キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2026年3月31日(火)
[ 2026年外交・安保カレンダー ]
今週もやはりイラン情勢から入ろう。トランプ氏は30日、停戦に向けてイラン側と「真剣な協議」を実施しており、交渉は「大いに進展している」とSNSで強調する一方、「ディール(取引)」がなければ全ての発電所と油田やカーグ島を「たたきのめす」とも主張している。これを筆者は「二転三転」ならぬ、トランプの「五転六転」と呼ぶ。
筆者はJapanTimesと産経新聞にそれぞれ二週間おきにコラムを書いているが、振り返れば、2月最終週以降のコラムは全てイラン関連だった。他にも重要ニュースはあるのに、中東以外への世間の関心は低い。中でも気になったのは、29日に北京の市場で中年男が運転するブルドーザーが群衆に突っ込んだニュースだ。
香港紙によれば、ブルドーザーは午前11時ごろ、北京市房山区の露天市場に通行止めを乗り越えて突入し、蛇行しながら複数の露店をなぎ倒したそうだ。逃げ遅れた買い物客ら7~8人が轢かれて死亡したらしい。可哀そうに、まだ中国ではこんな事件が起きているのだ。
房山区といえば、北京市の西南にある、「房山ユネスコ世界ジオパーク」もある風光明媚な地域だが、当局は事件について公表せず、ネット上でも関連動画は削除されているそうだ。もうこれ以上は言うまい。中国国内の社会的動揺、経済的苦境はまだまだ続いている、ということだろう。
話をイラン関連に戻そう。先週筆者はトランプについて、『言うこと』よりも実際に『やること』を重視している」と書いた。「行動」としては海兵隊の遠征部隊二つと第82空挺師団の部隊が派遣されているが、その目的は不明だ。カーグ島の石油に関心ありなどと言っているが、これは陽動作戦かもしれず、何をするか分からない。
しかし、一つだけ確実に言えることがある。これだけの部隊が動けば、1940年代ならいざ知らず、21世紀の今はロシアがその動きを正確に追ってイラン側に知らせているだろう。ということは、奇襲作戦は難しく、壮絶な上陸作戦と地上戦で多数の若い米兵が、国益ではなく、トランプの私益のために戦死する可能性があるということだ。
これで米国内は持つだろうか、大いに疑問である。それではホルムズ海峡は閉鎖されたままなのか。それとも、部分的にせよ、航行が再開されるのか。この点については今週の産経新聞WorldWatchに詳しく書くことにした。ご関心のある向きはご一読願いたい。
さて、次は吉岡明子主任研究員によるロシア関連コーナーだが、今週は同研究員がまとめた「イラン攻撃で広がる米欧の距離――ロシア・メディアから」を以下の通りご紹介する。ロシア・メディアが「欧州と米国の関係」を如何に見ているか知る上で興味深い。
(本文)
イラン危機を経て、米国と欧州の間でウクライナ戦争をめぐる立場の相違が一層鮮明になっている。トランプ大統領が3月27日にマイアミで行った演説や26~27日にフランスで開催されたG7外相会合でのルビオ米国務長官とカラス上級代表との応酬、さらに同長官とウクライナのゼレンスキー大統領との間での停戦条件をめぐる認識のズレなどに、ロシアのメディアは注目している。
◆「イラン攻撃で広がる米欧の距離」――3月29日付独立新聞(要点)
中東での軍事行動は、これまでの米国の戦争とは異なり、米欧同盟の結束を強めるどころか、むしろ弱める結果となっている。
トランプ大統領はイラン攻撃に距離を置く欧州への不満を強め、マイアミの演説で、「(メルツ独首相のように、欧州がこれを自分たちの戦争ではないと言うなら、)ウクライナ戦争も米国の戦争ではない」との見方を示した。これは、米国がロシアとの対立から距離を置く可能性を示唆するものと受け取られる。(注:実際には、トランプ氏はこの発言に続けて「それでも我々は支援している」とも述べている)
実際、米Axiosによると、G7外相会合の場でルビオ国務長官も、EUのカラス上級代表との間で対ロシア政策めぐり激しい応酬を行った。
こうした動きについては、①中東対応をめぐり同盟国に圧力をかけているとの見方と、②米国がウクライナ戦争およびNATOにおける自らの役割を根本的に見直しつつある兆候と捉える見方とが可能だろう。
なお、ルビオ国務長官は、ウクライナ向けの兵器が、中東の米軍に振り向けられる可能性を否定していない。
◆「欧米がウクライナ戦争をめぐり対立――G7外相会合で亀裂が表面化」――3月29日付コメルサント(要点)
G7外相会合では、カラス上級代表とルビオ米国務長官の間で対立が生じ、ウクライナ危機や対ロシア政策をめぐる認識の違いが浮き彫りになった。米Axiosによると、ルビオ氏は米国がウクライナの交渉プロセスから離脱する可能性も示唆した。
