2026.04.22
最近、X(旧Twitter)やThreadsなどのソーシャルメディアが投稿者のIP位置を公開するようになったことをきっかけに、ある問題が注目を集めた。過去にX上で琉球独立を鼓吹していたアカウントについて、システム更新の過程で、その多くが中国のIPアドレスから投稿されていたことが明らかになったのである。
つまり、中国人が日本人や沖縄人になりすまし、インターネット上で琉球独立を宣伝する活動を行っていたということになる。しかも、その目的は、あたかも日本人自身が沖縄の日本からの分離を支持し、さらには中国への加入、すなわち中国の一部となることまで支持しているかのような幻想を作り出すことにあったと考えられる。
こうした認知戦のナラティブは、近年中国が沖縄問題に関して発信してきた主張と一致しており、中国が長年用いてきた認知戦の手法とも整合している。
さらに2026年2月末には、日本経済新聞が関連する調査報道を掲載した。同紙によれば、2月8日の日本の衆議院選挙を前にした1月中旬の選挙期間中、X上では中国が集団的に操作しているとみられる400以上のアカウントが、高市早苗氏に不利な内容の投稿を集中的に拡散していたという。
日経の分析によると、これらのアカウントはほとんどが匿名で、同じタグを使用していた。また、日本語に翻訳された文章の中には、中国語簡体字が残っていたり、中国語的な表現が混ざっていたりするものもあった。さらに、一部の英語投稿では、高市早苗の英語表記「Takaichi Sanae」を、中国語ピンインに基づく「Gaoshi Zaomiao」と表記していた例も確認された。この種の誤りは、中国語ピンインを日常的に使用する者でなければ起こりにくいものであり、投稿者の背景を示唆するものと言える。
日経の分析では、こうしたアカウント群には明確な役割分担が存在することも指摘されている。まず、元となる内容を投稿する「発信源アカウント」は、中国のIPアドレスから直接投稿しているケースが多い。その内容は、中国政府の公式立場や関連するナラティブを繰り返すものが中心である。
一方で、「拡散加速アカウント」はIPアドレスを隠した状態で投稿を行う。これらのアカウントは、発信源アカウントの投稿や、いわゆる「親野党」系アカウントの投稿をシェアする役割を担う。また互いに「いいね」を付け合うことで、投稿のリーチを人工的に拡大する仕組みも確認されている。
しかし、このような偽情報攻撃は最近になって突然始まったものなのだろうか。実際には、状況はそれほど単純ではない。
少なくとも過去10年ほどの間、中国のインターネットでは「シナリオ解説」と呼ばれる動画が流行してきた。もともとこれらの動画は、映画、ドラマ、漫画、アニメなどのストーリーを紹介するものであり、作品の内容を整理しながら短時間で視聴者に紹介する形式で人気を集めていた。著作権の問題はあるものの、少なくとも当初の動画は原作の内容を歪曲するものではなく、基本的には作品の内容を忠実に紹介するものであった。
しかし、この2〜3年の間に、性質の異なる「解説動画」が増え始めた。その多くは、日本の若い女性が撮影したVLOG動画を素材として使用し、そこにAI生成の中国語ナレーションを付けたものである。そして、そのストーリーでは、日本の若い女性が貧困状態にあり、ネットカフェや車中でしか宿泊できず、いわゆる「底辺職」に従事しながら企業に搾取されているといった描写が繰り返される。
こうした動画は中国国内で広く拡散されているだけでなく、台湾のネット空間にも流入し、少なくない再生数を獲得している。
筆者自身も当初は特に問題視していなかった。しかしある日、自分が以前から知っているYouTuberのVLOG動画が無断転載され、しかも内容とは全く無関係のナレーションが付けられていることに気づき、違和感を覚えた。実際、以下のような事例では、中国のクリエイターが日本のYouTuberの旅行動画を無断転載・加工し、中国語ナレーションを付けた上で、日本の若い女性の生活水準が低い、日本社会では安心して暮らせないといった内容を捏造している。
(中国で加工された動画:日本被压榨的底层女社畜,每晚都要喝酒解压,夜生活能有多凄凉?<https://www.youtube.com/watch?v=sUwo08IQoJQ> <https://news.qq.com/rain/a/20251231V01Y6Q00>)(元の動画:【格安船旅】最安個室で過ごす贅沢な12時間が快適でコスパ最強でした<https://www.youtube.com/watch?v=QagkUtJtYCo>)
このような事例は、単なる誤解や翻訳ミスの範囲を明らかに超えており、意図的な偽情報の拡散と見るべきだろう。
さらに2025年初頭から中旬にかけて、中国語圏のネット空間では、「私は琉球人であり、日本人ではない。私は中国人である。琉球独立、あるいは琉球が中国と統一することを支持する」といった字幕が付けられた動画が大量に出回った。これらの動画の多くは、日本の若い女性が撮影したものである。
