キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2026年4月14日(火)
[ 2026年外交・安保カレンダー ]
今週もイラン情勢以外の話題から始めよう。実は今朝、米国の良識ある親しい友人から次のような驚くべきメールを受け取った。
Rabbi Abraham Cooper, Associate Dean and Director of Global Social Action for the Simon Wiesenthal Center (SWC), denounced commentator Toru Tamagawa on TV Asahi for questioning whether Jared Kushner, a US Special Envoy for Peace, should be involved in negotiations with Iran because he is a Jew…. and said “Tamagawa should have immediately been criticized on the air for inserting persons religion and ethnicity into the discussion over Iran,”(サイモン・ウィーゼンタール・センター(SWC)の副所長を務めるラビ・アブラハム・クーパー氏は、テレビ朝日に出演したコメンテーターの玉川徹氏が、米国の和平特使であるジャレッド・クシュナー氏がユダヤ人であるという理由により、イランとの交渉に関与すべきかどうかを疑問視したことに対し抗議し・・・・「玉川氏は、イランをめぐる議論に個人の宗教や民族性を持ち込んだとして、放送中に即座に批判されるべきだった」と述べた)。
おいおいおい、これって本当の話かね?21世紀の日本に、まだこんなバカなことを言う日本人がいたのか、と筆者は絶句した。経験上、ユダヤ系米国人コミュニティを中心に米国社会がこの種の「反ユダヤ主義的」発言に敏感であるばかりか、時として強烈に反発することを熟知しているからだ。この人たちは「マルコポーロ事件」のことを覚えていないのか?いや、メディア関係者なら知らないはずはないのだが・・・。
御存じでない方のため申し上げるが、マルコポーロ事件とは、1995年2月、文藝春秋の雑誌『マルコポーロ』がホロコーストを否定する内容の記事を掲載したことに対し、サイモン・ウィーゼンタール・センターなどからの抗議を受け、最終的に自主廃刊に追い込まれた一大騒動である。
最近イラン戦争で忙殺されていた筆者は、日本の地上波でこんな発言が放送されていたことを全く知らなかった。SNSによれば「玉川徹氏、クシュナー氏を『ユダヤ人ですよね』と問題発言で批判が殺到」している由である。なるほど、日本でもネット市民の方が「感度が良い」のかもしれない?
ある投稿によれば「10日の『羽鳥慎一モーニングショー』で、玉川氏はトランプ氏の娘婿でユダヤ人のジャレッド・クシュナー氏について『イランとの交渉にはいない方がいい、ましてやユダヤ人ですよね』などと述べた」とある。玉川氏ほどの知識人がこんな発言したことが事実であれば、俄かには信じがたい話である。
上記の投稿では、「X上で人種差別だと非難が相次ぎ、海外でも反ユダヤ主義として動画が拡散。擁護は少なく、対応が注目されて」いるそうだが、それは当然だろう。一方、この種の発言をする人々は、こうした発言のどこが悪いか、全く理解していないケースが少なくない。中東の一神教の世界が日本から如何に遠いか良く分かる話だ。
さて、今週はもう一つ、イラン戦争の影で注目されていないが、極めて重要なニュースがある。米軍によるホルムズ海峡「逆封鎖」作戦が始まった4月12日にハンガリーで総選挙行われ、ロシア大統領の盟友で反EU姿勢を隠さなかったオルバン現首相の率いる与党が惨敗したのだ。この結果を如何に分析すべきか、これは来週じっくり考えてみたい。
さて、次は吉岡明子主任研究員によるロシア関連コーナーだが、今週は同研究員がまとめた「停戦合意はイランの勝利――ロシア・メディアから」を以下の通りご紹介する。ロシア・メディアが今回の「停戦交渉」で如何にイランを心情的に支援しているかを知る上で実に興味深い。
