キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2026年1月27日(火)
[ 2026年外交・安保カレンダー ]
遂に衆議院選挙が公示された。国内政治(特に、選挙)について筆者は、元霞が関役人として必要にして十分な程度の知見しか持ち合わせていない。だが、今回の選挙については、物知りの誰に聞いても「今回ばかりは予測困難」という答えが返ってくる・・・。筆者の実感も、恐らくは多くの読者の皆様と同様、これに近いものだ。
既にネット上では自薦他薦の「完全予測」や、出所不明の「内部情報」に基づくが実は「贔屓の引き倒しではないの?」的な怪しげな情報が氾濫しているが、これは実に不健全だ。個人的には、そろそろ既存大手メディアの「価値」が再認識されても良いのでは、とすら思っている。決して「オールドメディア」の代理人ではないが・・・・。
さて、選挙以外で今週注目したいのは、中国共産党の人民解放軍人事だ。相次ぐ解放軍高官の失脚は明らかに異常である。昨年は、何衛東・中央軍事委員会副主席ら9人が巨額汚職を理由に党籍剝奪処分を受けたが、先週末には張又侠・中央軍事委員会副主席や劉振立・連合参謀部参謀長が解任されたと報じられた。
報道以上の詳細は不明だが、良い機会なので、筆者の最近の悩みを打ち明けよう。国際情勢の分析を生業とする筆者にとって、この解任劇の背景はどうしても書かざるを得ない。ところが正確な公開情報などないし、仮に中国共産党の「内部情報」を知っていたら、そんなものとても使えない。書けば、情報提供者の命が危なくなるからだ。
こんな時、若い人はAIを使うのかもしれない。試しに「最近の中国人民解放軍高官の失脚事件はどう解釈すればよい?」とAIに聞けば、文字通り瞬時で答えが出る。AI曰く、「以下の3つの視点が重要」として、
などと、実に尤もらしいことを宣うのである。なるほど、AIが出来ることは、既に公表されている膨大な資料を可能な限り読み込み、その中から最大公約数的な情報をピックアップするのだろう。だが、筆者は懐疑的だ。こんなもの「あまり当てにならない」と思うし、AIと同じような内容を書くことには、知的にも、大きな抵抗がある。
要するに筆者の最近の悩みは、どうしたらAIが予測できないような斬新な「仮説」を考えることができるか、なのだ。AIの情報量には勝てないが、かといって根拠のない「思い付き」を書いても信用を失う。情報が氾濫する中、AIでも書けるようなことを書かず、それでいて筋の通った新鮮な「仮説」を書くのは意外に難しいのである。
それでは、筆者はどう見るのか。以下は現時点での筆者の仮説である。
① 今の中国社会の特徴の一つは「権力の金銭化」だ。ビジネスは勿論、普通の人間関係の世界でも、情報を「独占」できれば、それは「利権化」を意味する。されば、解放軍の世界でも、上層部に「腐敗していない」軍人がいるとは到底思えない。されば「不正・腐敗」が今回の異常人事の真の原因ではないだろう。
② 習近平主席への「忠誠心」を再確認するとか、同主席の権力が「陰りつつある」などと見る向きもあるが、党内に不満はあっても、習近平氏の権力は今も絶対に近い。少なくとも、現時点で「揺らいでいる」とは思えない。こんな異常人事が整然と行われるのは、逆に同氏の権力がソ連の「スターリン」のそれに近い証拠である。
③ それよりも、筆者が注目するのは軍内の「世代間緊張」だ。実戦経験のない中堅世代は、台湾解放を含め、対外軍事行動を躊躇しない「血気盛んな」将兵が多いのではないか。これに対し、中越戦争を経験し、戦争が如何に難しいかを知る古い世代は、命令されても、「台湾解放」に慎重である可能性はないのか。
④ 国家主席の「夢」を実現し、自らも軍内主導権を握ろうとする野心ある若手将軍たちと、人民解放軍は簡単に「台湾解放」などできないと現実的に対応する最上層部との間に確執はないのか。あるとすれば、人民解放軍が全体として習近平主席の信頼を失いつつあることの真の理由をある程度説明できるかもしれない・・・。
この続きは来週書くことにしよう。
続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
| 1月27日 火曜日 | ホンデュラス大統領就任式 |
| インド首相、EU・インド首脳会議を主催 | |
| 米国、パリ気候条約より正式離脱 | |
| 1月28日 水曜日 | 韓国前大統領夫人への刑事裁判の評決 |
| ラ米・カリブ国際経済フォーラム開催(パナマ) | |
| 1月29日 木曜日 | 英首相訪中(2日間) |
| 1月30日 金曜日 | 米議会連邦継続予算決議が失効 |
| 1月31日 土曜日 | 英首相訪日 |
| 2月 1日 日曜日 | ウクライナ、ロシア、米国によるウクライナ停戦協議(UAE) |
| コスタリカで大統領選挙・議会選挙実施 |