中国語と日本語の両方を理解できる者であれば、動画の発言内容が字幕とまったく一致していないことにすぐ気づく。しかし、客観的に見れば両言語を理解できる人は少数であり、大多数の視聴者は検証する手段を持たない。そのため、日本人になりすました形で中国政府の立場を支持するように見せかけた動画の影響力は決して小さくない。
この種の情報操作は日中関係に限ったものではない。台湾のネット空間でも同様の現象が長年観察されており、むしろ台湾はこうした情報戦の「主戦場」とも言える状況にある。
長年にわたり、中国のIPアドレスを使用するアカウントが台湾人になりすまし、台湾社会を貶めたり、台湾政府を攻撃したりする投稿が数多く確認されてきた。
台湾で最も利用されている掲示板の一つであるPTTでは投稿者のIPアドレスが表示されるが、システム設計上、簡易VPNを利用すればIPアドレスの表示を偽装することが可能であった。
しかしXやThreadsが投稿者のIPアドレス表示を導入した後、簡易VPNではこの仕組みを完全に欺くことが難しくなった。中国のユーザーがVPNを利用して「防火長城」を越え、海外のソーシャルメディアを利用することはできても、プラットフォーム側では依然として中国のIPアドレスとして認識されるケースが多かったのである。
その結果、多くの台湾関連の偽情報アカウントが中国から発信されていたことが露見し、影響力が一時的に低下したとみられる。
しかし状況はそこで終わらなかった。数週間後には偽情報アカウントの活動が再び活発化し、しかも多くのアカウントのIP表示が「台湾」に変わっていた。
この背景には、より高度な「site-to-site VPN」と呼ばれる技術の利用があると考えられる。これはネットワークレベルでIP表示を偽装できる仕組みであり、従来の簡易VPNよりもはるかに高度である。
もっとも、台湾のネットユーザーも対抗策を模索している。例えばThreadsでは、ログイン画面で「パスワードを忘れた」を選択すると、登録された電話番号の一部が表示される。電話番号には国番号が含まれるため、+886であれば台湾、+86であれば中国である可能性が高い。こうした方法により、海外のネット工作アカウントを識別する試みが行われている。
さらに最近では、AIを利用して偽アカウントを大量に運用するケースも増えている。2026年2月、台湾では「林宅血案」(*注)を題材とする映画が大きな議論を呼んだ。この事件をきっかけに、台北101の董事長である賈永婕が台湾史に関心を持ち、自身のSNSを通じて台湾社会に歴史議論を呼びかけた。
しかし、こうした議論は「大中華史観」にとって不都合な側面を持つ。そのため、多数のAIアカウントが噂や偽情報を拡散し、議論の焦点をぼかそうとした可能性が指摘されている。
2026年、頼清徳総統によれば、この事件に関する重要資料の多くは当時の国民党政権によって抹消されたとされている。また、流出した資料によれば、映画「林宅血案」はシナリオの中で、この事件の真犯人を台湾独立運動家である史明氏に押し付け、いわば濡れ衣を着せようとしている。さらに、この映画の背後にある資金源については、当時の警備司令総部の関係者や中国が関与している可能性があるともみられている。
興味深いことに、台湾のネットユーザーはAIアカウントを識別する独自の方法も試みている。コメント欄に特定のコードや指示文を書き込み、AIアカウントがそれに反応するかどうかを観察するのである。AIであれば不自然な外国語投稿や奇妙な文章を突然生成する場合があるため、それが識別の手がかりとなる。
上述の状況は明確に台湾における中国か海外からの偽情報に対するレジリエンスを示し、V-DEM計画で書かれた台湾が世界中に最も偽情報に対して抵抗力がある国家/地域であることを十分に証明した。同時に、台湾が中国の認知戦の実験場となっている現実も浮き彫りにしている。そして最近、日本も同様の攻撃を受け始めている可能性がある。中国が台湾で蓄積した情報戦の経験を、他国へと応用し始めているのかもしれない。
民主社会において、国内政治の対立が必ずしも国内要因だけで生じているとは限らない。敵対的、あるいは非友好的な国家が影響力を行使している可能性も常に存在する。もし社会がその認識を持たなければ、民主国家であっても、権威主義国家の設計図に沿って変質していく危険性がある。そのとき民主国家は、知らぬ間に権威主義国家の「操り人形」となってしまうかもしれない。
(W)
*注:「林宅血案」は、白色テロ期の台湾における重大な政治事件である。元民進党主席である林義雄の自宅において、娘3人と母親が何者かに襲撃された。当時、林氏の自宅は国民党当局によって厳重に監視されていたが、その中で事件は発生した。林氏の母親と双子の娘2人が殺害され、残る長女も重傷を負った。この事件は現在に至るまで未解決のままである。