イラン作戦をめぐる見解の相違も重なり、ウクライナ問題に関する西側同盟国間の分裂は一層顕在化している。
また、停戦条件をめぐっては米国とウクライナの間でも認識の食い違いが生じ、ルビオ国務長官とゼレンスキー大統領の間で応酬が起きた。こうした異例のやり取りは、キエフがもはやワシントンの不興を恐れていないことを示している。
一方で、米政権側もゼレンスキーの立場を変えさせる有効な手段を見いだせておらず、三者間交渉の行き詰まりを示唆している。
続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。今週はイースター休暇のせいか、量は少ないが、欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
3月31日 火曜日 シリア大統領の訪英
仏大統領の訪日(3日間)
EU外相会合(於ウクライナ)
4月2日 木曜日 仏大統領の訪韓(2日間)
4月4日 土曜日 米政府、インドのロシア原油購入許容の期限
4月5日 日曜日 OPEC+ 8か国がテレビ会合
最後はガザ・中東情勢だが、今回も冒頭でイラン関連を取り上げたので、一点のみ補足する。最近メディアでは、中東諸国の外交活動が目立つ。エジプト、サウジアラビア、トルコの外相がパキスタン外相とともに米イラン停戦の仲介役を果たそうと動いていることは御承知の通り。だが、ここで一つ、誰かが欠けていませんかね、というか、その動静が殆ど報じられていない当事者がいませんか?そう、パレスチナ人ですよ。ハマースの動きはまだわかるが、パレスチナ自治政府のアッバース大統領は今一体何をしているのか?イラン戦争だって、そもそもはパレスチナ問題が発端でしょ?これが、悲しい中東の実態なのである・・・今週はこのくらいにしておこう。
<今週以前から続く会議>
2月23日‐4月2日 人権理事会第61回会議(ジュネーブ)
3月17日‐4月4日 筑波大生不明事件差し戻し審(仏リヨン)
3月23日‐4月1日 人権理事会、恣意的拘禁に関する作業部会、第105会議(ジュネーブ)
3月23日‐4月2日 国連海洋法条約に基づく協定の発効及び国家管轄権外区域の海洋生物多様性の持続可能な利用に関する協定の発効並びに同協定締約国会議第1回会合の開催に関する準備委員会、第3回会合(ニューヨーク)
3月23日‐4月2日 国際労働機関(ILO)理事会及びその委員会、第356回会合(ジュネーブ)
3月23日‐4月3日 ICAO、理事会フェーズ、第237回会議(モントリオール)
3月24日‐4月2日 ICSC、第101回会議(ニューヨーク)
2026年前半 ロシア・アラブ首脳会議(場所未定)
2026年内 ロシア大統領がカザフスタン訪問を予定
3月
<3月30日‐4月5日>
30日‐3月31日 国際安全保障の文脈におけるICT分野の発展とICTの利用における責任ある国家行動の促進に関する世界メカニズム、組織セッション(ニューヨーク)
30日‐4月1日 人権理事会、国家人権機関の世界同盟、第39回会議(ジュネーブ)
30日‐4月2日 障害者権利委員会会期前作業部会第21会議(ジュネーブ)
31日 米国通商代表部(USTR)2026年外国貿易障壁報告書(NTE)提出期限
31日 コロンビア2月雇用統計発表・金融政策決定会合
31日 ドイツ2月労働市場統計発表
31日‐4月2日 トランプ米大統領が訪中
31日 3月の中国PMI(国家統計局)
31日 日インドネシア首脳会談
3月中 OECD世界経済見通し発表
4月
1日 スロベニア議会選挙
1日 インドネシア2月貿易統計発表
1日 インドネシア3月CPI発表
1日 日仏首脳会談(見通し)
2日 米国2月貿易統計発表
2日 カナダ2月貿易統計発表
2日 オーストラリア2月貿易統計発表
2日 トランプ米政権「相互関税」公表から1年
2日 2月の米貿易収支(商務省)
3日 米国3月雇用統計
3日 3月の米雇用統計(労働省)
5日 コスタリカ大統領選決選投票
5日 京都府知事選投開票
5日 国民民主党大会(都内)
6日 3月と第1四半期のベトナム社会・経済統計発表(GDP, CPI)
6日 社民党首選再投票の開票
8日 チリ3月CPI発表
9日 コロンビア3月CPI発表
9日 メキシコ3月自動車生産・販売・輸出統計・CPI発表
10日 カンボジア3月貿易統計発表
10日 米国3月CPI発表
10日 ブラジル3月IPCA発表
11日 危険業務従事者叙勲発表
12日 ペルー総選挙(大統領、上院・下院議員、アンデス議会議員選挙)
12日 ハンガリー議会選挙
12日 ベナン大統領選挙1回目投票
13日‐4月16日 InnoEX(香港)
13日‐4月18日 IMF・世界銀行春季総会(米国・ワシントン)
14日 アルゼンチン3月CPI発表