最後はガザ・中東情勢だが、今週はガザをめぐる「平和協議会」とイラン情勢を取り上げる。まずは米国主導の「平和協議会」だが、報道によれば、米大統領は22日、ダボスで、パレスチナ自治区ガザの暫定統治のために設立した「平和評議会」の調印式を開き、参加要請を受けた約60カ国のうち、G7など西側諸国を除く、中東や親米政権の首脳20人が参加したという。
また一部には、同評議会が「国連安保理決議を経て負託されたガザ暫定統治の枠組みを超え、米政権が安保理に取って代わるような世界の紛争解決機関を目指しているのではないか」と懸念する声すらあるそうだ。しかも、同評議会の議長はトランプ氏で拒否権も持つという。うーーん、「バカバカしい」とまでは言わないが・・・。
1970年代末からパレスチナ問題をフォローしてきた筆者には、こんな評議会でパレスチナ問題が前進するとは到底思えない。まして、これが「他の紛争解決にも資する」なんて思う方がどうかしている。参加した首脳たちだって、トランプ氏を信頼しているとは思えない。様々な思惑で「お付き合い」し「利用」しようとしているのだろう。
次はイランだ。懸念されていた米国の対イラン攻撃の可能性は一時鎮静化したかと思ったのだが、26日、CNNは、政権関係者の話として、米空母打撃群が「現在インド洋に展開しており、イランを標的として実行される可能性のある米国の作戦を支援する態勢に近づいている」と報じた。
同報道によれば、「同打撃群は米中央軍の管轄区域内にあり、同軍の管轄には中東における軍事作戦も含まれる」が「同空母が対イラン作戦に向けた最終的な配置についているとは限らない」とも報じている。うーん、また始まったか?
この種の報道には常に注意が必要だ。これでは、あたかも米国がインド洋に意図的かつ新規に空母を派遣したように見えるではないか。事実はおそらく違う。現在米海軍が保有する空母は10隻だったと記憶するが、これらの一部は休養、メンテナンス等で使えない。現在は5隻が世界に展開していると公表されている。
具体的には、エーブラハム・リンカーン (CVN-72)がインド洋(中東海域)、ジョージ・ワシントン (CVN-73)が東シナ海周辺の警戒監視、ジェラルド・R・フォード (CVN-78)がカリブ海および大西洋方面で活動中、セオドア・ルーズベルト (CVN-71)がサンディエゴを出港し、西太平洋方面へ向けて航行中、ジョージ・H・W・ブッシュ (CVN-77)が大西洋で戦展開中、これだけである。
しかも、これら5隻は世界中をローテーションで回っている。逆に言えば、インド洋中東海域には1月26日まで米空母は「一隻もいなかった」はずなのだ。そのことを知ってか知らずか、CNNはトランプ政権の情報操作に乗ったのか、こんな推測記事を書いたのかもしれない、勿論、これはあくまで筆者の仮説であるが・・・。
米国の対イラン攻撃に最も強く反対するのは、ミサイル迎撃準備が不十分のイスラエルと、戦火拡大を恐れるサウジ他湾岸アラブ諸国だ。先週は「馬鹿なことは止めた方が良い。攻撃すれば、イランの体制は再び強化される」とも書いた。万一、今回米国がイランを攻撃しても、逆効果となる可能性の方が高いだろう。トランプが言うことや、トランプ政権による意図的情報リークを、「真に受ける」必要はないのである。今週はこのくらいにしておこう。
2026年重要日程レポート4【1月26日版】
<今週以前から続く会議>
1月12日‐1月30日 児童の権利委員会第100回会議(ジュネーブ)
1月19日‐1月27日 軍縮会議、第一部(ジュネーブ)
1月19日‐1月30日 人権理事会(ジュネーブ)
1月19日‐1月30日 派遣会社所有機器の償還に関するワーキンググループ(ニューヨーク)
2026年1月
<1月26日‐2月1日>
26日 メキシコ2025年12月雇用統計発表
26日 キプロスがEU議長国に(6月末まで)
26日 ドイツの新兵役法が施行
26日 フランスが先進7カ国(G7)議長国に
26日‐1月27日 アジア金融フォーラム(香港)
26日‐1月28日 サイバーテック・グローバル・テルアビブ2026(テルアビブ)
26日‐1月30日 Gulfood2026(UAE・ドバイ)
26日‐1月30日 情報通信技術の犯罪目的での利用に対抗するための包括的な国際条約を策定するための特別委員会(ウイーン)
26日‐1月30日 UNCTAD、プログラム計画及びプログラム実施に関する作業部会、第90回会合(ジュネーブ)
27日 欧州議会本会議
27日 メキシコ2025年12月貿易統計発表
27日 米国が温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から再離脱
27日‐1月28日 ブラジル中央銀行、Copom
27日‐1月28日 米国FOMC
28日 韓国前大統領夫人に判決言い渡し(ソウル)
28日 インド12月IIP発表
29日 EU外相理事会(ブリュッセル)
29日 米国第4四半期(速報値)および2025年通年GDP発表
29日 メリディアンスポーツ外交フォーラム(ワシントンD.C.)
