長』日本医療企画刊、2010年)で提言した非営利ホールディング型大規模医療事業体の創設が日本再興戦略に盛り込まれましたが、厚生労働省検討会で迷走し、地域医療連携推進法人という形で落ち着きました。迷走の原因は、社会保障制度改革国民会議報告書において、医療提供体制が非効率である原因を民間医療法人が多いからだと断定し、ライバル関係にある医療法人をグループ化する政策提言をしたからです。しかし、ライバル関係にある持分あり医療法人がグループ形成することは、ほぼないでしょう。検討会終了後、法人格のない公立病院も地域医療連携推進法人に参加できることになり、新型法人が公立病院を中心につくられる可能性が高まりました。これにより、医療提供体制のガバナンス改善が期待されます。
都道府県の地域間競争がはじまる!
一方で、国の財政危機という問題も考えなければなりません。都道府県単位で医療提供体制と財源をコントロールすることになれば、地域によっては病院の倒産が増えるかもしれません。地域医療介護総合確保基金に財源をプールし、医療提供体制のガバナンス強化を目指すことが必要になるでしょう。
都道府県はこれまで、医療介護を総合的に見て、政策を決定した経験がありません。今回の改革により、知事が医療介護福祉制度運営の成否を左右する時代が到来したことに、早く気づくべきです。医療介護福祉制度運営こそが都道府県の最大の仕事になることを自覚している知事はまだ少数でしょうし、知事を支える専門能力を持った職員もいません。今後、このような専門人材を育成することが、厚生労働省の大きな課題になるのではないでしょうか。
医療経営士向け機関紙「MMSニュース」2015年8月号(一般社団法人日本医療経営実践協会)の「おすすめの本」より転載