キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2026年4月7日(火)
[ 2026年外交・安保カレンダー ]
今週は久しぶりにイラン情勢以外の話題から始めよう。実は、月曜夜放送のインターネット系 ABEMA TVから興味深い依頼があった。先月、現役自衛隊員が中国大使館に侵入した件で、日本政府が中国側に正式に「謝罪すべきかどうか」について議論したい、のだそうだ。謝罪すべきだと主張する論客との議論を生放送でするらしい。
色々考えたが、やっぱり受けることにした。筆者の主張は簡単だからだ。第一に、そもそも日本語で言う「謝罪」と、日本以外で「謝罪が意味すること」はかなり違う。日本語では「謝罪をすれば許される」というニュアンスが伴うが、外国語では「謝罪」は「責任を認める」ことを意味する。このことを日本人はなかなか理解しにくいようだ。
「日本政府は謝れ」と主張することは、「国家として責任を負え」という趣旨だろう。しかし、今回の事件は、現役の自衛隊員が関与したとはいえ、日本政府の命令によって行った行為ではない。あくまで自衛隊員個人の判断で行った犯罪である。個人の犯罪につき国家が責任を負う必要はないし、そんなことをする政府はどこにもない。
この場合、各国は「遺憾(regret)」という言葉を使う。遺憾の意とは、自衛隊員が「こんなバカなことをして、けしからん」という意味と同時に、「残念だ」という気持ちも込められるだろう。「謝罪」とは異なるが、受け取り方によっては「謝罪」ともとれる微妙な表現だ。今回、日本政府がその表現を使ったことは極めて常識的な判断であろう。
もしご関心があれば、冒頭のリンクでAbemaプライムを覗いて見てほしいが、今週はもう一件、イラン以外のトピックを取り上げたい。4月4日、ウクライナのゼレンスキー大統領はイスタンブールでエルドアン・トルコ大統領と会談し、トルコと「安全保障協力における新たな措置について合意した」と発表したそうだ。
トルコとはガスインフラ関連の共同プロジェクトやガス田共同開発についても協議したという。更に、5日ダマスカスを訪問したゼレンスキーはシリア暫定政権のシャラァ大統領と会談、両国が安全保障面での協力強化に合意したという。うーん、巷の関心がイランに注がれる中、結構、ウクライナも頑張っているなぁ。
ウクライナは不安定化した中東で、軍事ノウハウの売り込みを通じ、自国の影響力や欧米以外の支援国の拡大を狙っている。実際この数週間、ゼレンスキーは中東諸国を訪問、ドローンやミサイル攻撃への対処などウクライナの専門知識の提供に余念がない。トランプ政権の信頼が地に落ちつつある中、やれることは何でもやるのだ。
さて、次は吉岡明子主任研究員によるロシア関連コーナーだが、今週は同研究員がまとめた「イラン危機でユーラシア輸送網再編の動き――ロシア・メディアから」を以下の通りご紹介する。ロシア・メディアが「イラン戦争と旧ソ連圏経済との関係」を如何に見ているか知る上で興味深い。
今週は、ロシア・メディアが伝える旧ソ連圏で進む再編の兆しを紹介したい。
独立新聞の記事によると、イラン危機を背景に、トルコを中心とするテュルク系諸国(旧ソ連のアゼルバイジャン、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギスなどを含む)が輸送網の構築に向けて動き出した。米・イスラエルによる攻撃に伴うイランの地域的プレゼンス低下が、テュルク系諸国にとって輸送網構築の好機ともなっているようだ。イランはこれまで、自国を迂回する輸送構想に対しては警戒的な姿勢をとってきていた。
以下は記事の要約である。
◆「テュルク系諸国、イラン戦争の影響回避を模索――バクーでユーラシア横断の輸送ネットワーク構想を協議」(4月2日付独立新聞)
- 4月2日、アゼルバイジャンの首都バクーでテュルク諸国機構(OTS)の第2回会合が開催された。
- イラン危機を受け、OTSはユーラシアを横断する一体的な輸送網の構築へと動き出した。
- 会合では、カスピ海横断国際輸送ルート(TITR)を軸に、アゼルバイジャンと飛び地ナヒチェバンとを結ぶザンゲズール回廊や、中国―キルギス―ウズベキスタン鉄道、バクー―トビリシ―カルス鉄道など、中国から中央アジア、カスピ海、トルコを経て欧州に至る輸送網の一体性強化案が各国の代表から示された。
- アゼルバイジャン、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタンは、経済統合を通じて地域の安全保障を強化する方向性を共有している。特にトルコのユルマズ副大統領は、イラン危機はもはやOTS全体にとっての実存的脅威となっている点を指摘した。
