キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2026年4月21日(火)
[ 2026年外交・安保カレンダー ]
今週は、戦後日本の「武器輸出政策」が大きく変わる、というニュースから始めよう。外務省現役時代から実に不思議で仕方なかった奇妙な政策が遂に変更された。漸く「普通の国」に近づき始めたと考え、筆者としては大いに歓迎しているのだが・・・。どうやら、巷にはそう思わない人々もいるようだ。
例えば、筆者の大好きな某リベラル系全国紙は、「国家がどうあるべきかの議論がないまま、なしくずし的に『武器を売りつけて戦争をあおるようなことをしない国』としてきた戦後日本の形を大幅に変えようとしている。平和国家のままと言いながら、実際は捨て去っている」といった「専門家」の意見を紹介している。
ここで関連報道内容を改めて整理してみよう。
高市内閣は4月21日、
何のことはない、普通の国ならどこでもやっている「外交・安全保障政策の一環」としての「自国製武器の選択的輸出」を漸く解禁したということだ。日本は1967年に武器輸出を一定の制限を課しつつ認めた「武器輸出三原則」を発表したものの、76年に三木武夫内閣がこれを事実上「全面禁輸」してしまう「愚」を犯した。
2014年には安倍内閣が「防衛装備移転三原則」をつくり、「5類型」に限るという条件付きで海外に輸出できるようにしたものの、「殺傷能力」のある武器は原則、輸出しないようにしてきた・・・。だが、このような「類型」や「殺傷能力」による区別の議論自体、筆者にはどうしても理解できなかった。
個人的に筆者は「兵士」になったことはない。しかし、何の因果か、1980年のイラン・イラク戦争から、1991年の湾岸戦争、2003年のイラク戦争などまで、中東での「実戦」を現地で直接・間接に体験した。だから軍事力の強さとは、個々の装備品ではなく、全体がシステムとして機能するか否か次第であることを知っているつもりだ。
誤解を恐れず申し上げるが、悲しいことに「戦争」とは究極的に破壊や殺人を目的とする政治の延長行為であり、全ての「武器・非武器」はこの目的のために使用されるものだ。とすれば、個々の装備品を「直接殺傷するか否かで」区別する意味は、心理的、政治的にはともかく、軍事的には必ずしもないかもしれないのである。この点については今週のJapanTimesにコラムを書くので、お時間があればご一読願いたい。
もう一つ気になるのは隣国の反応だが、少なくともロシアやイランを間接的に軍事支援しているに違いない中国に「新軍国主義」などと言われる筋合いはない。韓国だって「天弓」という国産のミサイル防衛システムをUAEに輸出し、北朝鮮の技術で作られたイランのミサイルを迎撃していると聞いた。それと同じことをして何か問題があるのだろうか?
ところで、先週はハンガリーのオルバン政権の敗北について触れると書いたが、今のところ欧米での論評は甲論乙駁でどうも収斂していない。少なくともこれで欧州の「民族主義的ポピュリズム」の流れが変わったとは言えないようだ。恐らく単純な楽観論も、過度な悲観論も、時期尚早なのかもしれない。
続いては、吉岡明子主任研究員によるロシア関連コーナーだが、今週は同研究員がまとめた「ロシアの経済成長減速とIT業界の懸念――ロシアのメディアから」を以下の通りご紹介する。ロシア・メディアが自国の経済を如何に見ているかを知る上で実に興味深い。
プーチン大統領は4月15日、経済閣僚らとの会合で、1~2月にロシアのGDPが1.8%のマイナス成長となった点を指摘した。ロシアは戦時経済の下で2023年と2024年には4%台の高成長を記録したが、その後は減速し、2025年の成長率は1.0%(ロシア統計局速報値)にとどまっている。
なお、イラン危機をめぐる原油価格の高騰や制裁の一時緩和によるロシアの財政面への恩恵は、4月以降に現れるとみられるため、引き続き注視が必要だろう。
こうした経済の減速と先行き不透明感が強まる中、独立新聞は、政府による通信規制やAI分野での規制強化に対し、IT企業や専門家が強い懸念を表明していると報じている。政府による通信制限と「ホワイトリスト」運用の不透明性により、企業はサービス提供の継続性を見通せず、投資判断が難しくなっている。
将来的に経済をけん引するはずのIT・AI分野への規制強化は、中長期的なロシアの経済成長モデルに深刻な影響を及ぼす可能性もありそうだ。
◆「非公開形式で議論される経済の過冷却」、4月19日付独立新聞(要約)
- 現在、経済の過冷却のリスクはクレムリンの関心の対象となっている。先週の経済会議でプーチン大統領は、GDPが1月~2月に1.8%減少したと述べ、政府に説明を求めた。
- 一方で、国内IT産業関係者らによる会議では、インターネット規制により投資の予見可能性が失われており、このままでは国内IT産業が数か月内にも「廃墟」となり得るとの懸念が示された。
