著者 松山 幸弘
出版社 株式会社日本医療企画
ISBN 978-4-89041-958-6
価格 本体2,500 円+税
発行 2010年11月10日
松山 幸弘
Yukihiro Matsuyama
研究主幹
本書は、医療を経済成長のエンジンに転換する改革の方向を論じたものである。諸外国と比べて、わが国の医療提供体制には、医療施設の機能分化が未熟なうえ に、個々の医療施設がバラバラに経営されているという欠陥がある。これを解決するには、地域医療圏単位で異なる機能を担う医療施設群を垂直統合することに よってセーフティネット医療事業体、即ち日本版IHN(Integrated Healthcare Network)を全国各地に創る必要がある。
このような考えのもとに、第1章では、わが国における医療改革論議の常識の誤りを列挙した。例えば、医療費抑制策のもと診療報酬が低すぎるという批判があ るが、診療報酬が10年ぶりにプラス改定される直前の2009年度でも、IHNに類似した地域医療ネットワークを形成できている民間医療事業体の経常利益 率は10%超であった。第2章では、医療財源と医療提供体制が共に公的制度を中心に運営されている英国、カナダ、オーストラリアにおいて進められている医 療改革を、地域医療ネットワーク事業体のガバナンスの視点から解説した。第3章では、オバマ大統領の医療改革を概観したうえで、米国の代表的IHNの経営 戦略、病院・医学部を直接輸出するようになったブランド医療事業体と医療産業集積について記した。第4章では、日本版医療ニューディール計画と題して、公 的医療保険にオプションを導入することや、国公立病院と社会医療法人を核に日本版IHNを創造することを提案した。
政府が新成長戦略として掲げる「新たな医療技術の研究開発・実用化促進」を進めることによって、医療関連産業の国際競争力を高めることに全力で取り組まね ばならない。そのためには、本書に記したように、セーフティネット医療事業体の規模を拡大し、世界中から医師、患者、研究者が集まる仕組みをつくり上げる ことが不可欠なのである。