15日 ブラジル2月月間小売り調査発表
15日 イスラエル3月CPI発表
15日 米国財務省 半期為替政策報告書提出期限
15日‐4月30日 中国輸出入商品交易会(広州)
16日 米国3月小売統計
16日‐4月18日 Texpo 26(パキスタン)
16日‐4月19日 Beautycare Expo 2026 (ハノイ)
16日‐4月19日 IMF・世界銀行春季総会(ワシントンDC)
16日‐4月23日 モスクワ国際映画祭
17日 CIS外相会議(ロシア・カリーニングラード)
20日‐4月22日 BEAUTY ASIA Singapore 2026(シンガポール)
21日 EU外相理事会(ブリュッセル)
21日‐4月23日 靖国神社春季例大祭
21日‐4月24日 Food &Hospitality Asia(FHA)2026(シンガポール)
22日 カザフスタン2025年経済活動別GDP発表
23日 カザフスタン2025年所得別GDP発表
23日 シンガポール3月CPI発表
23日 イスラエル3月財貿易統計発表
23日‐4月24日 EU非公式首脳会議(キプロス)
24日 メキシコ3月雇用統計発表
24日 ロシア中央銀行理事会
25日 朝鮮人民革命軍創建記念日
27日 メキシコ3月貿易統計発表
27日‐4月28日 チリ金融政策決定会合
28日‐4月29日 ブラジル中央銀行、Copom
28日‐4月29日 米国FOMC
28日‐4月29日 社民党大会(都内)
29日 カナダ中銀政策金利発表・金融政策報告書発表
29日 アルゼンチン第1四半期貿易統計発表
29日 チリ1~3月雇用統計発表
29日 オーストラリア3月CPI発表
29日 春の叙勲・外国人叙勲発表
29日 連合メーデー中央大会
29日‐4月30日 Sydney Build Expo(シドニー)
30日 ブラジル3月全国家計サンプル調査発表
30日 コロンビア3月雇用統計発表・金融政策決定会合
30日 米国2026年第1四半期GDP(速報値)発表
4月以降 ミャンマー新政権発足
4月中(予定) カナダ経済声明
4月中 カーボベルデ議会選挙
4月初〜5月 第16期の第1回の国会会議(ベトナム)
5月
1日‐5月5日 中国輸出入商品交易会(広州)
3日‐5月6日 セレクトUSA投資サミット(メリーランド州ナショナルハーバー)
3日‐5月6日 アジア開発銀行(ADB)第59回年次総会(ウズベキスタン・サマルカンド)
4日 インドネシア3月貿易統計発表
4日 インドネシア4月CPI発表
4日 カザフスタン4月CPI発表
5日 アルメニア・EU首脳会議(アルメニア・エレバン)
5日 コロンビア3月輸出統計発表
5日 米国3月貿易統計発表
7日 メキシコ4月CPI発表・金融政策決定会合
7日 ブラジル3月鉱工業生産指数発表
8日 米国4月雇用統計
8日 カナダ4月雇用統計発表
8日 チリ4月CPI発表
10日 ベナン大統領選挙決選投票
12日 メキシコ3月鉱工業生産指数発表
12日 カザフスタン第1四半期雇用統計発表
12日 ブラジル4月IPCA発表
12日 米国4月CPI発表
13日 ブラジル3月月間小売り調査発表
13日 イスラエル4月財貿易統計発表
14日 アルゼンチン4月CPI発表
14日 米国4月小売統計
15日 イスラエル4月CPI発表
15日 ロシア4月CPI発表
15日 ロシア第1四半期GDP成長率(速報値)発表
15日 カザフスタン1~3月経済活動別GDP(速報値)発表
15日 コロンビア第1四半期GDP発表
16日 アイスランド統一地方選挙
17日 イスラエル2026年第1四半期GDP推計(速報値)発表
18日 チリ第1四半期GDP・国際収支発表
19日 カナダ4月CPI発表
20日 イスラエル4月国別財貿易統計発表
22日 CIS首相会議(トルクメニスタン)
24日 キプロス議会選挙
24日‐5月25日 イスラエル中銀金融委員会会合
25日 メキシコ4月貿易統計発表
25日 シンガポール4月CPI発表
26日 OECD2026年第1四半期G20貿易統計発表
26日 シンガポール4月工業生産高指数発表
26日‐5月27日 ニュー・テック展示会2026(テルアビブ)
27日 オーストラリア4月CPI発表
27日 ロシア1~4月鉱工業生産指数発表
28日 米国2026年第1四半期GDP(改定値)発表
28日 メキシコ4月雇用統計発表
28日‐5月29日 最高ユーラシア経済評議会(カザフスタン・アスタナ)
29日 ブラジル第1四半期GDP発表
29日 チリ2~4月雇用統計発表
31日 コロンビア総選挙(大統領、上院・下院議員)
5月中 国連(経済社会局)世界経済状況・予測発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問