- また、AI規制を含む新たな法案についても、専門家はその影響を指摘している。法案が採択されれば、一定規模以上のAIサービスは、ユーザー情報ややり取りを含む膨大なデータを国内で6か月間保存する義務を負うことになる。専門家は、国外のAIサービスはロシア市場に参入しない可能性が高く、すでに活動している事業者についても、規制に違反した場合には政府によりブロックされるリスクがあると指摘している。
- 一方で、ロシア企業が国内製AIを選好しているとは言い難く、公開型AIへのデータ送信の約46%は米国のChatGPT経由とされる。
◆「IT業界、インターネットをめぐり当局に説明を求める」、4月16日付独立新聞(要約)
- ロシアのIT業界は、モバイル通信制限や一部サービスの遮断を受け、投資の予見可能性が失われたとして政府に説明を求めている。特に、利用可能なサービスを限定する「ホワイトリスト」の基準や運用の不透明性が、企業の投資を困難にしている。
- 業界関係者は、通信環境の先行きが見通せない状況が続けば、IT産業は数か月以内に深刻な打撃を受ける可能性があると警告している。また、安全保障を理由とした規制の必要性は認めつつも、ビジネスは経済合理性に基づいて判断されるため、利用環境が不安定なままではデジタル分野への投資は進まないと指摘する。
- こうした状況を受け、業界は政府との対話の改善を求めるとともに、規制の影響を緩和するための具体的提案を示した。
続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
| 4月20日 月曜日 | 韓国大統領訪印、首脳会議 |
| イスラエル「大惨事の日」(ホロコースト記念日などとも呼ばれる) | |
| フィリピン主催の南シナ海軍事演習始まる | |
| 第130回ボストンマラソン | |
| 4月21日 火曜日 | NATO事務総長、トルコ訪問 |
| 国連気候変動週間会合(韓国) | |
| 韓国大統領ベトナム訪問(4日間) | |
| 米上院で次期連邦準備制度理事会議長指名公聴会 | |
| 4月22日 水曜日 | 米イラン交渉期限 |
| 4月23日 木曜日 | 欧州評議会、非公式首脳会議(キプロス) |
| ローマ法王、アフリカ歴訪終了 | |
| 4月24日 金曜日 | 仏大統領、ギリシャ訪問 |
| 中国、「中国宇宙の日」 | |
| 4月25日 土曜日 | パレスチナで地方選挙 |
| ホワイトハウス記者年次夕食会 |
最後はガザ・中東情勢だが、イラン戦争については21日の米国とイランの交渉期限が22日となったものの、現時点ではイラン側が参加を表明していない。米国とイランのチキンゲームが始まったようだ。米側交渉団は22日にパキスタン入りするそうだが、最後にイランが譲歩するか、それとも米側が譲歩するか?この神経戦が今も続いている。この交渉が抉れれば最悪の事態も覚悟しなければならないだろうが、トランプ氏にそこまでガチンコをやる気概はあるのかね?疑問である。詳細な分析は来週になりそうだが、いずれにせよ、仮に米側が妥協して停戦が延長され、一時的にホルムズ海峡が開通したとしても、イランの核開発という火種は燻ぶり続けるだろうから、いずれ、そう遠くない将来、第三次イスラエル米・イラン戦争は再発する、という先週、先々週の筆者の見立ては今週も変わらない。今週はこのくらいにしておこう。
2026年重要日程レポート16【4月20日版】
<今週以前から続く会議>
2026年前半 ロシア・アラブ首脳会議(場所未定)
2026年内 ロシア大統領がカザフスタン訪問を予定
4月16日‐4月23日 モスクワ国際映画祭
4月
<4月20日‐4月26日>
20日 国連環境計画(UNEP)常駐代表委員会、第173回会合(ナイロビ)
20日‐4月22日 BEAUTY ASIA Singapore 2026(シンガポール)
20日‐4月24日 国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)(バンコク)
20日‐5月1日 人権理事会、状況に関する作業部会(ニューヨーク)
20日‐5月1日 先住民問題に関する常設フォーラム、第25回会合(ニューヨーク)
20日‐5月1日 世界人権機関連盟、認定小委員会、第3回会合(ジュネーブ)
21日 EU外相理事会(ルクセンブルグ)
21日‐4月22日 国連人間居住計画(UN-Habitat)執行理事会、第1回定例会(2~3日間)(ナイロビ)
21日‐4月23日 靖国神社春季例大祭
21日‐4月24日 Food &Hospitality Asia(FHA)2026(シンガポール)
22日 カザフスタン2025年経済活動別GDP発表
22日‐4月24日 グーグルクラウド・ネクスト2026年(技術イベント)(米ラスベガス)
23日 カザフスタン2025年所得別GDP発表
23日 シンガポール3月CPI発表
23日 イスラエル3月財貿易統計発表
23日‐4月24日 EU非公式首脳会議(キプロス・ニコシア)
24日 メキシコ3月雇用統計発表
24日 ロシア中央銀行理事会
24日 総会、チェルノブイリ原発事故40周年記念特別会合(ニューヨーク)
25日 朝鮮人民革命軍創建記念日
25日 米ホワイトハウス記者会主催の夕食会(ワシントン)