29日‐1月30日 2026年ジミー・カーター米中関係フォーラム(アトランタ、ジョージア州)
30日 25年10~12月期のユーロ圏GDP速報値(EU統計局)
30日 ブラジル2025年12月全国家計サンプル調査発表
30日 フランス第4四半期GDP成長率(速報値)発表
31日 ケニア1月CPI発表
1月上旬 中国2026年の主要統計の発表日程公表
1月上旬 中国2025年通年貿易統計発表
1月中旬 中国2025年通年経済指標(GDP、CPI、固定資産投資、社会消費品小売総額等)発表
1月下旬 韓国2025年第4四半期および通年GDP(速報値)発表
1月下旬 イラン暦10月CPI発表
1月中 韓国2025年12月および通年貿易統計発表
1月中 韓国2025年12月および通年雇用統計発表
1月中 国連(経済社会局)世界経済状況・予測発表
1月中 WTO2025年第3四半期サービス貿易統計発表
1月中 OECD2025年第3四半期海外直接投資(FDI)統計発表
2月
1日 コスタリカ大統領選
2月‐3月 ミャンマー国会
2日‐2月6日 UNDP/UNFPA/UNOPS執行委員会、2024年第1回定例会(ニューヨーク)
2日‐2月7日 WHO執行理事会第158回会合(ジュネーブ)
3日 ブラジル2025年12月鉱工業生産指数発表
3日 香港2025年12月小売統計発表
3日‐2月4日 IMTM-地中海観光国際展示会(テルアビブ)
4日 タイ2026年1月CPI発表
4日‐2月5日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)
4日‐2月6日 インド準備銀行金融政策決定会合
5日 新戦略兵器削減条約(新START)が失効
5日 欧州中央銀行(ECB)定例理事会(金融政策発表と記者会見、独フランクフルト)
5日 台湾2026年1月CPI発表
5日‐2月7日 イタリア博覧会カンボジア2026年(カンボジア)
6日 米国1月雇用統計
6日 2026年1月のベトナム社会・経済統計発表(CPI)
6日‐2月8日 「MyKarachi - Oasis Of Harmony」カラチ国際展(パキスタン)
8日 タイ総選挙
8日 北朝鮮の朝鮮人民軍創建日
9日 メキシコ1月CPI発表
9日‐2月12日 欧州議会本会議
9日‐2月12日 WHX Dubai(旧アラブヘルス)(ドバイ)
10日 メキシコ1月自動車生産・販売・輸出統計発表
11日 メキシコ2025年12月鉱工業生産指数発表
11日 米国1月CPI発表
11日 EU国防相理事会(ブリュッセル)
12日 イスラエル1月財貿易統計発表
12日 インド2026年1月消費者物価指数発表
12日 バングラデシュ総選挙
13日 ロシア中央銀行理事会
13日 ブラジル2025年12月月間小売り指数発表
14日‐2月17日 リードギフトショー(オーストラリア)
15日 イスラエル1月CPI発表
15日‐2月16日 アフリカ連合(AU)サミット(エチオピア・アディスアベバ)
16日 フィリピン2025年12月OFW送金額発表
17日‐2月18日 エヴォーク・アグ「Evoke Ag」(オーストラリア)
18日 フランス1月CPI発表
18日 南ア1月CPI発表
19日 イスラエル1月財貿易統計発表
20日 メキシコ2025年12月小売・卸売販売指数発表
22日 香港2025年12月CPI発表
23日 EU外相理事会(ブリュッセル)
23日 メキシコ2025年第4四半期GDP発表
23日 OECD2025年第4四半期G20貿易統計発表
25日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)
25日 タイ金融政策委員会1回目
25日 オーストラリア2026年1月CPI発表
25日 ユーロスタット、1月CPI(HICP)発表
25日 香港2026年1月CPI発表
26日 メキシコ1月雇用統計発表
26日 米国2025年第4四半期(改定値)および2025年通年GDP発表
27日 メキシコ1月貿易統計発表
27日 インドGDP2025年度第3四半期統計発表
28日 インド2026年1月消費者物価指数発表
2月上旬 ブラジル1月IPCA発表
2月中 IMFチームの予算措置に関する訪問(パキスタン)
2026年前半 ロシア・アラブ首脳会議(場所未定)
2026年内 ロシア大統領がカザフスタン訪問を予定
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問