4月8日のイランをめぐる2週間の停戦合意について、ロシアのメディアや識者の間では、その不確実性を指摘しつつも、これをイラン側の実質的な勝利と位置付ける論調が目立った。以下に3名の識者らの分析を紹介する。
特に注目されるのが、トレーニンとススロフの論調である。両者とも、欧米諸国によるユーラシアへの拡張阻止という点で、ウクライナ戦争と今回のイラン危機を同一の構図として捉えている点が極めて興味深い。ロシアの一部識者らは、今回のイラン停戦を、ロシアがこれまで米国の一極支配への対抗軸として掲げてきた「多極世界」形成への重要な一歩と位置付けているのである。
その後の米イランの交渉決裂やホルムズ海峡をめぐる新たな動きは、こうしたロシア側の評価が今度どのように展開するかを占う材料となりそうだ。
◆「米国は一歩後退:イランが戦争での勝利を宣言」(4月8日付『論拠と事実』)(要約)
- 今回の停戦合意の背景について、国際政治学者のフョードル・ルキヤノフは、トランプ米大統領は「頑固な一方で、コストが増大するとそれを迂回する」傾向にあると指摘。そのうえで、米国は当初掲げた目標を達成できず、イランが想定以上に強く、持久力を示したことが停戦の背景にあると分析した。
- ルキヤノフは同時に、米国とイスラエルがイラン弱体化の試みを放棄することはないとし、「今後は直接的な軍事攻撃ではなく、体制の揺さぶりや不利な環境の創出といった形になる」可能性を指摘した。
◆「イランが優位に――初期的評価」、ドミトリー・トレーニン ロシア国際問題評議会〈RIAC〉会長、(4月8日RIACサイト掲載コラム)(要約)
- トランプ米大統領はイランが威嚇に屈したと主張するだろうが、ホルムズ海峡が依然としてイランの支配下にある状況での停戦は、実際にはイランが譲歩しなかったことを示している。
- 戦争の暫定的な総括は次の通り:①イランはイスラエルと並ぶ地域大国としての地位を強化した。②今回の湾岸諸国の脆弱性は、米国による安全の保障が虚構にすぎないことを示した。③制裁下にあるイランが、事実上世界の超大国に勝利し、豊かな湾岸諸国が打撃を受けた。④イランはイスラム共和国であり続けるが、実権は革命防衛隊へと移り、今後は強硬かつ合理的な政策が取られるだろう。⑤イスラエルが米国の支援を得ても「イラン問題」を解決できなかったことは、将来的にこの地域の二大軍事大国であるイスラエルとイランの間に均衡が成立する可能性を示唆している。
- 今後、ロシアは国際的地位を高めたイランとの関係をさらに強化する余地を得る。ロシア、中国、イランに加え、ベラルーシや北朝鮮は、ユーラシアにおける新たな安全保障の中核を形成しつつある。
- イランはユーラシア南部における米国の地政学的反攻を食い止め、ロシアがウクライナで目標を達成すれば、同様の動きは西側でも阻止される。東方では中国が軍事力強化と外交を並行して進めており、こうした行動こそが現実の多極世界を形作っている。
◆国営第1チャンネルの討論番組「グレート・ゲーム」より、司会の国際政治学者ドミトリー・ススロフの発言(4月8日放送分からの一部要約)
- 今回の停戦は実質的にはイラン側の条件に沿ったものだ。イランの体制、核計画、ホルムズ海峡の支配のいずれも維持されたままだ。
- たとえこの停戦が一時的なものだとしても、世界の超大国で核保有国であるアメリカが、核を持たないイランに軍事的敗北を与えることができなかったことは、イランにとって勝利の瞬間である。
- 実際にロシアとイランは同じ船に乗っている。ロシアは、西側によるウクライナ方面での拡張を食い止め、一方イランは、ユーラシア南方におけるアメリカを中心とする西側の拡張を食い止めているのである。
- その意味で、我々はまさに、新たなユーラシア安全保障体制と多極的世界の形成に向けて、大きな一歩を踏み出している。
続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
| 4月13日 月曜日 | ローマ法王、アルジェリア他アフリカ諸国訪問(11日間) |
| イスラエル、ホロコーストの日 | |
