イベント開催報告 外交・安全保障
2016年4月19日(火)
開催
会場:米国・ワシントンDC(Stimson Center)
【開催概要】
ワシントン市内のスティムソンセンターで公開セミナー"How to Face Global Security Challenges in a Connected World?: US and Japanese perspectives"(共催:キヤノングローバル戦略研究所・スティムソンセンター)を開催し、宮家研究主幹と神保主任研究員の両名がパネリストとして登壇した。モデレーターは辰巳主任研究員が務めた。(参考:尚、同セミナーの動画および登壇者の略歴についてはこちら(外部サイト:http://www.stimson.org/content/world-flashpoints-us-and-japanese-perspectives )
米側のパネリストはリンカーン・ブルームフィールド (Lincoln Bloomfield Jr) ・スティムソンセンター理事長(元国務次官補、国務次官補代理、安全保障担当副大統領次席補佐官などを歴任)、ジュリアン・スミス(Julianne Smith) 新アメリカ安全保障センター(CNAS)主任研究員(国防省NATO部長、安全保障担当副大統領次席補佐官などを歴任、ヒラリー・クリントン陣営の外交・安全保障政策アドバイザーの一人)が登壇した。
【各登壇者の発言内容】
宮家研究主幹
(1)領土的野心と攻撃的ナショナリズムにより動機づけされたロシア、中国、イランなどの大国の勃興
(2)中東でのIS、米国大統領選における候補者の議論に共通する、エスタブリッシュメントへの怒りに端を発する過激主義への傾倒
(3)米国が中東・アジア・欧州の3地域で同時に危機に対応することがもはや不可能であるという現実がもたらす不安定要素
について指摘した上で、米国の同盟国間でより一層の政策協調や情報共有が必要になる、という問題意識を提示した。
ジュリアン・スミスCNAS主任研究員
自身がバイデン副大統領の下で国家安全保障担当次席補佐官を務めていたときの経験を振り返りながら、現在の複雑な安全保障環境への対応が困難になっていることを指摘した。
具体的には
(1)主要大国との伝統的な国際関係
(2)「ならず者国家(rogue states)」や「崩壊国家(failed states)」との関係
(3)ISなどの超国家的脅威
の3つのレベルに複合的な政策が求められるという視点である。しかし、米政府は第2次大戦後の政府機構を維持しており、国際環境の構造変化に対応できないことが指摘された。
今後については米国がG20やG7など、既に存在する多国間会議の機会を捉えて、同盟国やパートナーと戦略評価に関する情報交換を行うなど、普遍的価値を共有する国の間で、もっと大胆な情報共有に向けた努力が必要であること、また米政府の機構として肥大化しているNSCのスリム化を図ることにより本来の長期戦略を策定する機能の回復が必要であると提言した。
神保主任研究員
過去10年間の国際安全保障環境の対比の中で、現代は日米欧の安全保障上の優先順位が分断されている、という問題意識が提示された。10年前のNATOや日米同盟は対テロ作戦やグローバルな課題への対応を念頭に「グローバル化」を目指していたが、現代はアジアにおける中国の台頭、欧州におけるロシア問題・難民・テロリズムのような喫緊の安全保障問題への対応にかかりきりになっている。他方で、日本は欧州諸国が中国に経済面での関与へ傾斜していることに苛立ちがあり、欧州諸国も日本がロシアとの外交的関与を模索していることへの不信感がある。地域間の意思疎通が図れていないことが、相互不信を生むことに繋がっている。こうした戦略環境の中で、地域を越えた、米国の同盟国同士での対話の促進と相互参照(クロスレファレンス)が必要である、と指摘した。
ブルームフィールド理事長
脅威が横方向に拡散している中、過激主義を抑えるために努力をすることが今後、少なくとも米国にとっては安全保障上最大の課題であり続ける期間が長くなるだろう、という指摘があると共に、このような問題に長期的に対応していくためには、「正義(justice)」「統治(governance)」といった共通の規範をベースにすることが肝要で、そのためには、これらの規範への信頼を共有する米国とその同盟国・パートナー国の間での連携が益々重要になるだろう、という発言があった。
【主な論点】
辰巳主任研究員(モデレーター)からパネリストに更なる質問をし、それをベースにパネリスト間で30分ほど議論をした後、会場との質疑応答を行った。この中で提起されたのは以下のような論点である。
1.米国の安全保障関連の政府機関を今後、どのように変えていくのが望ましいのか、また、大幅な改編はそもそも、現実味があるのか
2.米国が今から50年後も、世界で今のような立場にいるとは考えにくいのだが、その点についてはどう考えるか
3.フェイスブックなどのソーシャルメディアが政府内での議論にどのような影響を与えていると思うか
4.日米中の協調が重要だ、ということは何年も言われており、ハイレベル会合も行われているのに、一向に何の効果も出ないように見えるのは何故なのか