- 背景には、ホルムズ海峡での緊張の高まりによる輸送リスクの増大がある。
- 政治学者のデルヤ・カラエフは、米・イスラエルの攻撃を受けたイランの影響力低下により、これまでイランが反対してきた輸送網構想の実施が容易になった可能性についても指摘。「これまでイランは同海域での一方的なプロジェクトや行動に対し断固として反対してきたが、カスピ海でのイラン海軍の打撃は、テュルク系諸国に行動の自由をもたらし、その結果、こうした構想はイランによる潜在的な脅威から当面の間守られるとみられる」と分析している。
続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
| 4月7日 火曜日 | 台湾国民党党首訪中(6日間) |
| 米副大統領、ハンガリー訪問(2日間) | |
| 4月8日 水曜日 | NATO事務総長訪米、米大統領と会談 |
| 4月9日 木曜日 | 仏大統領、バチカン訪問(2日間) |
| 4月10日 金曜日 | 米国際貿易裁判所、トランプ相互関税問題を審議 |
| ジブチで大統領選挙 | |
| 4月12日 日曜日 | ハンガリー議会選挙 |
| ベニン議会選挙 | |
| ペルー大統領・議会選挙 | |
| 4月13日 月曜日 | 世銀・IMF合同春季会議開始(ワシントン) |
| ローマ教皇、アルジェリア訪問(その後10日間でアフリカ諸国を歴訪) |
最後はガザ・中東情勢だが、イラン戦争については日本時間の4月8日に「オオカミ少年」トランプの「電気インフラ等を徹底攻撃するぞ」という脅迫じみたデッドラインが来る。某仲介国が動かしているらしい「45日間の停戦」案も浮上しているそうだ。だが、1944年11月の日本に酷似する今のイラン側がこの期に及んで対米譲歩するとは到底思えない。仮に、短期間停戦が実現しても、火種は燻ぶり続けるだろうから、いずれ、そう遠くない将来、第三次イスラエル米・イラン戦争は再発するだろう。これも、悲しい中東の現実である・・・今週はこのくらいにしておこう。
2026年重要日程レポート14【4月6日版】
<今週以前から続く会議>
2026年前半 ロシア・アラブ首脳会議(場所未定)
2026年内 ロシア大統領がカザフスタン訪問を予定
4月
<4月6日‐4月12日>
6日 3月と第1四半期のベトナム社会・経済統計発表(GDP, CPI)
6日 社民党首選再投票の開票
8日 チリ3月CPI発表
9日 コロンビア3月CPI発表
9日 メキシコ3月自動車生産・販売・輸出統計・CPI発表
10日 カンボジア3月貿易統計発表
10日 米国3月CPI発表
10日 ブラジル3月IPCA発表
11日 危険業務従事者叙勲発表
12日 ペルー総選挙(大統領、上院・下院議員、アンデス議会議員選挙)
12日 ハンガリー議会選挙
12日 ベナン大統領選挙1回目投票
<4月13日‐4月19日>
13日‐4月16日 InnoEX(香港)
13日‐4月17日 UNCITRAL、第5作業部会(倒産法)、第68回会合(ニューヨーク)
13日‐4月18日 IMF・世界銀行春季総会(米国・ワシントン)
14日 アルゼンチン3月CPI発表
15日 ブラジル2月月間小売り調査発表
15日 イスラエル3月CPI発表
15日 米国財務省 半期為替政策報告書提出期限
15日‐4月30日 中国輸出入商品交易会(広州)
16日 米国3月小売統計
16日‐4月18日 Texpo 26(パキスタン)
16日‐4月19日 Beautycare Expo 2026 (ハノイ)
16日‐4月19日 IMF・世界銀行春季総会(ワシントンDC)
16日‐4月23日 モスクワ国際映画祭
17日 CIS外相会議(ロシア・カリーニングラード)
<4月20日‐4月26日>
20日 国連環境計画(UNEP)常駐代表委員会、第173回会合(ナイロビ)
20日‐4月22日 BEAUTY ASIA Singapore 2026(シンガポール)
20日‐4月24日 国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)(バンコク)
20日‐5月1日 人権理事会、状況に関する作業部会(ニューヨーク)
21日 EU外相理事会(ブリュッセル)
21日‐4月23日 靖国神社春季例大祭
21日‐4月24日 Food &Hospitality Asia(FHA)2026(シンガポール)
22日 カザフスタン2025年経済活動別GDP発表
23日 カザフスタン2025年所得別GDP発表
23日 シンガポール3月CPI発表
23日 イスラエル3月財貿易統計発表