| 4月14日 火曜日 | スペイン首相訪中、首脳会談 |
| フィンランド大統領、カナダ訪問(2日間) | |
| 米国務省、イスラエルとレバノンの交渉を仲介 | |
| 欧州評議会大統領、UAE、サウジアラビア、カタルを歴訪(2日間) | |
| 豪州首相、ブルネイとマレーシアを訪問(4日間) | |
| 4月15日 水曜日 | ポーランド首相訪日(3日間) |
| ウクライナ大統領訪伊、伊首相と首脳会談 | |
| 北朝鮮、金日成誕生日 | |
| 4月16日 木曜日 | NATO事務総長、欧州委員会委員長と会談 |
| アイルランド首相訪独、独首相と首脳会談 | |
| G20財務相・中銀総裁会合 | |
| IMF春季総会 | |
| 4月19日 日曜日 | ブルガリア総選挙 |
最後はガザ・中東情勢だが、イラン戦争については12日に米国によるホルムズ海峡「逆封鎖」作戦が始まった。リスクは高いが、これ以外に打開策はないという判断なのだろう。この点については今週の産経新聞World Watchに辛口のコラムを書いたのでご一読願いたい。いずれにせよ、仮に一時的にホルムズ海峡が開通しても火種は燻ぶり続けるだろうから、いずれ、そう遠くない将来、第三次イスラエル米・イラン戦争は再発する、という先週の筆者の見立ては今も変わらない。今週はこのくらいにしておこう。
2026年重要日程レポート15【4月13日版】
<今週以前から続く会議>
2026年前半 ロシア・アラブ首脳会議(場所未定)
2026年内 ロシア大統領がカザフスタン訪問を予定
4月
<4月13日‐4月19日>
13日‐4月16日 InnoEX(香港)
13日‐4月17日 UNCITRAL、第5作業部会(倒産法)、第68回会合(ニューヨーク)
13日‐4月18日 IMF・世界銀行春季総会(米国・ワシントン)
14日 アルゼンチン3月CPI発表
15日 ブラジル2月月間小売り調査発表
15日 イスラエル3月CPI発表
15日 米国財務省 半期為替政策報告書提出期限
15日‐4月30日 中国輸出入商品交易会(広州)
16日 米国3月小売統計
16日‐4月18日 Texpo 26(パキスタン)
16日‐4月19日 Beautycare Expo 2026 (ハノイ)
16日‐4月19日 IMF・世界銀行春季総会(ワシントンDC)
16日‐4月23日 モスクワ国際映画祭
17日 CIS外相会議(ロシア・カリーニングラード)
19日 ブルガリア総選挙
<4月20日‐4月26日>
20日 国連環境計画(UNEP)常駐代表委員会、第173回会合(ナイロビ)
20日‐4月22日 BEAUTY ASIA Singapore 2026(シンガポール)
20日‐4月24日 国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)(バンコク)
20日‐5月1日 人権理事会、状況に関する作業部会(ニューヨーク)
21日 EU外相理事会(ルクセンブルグ)
21日‐4月23日 靖国神社春季例大祭
21日‐4月24日 Food &Hospitality Asia(FHA)2026(シンガポール)
22日 カザフスタン2025年経済活動別GDP発表
22日‐4月24日 グーグルクラウド・ネクスト2026年(技術イベント)(米ラスベガス)
23日 カザフスタン2025年所得別GDP発表
23日 シンガポール3月CPI発表
23日 イスラエル3月財貿易統計発表
23日‐4月24日 EU非公式首脳会議(キプロス・ニコシア)
24日 メキシコ3月雇用統計発表
24日 ロシア中央銀行理事会
24日 総会、チェルノブイリ原発事故40周年記念特別会合(ニューヨーク)
25日 朝鮮人民革命軍創建記念日
25日 米ホワイトハウス記者会主催の夕食会(ワシントン)
25日‐4月30日 第15回国連犯罪防止・刑事司法会議(アブダビ)
<4月27日‐5月3日>
27日 メキシコ3月貿易統計発表
27日‐4月28日 チリ金融政策決定会合
27日‐4月30日 包括的核実験禁止条約機構準備委員会諮問グループ第65回会合(ウイーン)
27日‐5月1日 万国郵便連合(UPU)郵便業務理事会、第1回定例会(バーン)
