イベント開催報告  グローバルエコノミー

「Workshop of Search and Platform at Canon Institute for Global Studies」(サマリー)

2024年1月16日(火) 開催
会場:キヤノングローバル戦略研究所 会議室

経済理論

去る116日(火)に東京・丸ノ内の新丸ビル11階キヤノングローバル戦略研究所会議室にて、Workshop of Search and Platformが開催された。このイベントは、経済理論の立場から消費者の探索行動およびプラットフォーム経済を研究する経済学者が集まって開かれた初の対面ミーテイングである。

この研究ネットワークは経済学のアカデミック・コミュニテイーである。その問題意識は、情報技術の革新によってもたらされるオンライン上での消費・購買行動の変化やプラットフォームに固有のプライシングや新しいビジネス戦略などの経済合理性を解明することにある。そうした革新が、市場や経済全体の働きにどう影響しているのか、またプラットフォーマーに対する規制はどのようにデザインすべきか、などを議論する場である。

分析対象は、財・サービス市場だけに限らない。例えば、労働市場における雇用仲介は近年その重要性を増しているが、その社会的機能についてはこれまで十分な分析が行われてきたとはいえず、政策的対応を議論する上での大きな障害となっている。また、労働市場の機能は、財市場と比較しても、各国の制度や慣習に影響される部分が大きいため、労働市場を対象とした分析によって、今後の政策議論に資する有益な成果が期待できる。

今回のミーテイングは初回であったため、顔合わせの意味も込めて、このワークショップのコアとなる参加者それぞれによる最近の研究を発表することとなった。

石原章史(東京大学)は“Exclusive content in two-sided markets”において、コンテンツ・プロバイダーがプラットフォームにおいて、「限定コンテンツ」(そこでしか入手できない種のもの)を提供する誘因について議論した。そもそも消費者の購買可能性を制限するのはなぜなのか。それは、あえてコンテンツの入手経路を制限することで、マルチホーミング(複数のプラットフォームへの参加)を誘発し、それがコンテンツ・プロバイダーのプラットフォームに対する交渉力を引き上げる効果があるためであるという。

大木良子(法政大学)は“Product line and multihoming”において、同様の経済現象が垂直的な関係においても起こりうることを議論した。つまり、上流企業はある特定の下流企業にのみしか製品を流通させないことがある。それはマルチホーミングを誘発する効果があるためで上流企業にとって理にかなっているという。ここではさらに進んで、こうした取引慣行を制限するとかえって経済厚生を引き下げてしまうことが示された。

橘高勇太(一橋大学)は Try before you buy: A P2P product sharing market with individual uncertainty”において、ピアツーピア・レンタル市場構築について議論した。実際に使用してみないとその消費価値がわからないような経験財で、レンタル市場の存在が“try before you buy”を促し、製品需要および企業の利潤を引き上げる効果があるかどうか、また、価格差別を促進する効果があるかどうかが吟味された。

佐藤進(一橋大学)は“Competitive platform design”において、競合するプラットフォームに対する規制について議論した。まず、参入者よりも既存のプラットフォームに対する規制が消費者余剰を確保するためには重要であることが指摘された。また、自己優遇、出店商品の模倣、検索アルゴリズムの操作など懸念される経済行為について、それぞれに対する規制をいかにデザインすべきかが吟味された。

本多純(信州大学)は“Navigating the marketplace: modeling seller search and exploring applications in platform businesses”において、仲介業者の探索活動を明示的に考慮することで一物一価が崩壊する可能性について議論した。最終消費財における売手(仲介業者)による価格探索が卸売価格および小売価格を分布させる。また、競争促進的に市場構造を改変しても、経済厚生がかえって低くなってしまう可能性が示された。

潘聡(京都産業大学)は“Search Prominence and Loyal Consumers”において、サーチ・プロミネンス(探索市場において高位の順番で検索されること)が市場のパフォーマンスに与える影響について議論した。特に、贔屓の顧客をもたない企業がプロミネンスをもった場合、そうでない時と比べて、競争が減り消費者厚生が低くなること、また、贔屓の顧客をもつ企業ほどプロミネンスを享受したがらないことが指摘された。

安井佑太(高知工科大学)は“Effects of rating systems on platform markets: monopolistic competition approach”において、プラットフォームの評価システムのデザインについて議論した。評価システムの精度を上げることによって、消費者厚生は上がるが、企業の退出を考慮すると必ずしもそうならない。また、プラットフォームは消費者厚生を最大化しているのかそれとも企業利潤を最大化しているのかが分析された。

渡辺誠(京都大学)は“Search and Intermediation”において、仲介モード選択による市場構造の決まり方について議論した。一つは、ミドルマン(商人)で、在庫保有によって「安く買って高く売る」モード、もう一つは、プラットフォームで、売手と買手をつなぐ場を提供して手数料で稼ぐモードである。現実の仲介市場ではこの二つを同時に行うミックス・モードが主流になってきておりそれがどのように生じるかが示された。

どの論文も、最先端のトピックを扱っており、報告者、聴衆を巻き込んだ質の高い活発な議論が行われた。総じて、この分野で活躍する日本の研究者間の絶好の意見交換の場、情報共有の場になったと評価できる。

今後の活動として、年に数回の同様のワークショップを計画している。特に、公取をはじめとする政策担当者や現実のプラットフォーム企業やビジネス戦略の実地で活躍する実務者をゲストスピーカーとして招待して、少しずつ議論の幅を広げていく予定である。