CIGS中国研究センター

エッセイ&コラム
台湾と友好国家との関係の分断工作を進める中国

2026.01.05

2025年12月前半、台湾における外交関連ニュースの中で、日中関係を除けば、最も議論を呼んだテーマは台韓関係であったと言えるだろう。しかし、この注目は自然発生的なものではなく、その背景には明確な理由が存在する。それは、ある偽情報の拡散だ。
その内容は、概ね次のようなものであった。
「台湾住民が韓国に入国する際、台湾が中国の一部であることを承認しなければ入国できないため、台湾社会が激怒している。李在明大統領は『台湾を中国台湾として承認しない者は韓国に来るな』と発言した。韓国は2025年12月5日にデジタル入国カード申請システムの更新を完了し、その結果、『出発地』『目的地』欄において台湾地域は『中国(台湾)』と明記され、中国の下に分類され、香港・マカオと並列された。台湾住民はこの項目を選択しなければ申請を完了できず、台湾を中国の一部として承認しなければならない。また韓国は1992年の『中韓建交共同声明』を引用し、台湾を中国の一部とする立場を改めて示した。」
この偽情報は、中国系サイト「網易」を起点として拡散した可能性が高い(原文リンク)。しかし、同記事で言及されている李在明大統領の発言は完全な捏造であり、李在明氏は近時、台湾に関する発言を行っていない。
さらに事実関係を確認すると、韓国はすでに2025年2月24日からデジタル入国申請制度を導入しており、その時点で入国カード上の表記はすでに「China (Taiwan)」であった。この表記は12月から新たに導入されたものではなく、実際にはデジタル化以前の2004年以降、長年にわたり使用されてきたものである。一方、香港については「China P.R. (Hong Kong)」と表記されて、台湾を「中国」と表記しているとしても、中華人民共和国(PRC)とは区別されていることが読み取れる。
それにもかかわらず、なぜ2月に存在していた制度が、12月になって突如問題化し、しかも中国のネット空間を中心に急速に拡散したのか。さらに、中国の官製メディアや国台弁といった政府部門までもが、この言説の拡散に加担したのはなぜなのか。この一連の動きには、中国が意図的に台湾と韓国の関係を分断しようとする政治的思惑が存在する可能性があって、検討に値する重要な論点である。

長年にわたり、中国は台湾と友好国との関係を弱体化させるため、さまざまな手段を講じてきた。その中でも頻繁に用いられてきたのが、今回の台韓関係を巡る事例と同様、偽情報を捏造して、それを外国の指導者や重要人物の発言であるかのように装う手法だ。こうした方法により、台湾社会と外国との信頼関係を破壊することが狙われている。
例えば、CCTVの記者が国連職員に対し「台湾は中国の一部である」との発言を引き出そうと試みた事例がある。結果的にその試みは失敗したにもかかわらず、中国の国営メディアは編集・加工を施し、あたかも国連がそのような立場を表明したかのように報道した。
また2023年には、米民主党所属の下院議員セス(Seth Moulton)氏が、アメリカのシンクタンクMilken Instituteの会合で半導体問題に言及して、抑止戦略の一例として「中国が台湾に侵攻した場合、TSMCを破壊するというメッセージを示す」という仮説的な議論を紹介した。
しかし、この発言も中国側によって文脈を切り取って歪めて解釈され、SNS上では「アメリカがTSMCを爆破する」という虚偽情報が大量に拡散され、台湾とアメリカの関係を破壊しようとする試みが行われた。
さらに最近では、中国がドイツ政府関係者との会談後、「ドイツが台湾は中国の一部であると承認した」と虚偽の主張を行った事例もある。同様の誤情報は日中関係においても見受けられて、場合によっては中国の外交部長である王毅氏自らが発信源となることさえある。しかし実際には、ドイツも日本も、中国の当該主張を公式に承認したことは一切ない。
これらの事例を総合すると、中国が台湾と外国との関係を破壊する手段として、金銭的誘因に加えて、認知戦を主要な戦術の一つとして位置づけていることが明らかだ。そして、この認知戦は主に二つのテーマに集中している。すなわち、国連総会決議2758号と、各国の「一つの中国政策」である。
国連総会決議2758号は、「中華人民共和国を国連における唯一の中国の合法代表と認め、『蒋介石の代表』を国連および関連機関から排除する」ことを定めたものであって、台湾の帰属問題を決定したものではない。しかし中国は、この決議が台湾の主権問題を解決したと主張している。
また、「一つの中国政策」に関しても、中国は意図的な誤訳を用いて国際社会を誤導している。例えば、英語の acknowledge(認識する)を中国語で「承認」と訳し、本来 recognize に相当する意味へとすり替えている。その結果、他国が中国の「台湾は中国の一部である」という主張を承認しているような印象操作が行われている。
中国は、こうした偽情報が台湾社会に反発や不信を生むことを十分に理解して、それゆえに、たとえ事実に基づかなくとも、台湾と他国との関係を分断するための有効な手段として活用している。台湾における「疑米論(アメリカを疑う言説)」は、その典型例だ。中国は、米国の政府関係者や学者の発言の一部を切り取って、自国のメディアやプラットフォーム、さらには台湾の現地協力者を通じて拡散することで、台湾社会における対米信頼を低下させてきた。この傾向は、特に国民党や民衆党の支持層において顕著である。

最近の台韓関係を巡る問題も、これと同様、あるいはそれ以上の影響を及ぼしつつある。悪意をもって拡散される偽情報や、文脈を歪めて利用される真実の情報(malinformation)の伝播速度が極めて速いため、「台派(台湾アイデンティティーが高い、普遍的に民進党か他の本土は政党を支持するグループ)」に大きな影響を与えている。その結果、頼清徳政権は迅速な対応を迫られて、外交部は直ちに声明を発表して、韓国外交部との交渉を行うに至った。
現時点では事態は完全には収束しておらず、筆者も最終的な結果を予測することはできない。しかし、少なくとも一部の「台派」の間では、台湾と韓国の関係に亀裂が生じつつあるのは事実だ。これには、台湾メディアが長年にわたり李在明氏を「親中派」として報道してきたことなど、複合的な要因も影響している。
集団防衛の観点から見れば、台湾とインド太平洋地域の民主国家との関係を分断することは、中国による台湾侵攻を容易にするための極めて単純かつ効果的な手段だ。特に、認知戦や偽情報といった、ほとんどコストを要しない戦術は、簡便でありながら大きな成果を生み出す。
インド太平洋地域、特に東アジアの民主国家が結束しなければ、地域の安全保障は連動的に弱体化し、権威主義国家は自らの拡張目標を容易に達成し得る。その結果、近年頻繁に議論されている「台湾有事」は、より現実的なものとなるだろう。「台湾無事」を実現するためには、友好国間の連帯を維持し、民主陣営が分断されることを防ぐ不断の努力が不可欠だ。
(W)

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