27日‐5月8日 情報委員会、第48回会議(米ニューヨーク)
27日‐5月15日 ICAO航空航法委員会、第232回会合(モントリオール・カナダ)
27日‐5月15日 ICAO、委員会段階、第238回会合(モントリオール・カナダ)
27日‐5月22日 第11回核拡散防止条約(NPT)再検討会議(米ニューヨーク)
28日‐4月29日 ブラジル中央銀行、Copom
28日‐4月29日 米国FOMC
28日‐4月29日 社民党大会(都内)
29日 カナダ中銀政策金利発表・金融政策報告書発表
29日 アルゼンチン第1四半期貿易統計発表
29日 チリ1~3月雇用統計発表
29日 オーストラリア3月CPI発表
29日 春の叙勲・外国人叙勲発表
29日 連合メーデー中央大会
29日‐4月30日 Sydney Build Expo(シドニー)
30日 ブラジル3月全国家計サンプル調査発表
30日 コロンビア3月雇用統計発表・金融政策決定会合
30日 米国2026年第1四半期GDP(速報値)発表
30日 欧州中央銀行(ECB)定例理事会(独フランクフルト)
30日 1~3月期のユーロ圏GDP速報値(EU統計局)
30日 1~3月期の米GDP速報値(商務省)
30日 3月の米PCE物価指数(商務省)
30日 4月の中国製造業購買担当者景況指数(PMI)(国家統計局)
4月以降 ミャンマー新政権発足
4月中(予定) カナダ経済声明
4月中 カーボベルデ議会選挙
4月初〜5月 第16期の第1回の国会会議(ベトナム)
5月
1日‐5月5日 中国輸出入商品交易会(広州)
3日‐5月6日 セレクトUSA投資サミット(メリーランド州ナショナルハーバー)
3日‐5月6日 アジア開発銀行(ADB)第59回年次総会(ウズベキスタン・サマルカンド)
4日 インドネシア3月貿易統計発表
4日 インドネシア4月CPI発表
4日 カザフスタン4月CPI発表
5日 アルメニア・EU首脳会議(アルメニア・エレバン)
5日 コロンビア3月輸出統計発表
5日 米国3月貿易統計発表
7日 メキシコ4月CPI発表・金融政策決定会合
7日 ブラジル3月鉱工業生産指数発表
7日 英地方選・スコットランド議会選
8日 米国4月雇用統計
8日 カナダ4月雇用統計発表
8日 チリ4月CPI発表
10日 ベナン大統領選挙決選投票
12日 メキシコ3月鉱工業生産指数発表
12日 カザフスタン第1四半期雇用統計発表
12日 ブラジル4月IPCA発表
12日 米国4月CPI発表
13日 ブラジル3月月間小売り調査発表
13日 イスラエル4月財貿易統計発表
14日 アルゼンチン4月CPI発表
14日 米国4月小売統計
15日 イスラエル4月CPI発表
15日 ロシア4月CPI発表
15日 ロシア第1四半期GDP成長率(速報値)発表
15日 カザフスタン1~3月経済活動別GDP(速報値)発表
15日 コロンビア第1四半期GDP発表
16日 アイスランド統一地方選挙
17日 イスラエル2026年第1四半期GDP推計(速報値)発表
18日 チリ第1四半期GDP・国際収支発表
19日 カナダ4月CPI発表
20日 イスラエル4月国別財貿易統計発表
22日 CIS首相会議(トルクメニスタン)
24日 キプロス議会選挙
24日‐5月25日 イスラエル中銀金融委員会会合
25日 メキシコ4月貿易統計発表
25日 シンガポール4月CPI発表
26日 OECD2026年第1四半期G20貿易統計発表
26日 シンガポール4月工業生産高指数発表
26日‐5月27日 ニュー・テック展示会2026(テルアビブ)
27日 オーストラリア4月CPI発表
27日 ロシア1~4月鉱工業生産指数発表
28日 米国2026年第1四半期GDP(改定値)発表
28日 メキシコ4月雇用統計発表
28日‐5月29日 最高ユーラシア経済評議会(カザフスタン・アスタナ)
29日 ブラジル第1四半期GDP発表
29日 チリ2~4月雇用統計発表
31日 コロンビア総選挙(大統領、上院・下院議員)
5月中 国連(経済社会局)世界経済状況・予測発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問