23日‐4月24日 EU非公式首脳会議(キプロス)
24日 メキシコ3月雇用統計発表
24日 ロシア中央銀行理事会
25日 朝鮮人民革命軍創建記念日
25日 米ホワイトハウス記者会主催の夕食会(ワシントン)
<4月27日‐5月3日>
27日 メキシコ3月貿易統計発表
27日‐4月28日 チリ金融政策決定会合
27日‐4月30日 包括的核実験禁止条約機構準備委員会諮問グループ第65回会合(ウイーン)
27日‐5月1日 万国郵便連合(UPU)郵便業務理事会、第1回定例会(バーン)
27日‐5月8日 情報委員会、第48回会議(米ニューヨーク)
27日‐5月15日 ICAO航空航法委員会、第232回会合(モントリオール・カナダ)
27日‐5月15日 ICAO、委員会段階、第238回会合(モントリオール・カナダ)
27日‐5月22日 第11回核拡散防止条約(NPT)再検討会議(米ニューヨーク)
28日‐4月29日 ブラジル中央銀行、Copom
28日‐4月29日 米国FOMC
28日‐4月29日 社民党大会(都内)
29日 カナダ中銀政策金利発表・金融政策報告書発表
29日 アルゼンチン第1四半期貿易統計発表
29日 チリ1~3月雇用統計発表
29日 オーストラリア3月CPI発表
29日 春の叙勲・外国人叙勲発表
29日 連合メーデー中央大会
29日‐4月30日 Sydney Build Expo(シドニー)
30日 ブラジル3月全国家計サンプル調査発表
30日 コロンビア3月雇用統計発表・金融政策決定会合
30日 米国2026年第1四半期GDP(速報値)発表
30日 欧州中央銀行(ECB)定例理事会(独フランクフルト)
30日 1~3月期のユーロ圏GDP速報値(EU統計局)
30日 1~3月期の米GDP速報値(商務省)
30日 3月の米PCE物価指数(商務省)
30日 4月の中国製造業購買担当者景況指数(PMI)(国家統計局)
4月以降 ミャンマー新政権発足
4月中(予定) カナダ経済声明
4月中 カーボベルデ議会選挙
4月初〜5月 第16期の第1回の国会会議(ベトナム)
5月
1日‐5月5日 中国輸出入商品交易会(広州)
3日‐5月6日 セレクトUSA投資サミット(メリーランド州ナショナルハーバー)
3日‐5月6日 アジア開発銀行(ADB)第59回年次総会(ウズベキスタン・サマルカンド)
4日 インドネシア3月貿易統計発表
4日 インドネシア4月CPI発表
4日 カザフスタン4月CPI発表
5日 アルメニア・EU首脳会議(アルメニア・エレバン)
5日 コロンビア3月輸出統計発表
5日 米国3月貿易統計発表
7日 メキシコ4月CPI発表・金融政策決定会合
7日 ブラジル3月鉱工業生産指数発表
8日 米国4月雇用統計
8日 カナダ4月雇用統計発表
8日 チリ4月CPI発表
10日 ベナン大統領選挙決選投票
12日 メキシコ3月鉱工業生産指数発表
12日 カザフスタン第1四半期雇用統計発表
12日 ブラジル4月IPCA発表
12日 米国4月CPI発表
13日 ブラジル3月月間小売り調査発表
13日 イスラエル4月財貿易統計発表
14日 アルゼンチン4月CPI発表
14日 米国4月小売統計
15日 イスラエル4月CPI発表
15日 ロシア4月CPI発表
15日 ロシア第1四半期GDP成長率(速報値)発表
15日 カザフスタン1~3月経済活動別GDP(速報値)発表
15日 コロンビア第1四半期GDP発表
16日 アイスランド統一地方選挙
17日 イスラエル2026年第1四半期GDP推計(速報値)発表
18日 チリ第1四半期GDP・国際収支発表
19日 カナダ4月CPI発表
20日 イスラエル4月国別財貿易統計発表
22日 CIS首相会議(トルクメニスタン)
24日 キプロス議会選挙
24日‐5月25日 イスラエル中銀金融委員会会合
25日 メキシコ4月貿易統計発表
25日 シンガポール4月CPI発表
26日 OECD2026年第1四半期G20貿易統計発表
26日 シンガポール4月工業生産高指数発表
26日‐5月27日 ニュー・テック展示会2026(テルアビブ)
27日 オーストラリア4月CPI発表
27日 ロシア1~4月鉱工業生産指数発表
28日 米国2026年第1四半期GDP(改定値)発表
28日 メキシコ4月雇用統計発表
28日‐5月29日 最高ユーラシア経済評議会(カザフスタン・アスタナ)
29日 ブラジル第1四半期GDP発表
29日 チリ2~4月雇用統計発表
31日 コロンビア総選挙(大統領、上院・下院議員)
5月中 国連(経済社会局)世界経済状況・予測発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問