イベント開催報告  エネルギー・環境

CIGS 法と科学技術セミナー「科学技術とリスク、そして、正義」

2019年2月12日(火) 15:30 ~ 17:00 開催
会場:キヤノングローバル戦略研究所 会議室

安井至氏から、以下の内容で講演がありました。

パリ協定など、気候変動に対する国際枠組みは、環境正義 climate justice という概念を出発点としており、日本人には理解しにくいところがあるが、これを正しく理解がする必要がある。日本が生き残っていくには、「安心」のような情緒的なものではなく、自らが変わっていくという姿勢の下で、確率・リスク概念を理解し、従来なかった科学技術を結合させながらイノベーションを達成する必要がある。

これを受けて、参加者との間で活発な質疑応答が行なわれました。

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(左から安井氏、芳川氏)

開催概要
題目: 「科学技術とリスク、そして、正義」
発表者: 安井 至(東京大学 名誉教授、元国連大学 副学長)
趣旨説明:芳川 恒志 (キヤノングローバル戦略研究所 上席研究員)
モデレーター: 豊永 晋輔(CIGS「原子力と法」研究会 座長)


開催趣旨
パリ協定が合意された2015年は、恐らく、人類史に永遠に残る年になるだろう。産業革命以来、人類が依存してきた化石燃料の使用だが、燃焼時に発生するCO2による気候変動のリスクを考慮すると、すぐに排出量を削減し、今世紀後半には排出量を正味ゼロにしなければならない。これは、文明の基本的な構造が変化することを意味する。
当然のことながら、化石燃料に依存する技術は、産業革命以後、順調に開発され、人類の生活に多大な利便性を与えた。しかし、今世紀中に気候変動リスクに対応するために、その利便性を捨てなければならない。その人類史の方向性をここで180度転換することになる。当然、利便性の一部を失うことになるし、これまで化石燃料に依存してきた経済システムも大幅な変化を求められることになる。
パリ協定では、このような大幅な変化を人々が容認できるような仕組みとして、「気候正義」という言葉を導入した。これも恐らく、過去の国際交渉では、無かったことだと思われる。それ以前の国連を中心とした世界の流れの中では、せいぜい、「持続可能性」という言葉がその流れを規定する思想を表明していたに過ぎない。
この正義という言葉から受ける印象は、それぞれの国民によってかなり異なっているものと推察される。日本人にとっては、「正義」は使うべきでない言葉という分類に属しているようにも見える。また、リスクという言葉に対する対応にしても、実は、各国によってその意識は様々である。平均的な日本人で、リスクという考え方を採用している人々は極少数である。ゼロに近いかもしれない。
今後、パリ協定にどう対応するのか、と問われれば、それは、「科学技術を発展させて、イノベーションによって対応する」、としか言えないのが現状である。パリ協定への対応技術はエネルギー技術であって、エネルギーには多かれ少なかれリスクが存在している。すなわち、未来のあり方を探るには、科学技術、リスク、正義、この3つの単語が非常に重要になっているのが、現状であると考える。
今回、「イノベーション」と、「科学技術、リスクと正義」を考察してみたい。


プログラム
ProgramPDF: 230KB


発表資料
安井至 発表資料「『科学技術』、『リスク』 そして『正義』」PDF: 1.90MB


発表者紹介
安井 至(東京大学 名誉教授、元国連大学 副学長)
平成2年7月 東京大学生産技術研究所 教授
平成8年5月 東京大学国際・産学共同研究センター センター長
平成15年12月 国際連合大学 副学長
平成17年6月 東京大学 名誉教授
平成20年1月(独)科学技術振興機構研究開発戦略センター 上席フェロー
平成21年4月(独)製品評価技術基盤機構 理事長
平成27年7月(一財)持続性推進機構 理事長

専門分野:
環境研究関係、リスク評価、LCAなどによる環境総合評価法から総合環境科学へ。
最近は、環境・エネルギーイノベーション

審議会等:
環境省中央環境審議会委員
文部科学省科学技術・学術審議会技術・環境エネルギー小委員会 委員長
資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会
電力・ガス事業分科会原子力小委員会 委員長
など