イベント開催報告 グローバルエコノミー
去る1月21日(火)に東京・新丸ビル11階キヤノングローバル戦略研究所会議室にて、Workshop of Search and Platformが開催された。このイベントは、昨年からのワークショップに引き続き、経済理論の立場から消費者の探索行動およびプラットフォーム経済を研究する経済学者が集まって開かれた対面ミーテイングである。
前回と同様、一般に公開し聴衆を募った。また学術研究だけではなく、公正取引委員会において政策担当者の実地で活躍する実務者を招待した。
産業組織論における世界的第一人者であるVolker Nocke(University of Mannheim)をゲストスピーカーとして招いた。“Oligopoly, Complementarities, and Transformed Potentials”と題して、現在取り組んでいる研究を発表した。プラットフォームをモデル分析する際に多数の差別化された財を取り扱う企業の価格付け問題がしばしば現れるが、その問題の複雑さからテクニカルに分析困難であることが知られている。関連する現存する研究では、代替財に限ったモデルがあるが、プラットフォーム企業を分析するには不向きである。そこでこの研究では、ポテンシャルゲームという手法を用いて、補完財まで含めたより一般的な形で均衡分析が可能となる方法を開発した。これは、店舗内では補完財だが店舗間では代替財など、プラットフォームでしばしば見受けられる財の異質性のパターンとショッピング行動との関係を掘り下げて考えるうえで有益な分析ツールとなっている。
Jose Luis Moraga Gonzalez(Vrije Universiteit Amsterdam)は、“The Agency and Wholesale Models When a Platform Can Charge Entry Fees”において、仲介企業が仲介モードを選択する上で、いわゆるAgency model(基本的に売り手が価格設定を行い、仲介業者はプラットフォームとして取引手数料を設定)とWholesale model(仲介業者が買取価格と販売価格を設定)のパフォーマンスを分析した。特に売り手に対する参入手数料を自由に設定できる場合とできない場合とを比較することで、多くのケースにおいて前者のAgency model(プラットフォーム・モード)のほうが様々な指標で優位になることが示された。
Marcel Preuss (Cornel University)は、“Search Platforms: Big Data and Sponsored Positions”において、多くのプラットフォームで実際に使われているスポンサー・ポジション(オークションで得られる優先的に広告・検索される)およびオーガニック・ポジションがどのような経済学的メカニズムによって成立しているかについて研究報告をした。後者のオーガニックサーチでは買い手は時間を要する探索を強いられることが通常である。プラットフォームは敢えてオーガニック・ポジションに提供する情報を制限することで、オーガニック・ポジションの優位性を高め、売り手がオークションで支払う額を高めることができる、と論じた。
田部井靖典(公正取引委員会)は、““Recent Developments regarding Platform Regulation - The Act on Promotion of Competition for Specified Smartphone Software-”において、最近公正取引委員会が取り組んでいるプラットフォーム規制、「特定スマートフォンソフトウェア競争促進法(MSCA)」の策定にまつわる進展についての研究報告がなされた。背景には、特定ソフトウェア市場が少数の事業者による寡占状態にあり、市場競争を妨げられ新規事業者の参入が難しいという現状がある。特に、自己優遇行為や競争を妨げる行為を禁止し、透明性の確保や新規参入の促進を求めることにより、消費者の選択肢が拡大し、公正な市場環境が整備できると期待される。さらに、EUのデジタル市場法(DMA)や米国、英国の競争促進政策と調和を図りつつ、日本市場特有の課題に対応する意図が説明された。
さらに、最近の学術研究諸分野について、専門家から報告が行われた。佐藤進(一橋大学)は “ Asymmetric Platform Oligopoly”において、非対称なプラットフォーム競争をモデル化し、異なるユーザーグループ間およびグループ内のネットワーク効果そして参加費を明示的に考慮することで、品質の変化や互換性の調整が収益や市場シェアにどのように寄与するかを分析した。佐藤美里(岡山大学)は“Manufacturers’ Dilemma Falling into Exclusive-Offer Competition: A Laboratory Experiment”において、二つの上流企業が共通する一つの下流企業を利用する状況で、下流と上流の交渉力や製品差別化の程度が排他的取引が採用されるかどうかを決める、と論じた。渡辺誠(京都大学)は“Middlemen and Liquidity Provision”において、巨大プラットフォーム企業等にみられるような、仲介業者とサプライヤーとの間の企業間信用についての理論分析が報告された。運転資金の必要性や生産性の違うサプライヤーをうまく組み合わせて引き入れることで、流動性プールを確保しつつ、サプライチェーン全体の効率性を引き上げることができるロジックが明かされた。
今回は特に、最新の理論研究における新展開という点からみて、意欲的で質の高い活発的な議論が行われた。学びの多い、非常に有益な会合であったと評価できる。また前回と同様、アカデミクス、規制担当者の実務者などバックグラウンドの異なる研究者間交流も、議論の幅を広げる価値のある機会を提供しており、今後も引き続き進めていく予定である。