25日‐4月30日 第15回国連犯罪防止・刑事司法会議(アブダビ)
<4月27日‐5月3日>
27日 メキシコ3月貿易統計発表
27日‐4月28日 チリ金融政策決定会合
27日‐4月30日 包括的核実験禁止条約機構準備委員会諮問グループ第65回会合(ウイーン)
27日‐5月1日 万国郵便連合(UPU)郵便業務理事会、第1回定例会(バーン)
27日‐5月1日 人権理事会、農民及び農村地域で働くその他の人々の権利に関する作業部会(ニューヨーク)
27日‐5月8日 情報委員会、第48回会議(米ニューヨーク)
27日‐5月15日 ICAO航空航法委員会、第232回会合(モントリオール・カナダ)
27日‐5月15日 ICAO、委員会段階、第238回会合(モントリオール・カナダ)
27日‐5月22日 第11回核拡散防止条約(NPT)再検討会議(米ニューヨーク)
28日 春の褒章発表
28日‐4月29日 ブラジル中央銀行、Copom
28日‐4月29日 米国FOMC
28日‐4月29日 社民党大会(都内)
29日 カナダ中銀政策金利発表・金融政策報告書発表
29日 アルゼンチン第1四半期貿易統計発表
29日 チリ1~3月雇用統計発表
29日 オーストラリア3月CPI発表
29日 春の叙勲・外国人叙勲発表
29日 連合メーデー中央大会
29日‐4月30日 Sydney Build Expo(シドニー)
30日 ブラジル3月全国家計サンプル調査発表
30日 コロンビア3月雇用統計発表・金融政策決定会合
30日 米国2026年第1四半期GDP(速報値)発表
30日 欧州中央銀行(ECB)定例理事会(独フランクフルト)
30日 1~3月期のユーロ圏GDP速報値(EU統計局)
30日 1~3月期の米GDP速報値(商務省)
30日 3月の米PCE物価指数(商務省)
30日 4月の中国製造業購買担当者景況指数(PMI)(国家統計局)
4月以降 ミャンマー新政権発足
4月中(予定) カナダ経済声明
4月中 カーボベルデ議会選挙
4月初〜5月 第16期の第1回の国会会議(ベトナム)
5月
1日‐5月5日 中国輸出入商品交易会(広州)
3日‐5月6日 セレクトUSA投資サミット(メリーランド州ナショナルハーバー)
3日‐5月6日 アジア開発銀行(ADB)第59回年次総会(ウズベキスタン・サマルカンド)
4日 インドネシア3月貿易統計発表
4日 インドネシア4月CPI発表
4日 カザフスタン4月CPI発表
4日‐6月10日 エリザベート王妃国際音楽コンクール(チェロ部門)(ブリュッセル)
5日 アルメニア・EU首脳会議(アルメニア・エレバン)
5日 コロンビア3月輸出統計発表
5日 米国3月貿易統計発表
7日 メキシコ4月CPI発表・金融政策決定会合
7日 ブラジル3月鉱工業生産指数発表
7日 英地方選・スコットランド議会選
8日 米国4月雇用統計
8日 カナダ4月雇用統計発表
8日 チリ4月CPI発表
9日 ロシアで対独戦勝記念日
9日 3月の米CPI(労働省)
10日 ベナン大統領選挙決選投票
11日 EU外相理事会(ブリュッセル)
12日 EU国防相理事会(ブリュッセル)
12日 メキシコ3月鉱工業生産指数発表
12日 カザフスタン第1四半期雇用統計発表
12日 ブラジル4月IPCA発表
12日 米国4月CPI発表
13日 ブラジル3月月間小売り調査発表
13日 イスラエル4月財貿易統計発表
14日 アルゼンチン4月CPI発表
14日 米国4月小売統計
15日 イスラエル4月CPI発表
15日 ロシア4月CPI発表
15日 ロシア第1四半期GDP成長率(速報値)発表
15日 カザフスタン1~3月経済活動別GDP(速報値)発表
15日 コロンビア第1四半期GDP発表
16日 アイスランド統一地方選挙
17日 イスラエル2026年第1四半期GDP推計(速報値)発表
18日 チリ第1四半期GDP・国際収支発表
18日‐5月23日 世界保健機関(WHO)年次総会(ジュネーブ)
19日 カナダ4月CPI発表
20日 イスラエル4月国別財貿易統計発表
22日 CIS首相会議(トルクメニスタン)
24日 キプロス議会選挙
24日‐5月25日 イスラエル中銀金融委員会会合
25日 メキシコ4月貿易統計発表
25日 シンガポール4月CPI発表
26日 OECD2026年第1四半期G20貿易統計発表
26日 シンガポール4月工業生産高指数発表
26日‐5月27日 ニュー・テック展示会2026(テルアビブ)
27日 オーストラリア4月CPI発表
27日 ロシア1~4月鉱工業生産指数発表
28日 米国2026年第1四半期GDP(改定値)発表
28日 メキシコ4月雇用統計発表
28日‐5月29日 最高ユーラシア経済評議会(カザフスタン・アスタナ)
29日 ブラジル第1四半期GDP発表
29日 チリ2~4月雇用統計発表
31日 コロンビア総選挙(大統領、上院・下院議員)
5月中 国連(経済社会局)世界経済状況・予測発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問