CIGS中国研究センター

エッセイ&コラム
野球が中国統一工作の標的に――伏線となったプレミア12での台湾チームの優勝。

2025.12.25

もうすく熱狂のWBCの季節がやって来る。高まる期待は台湾の人々にとっても同じ、いや、日本人より上かもしれない。台湾代表チームの正式登録名はChinese Taipei、しかし、台湾の人々は誇りを込めてTeam Taiwanと呼ぶ。

2024年11月24日、台湾チームは、オリンピック、WBCとならぶ世界三大国際試合「WBSCプレミア12」で優勝した。覚えている人も多いだろう。東京ドームでの決勝戦で、井端弘和監督率いる侍ジャパン(国際試合27連勝中だった)に勝利し、台湾が世界大会初制覇という偉業を達成したのだ。
台湾は5回に林家正のソロ本塁打、キャプテン陳傑憲の3ランで4点を奪い、そのまま逃げ切った。陳選手(岡田准一に酷似)はベースを回りながら、無地の青いユニフォームの胸に両手の人差し指と親指で枠をつくって観客にアピール。台湾の人々のハートが震えた瞬間だった。このジェスチャーの意味については、後に陳選手本人が「自分たちが台湾から来た選手だと伝えたかった」と明確に話している。台湾の島の形にも見える枠の中で、Taiwanという心のサインプレーが世界に送られていたのだ。
カナダで中継を見ていたという蔡英文・前総統も、メディアに「推し」の選手を聞かれ「もちろんキャプテン!」と即答。「好帥啊!(かっこいい~!)」と、失礼ながらまさかの乙女キャラを開陳。また、就任以来、野党主導の立法院との対立続きで、政治の分断しか見てなかった頼清徳総統も、この日ばかりは夢見気分だっただろう。もともと名うての野球ファンである。Team Taiwanが世界で一番だ! 野球が台湾を一つにしてくれた! 野球が台湾を救ってくれる、そして私を救ってくれる? などと思ったかもしれない。
「英雄」たちを乗せた飛行機は、戦闘機にエスコートされて桃園空港に帰り、蕭美琴副総統の出迎えを受けた。駆けつけた人々の大声援で、空港はまるで音楽フェス会場の雰囲気だったという。凱旋パレード当日、総統府前のケタガラン通りから台北駅までの沿道は、選手たちを一目見ようとする大観衆(公式発表は5万人)で埋め尽くされた。青白赤を装い、手には中華民国の小旗を持った人々。「台湾から来た」サインもあちこちで飛び交う。選手と観衆が一緒になって台湾チームのチャンス・テーマ「台湾尚勇(Taiwan No.1)」の大合唱が起きる場面もあった。「尚勇」とは中国語(北京語)では意味が通じにくいが、台湾語(閩南語)で「最高に勇気がある」という意味だ。野球の応援では、感情やリズムが合うことから中国語ではなく台湾語が使われるのが普通だ。
台湾代表チームの場合、ルール上、国際大会での公式戦ユニフォームにはChinese Taipeiとしか入れられない。しかし、練習着や私服ではTeam Taiwanのロゴが認められており、選手と同じTaiwanのロゴ入りパーカやTシャツなどの商品がさっそく市中に溢れかえった。胸に堂々と書かれたTaiwanの文字を見て、多くの台湾人は自然に思っただろう。本当は公式ユニフォームだってこっちがいい・・・。
なるものか。台湾の人々の野球への愛と熱狂を、なにか独立運動でも見るように無粋に観察する北からの冷徹な視線があった。この国の代表チームといえば、2023年WBC予選ではグループ全敗で最下位。うち韓国戦は、22対2(5回コールド負け)というWBC史に輝く大記録。2025年WBC予選も、3試合中2試合がコールド負けで全敗。その弱さは折り紙つきだ。悔しいな、そんなら野球でひとつ台湾を揺さぶってやれ。

2025年9月、突然、中国がプロ野球リーグ(CPB)の創設を発表した。まだ球団集めの準備段階だが、台湾プロ野球の人気球団と紛らわしい名称の球団ができると噂が流れ、新球団の代表は「野球はホームベース(祖国)に還るスポーツ」と宣った。きわめつけは、リーグ所属球団は30名の登録選手のうち10名は台湾・香港・マカオ出身者とするという露骨な規定だ。さすがにこれは後に取り消された。しかし、いずれにせよ大陸で一旦プロ野球リーグができてしまえば、今後、台湾の人気選手の獲得に各球団が触手を伸ばしてくることは目に見えている。

中国は、ついには野球さえも「台湾いじめ」や統一工作の手段として使うようになった。こんな所業は「野球の神様」が許さないだろう。といっても中国当局の幹部にはさっぱりわからないか。台湾や日本、韓国、米国・・自由な国の野球ファンなら誰もが知っている神様だ。(H)

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