外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2025年11月11日(火)

外交・安保カレンダー (11月10日-16日)

[ 2025年外交・安保カレンダー ]


日本では国会論戦が始まったのだが、(オールド?)メディアは相変わらずの「ルーティーン」「お約束」的報道が目立つ。中でも白眉(?)だったのは高市首相の「午前三時に国会答弁レク開始」と「台湾有事、『存続危機事態になり得る』答弁」の関連報道だ。どちらも「大問題」と考える向きがあるようだが、筆者の見立てはちょっと違う。

まずは「未明の国会レク」から始めよう。「野党の質問通告が遅い」などと宣って炎上した自民党議員もいた。だが、「遅い」という点では与野党にあまり大きな違いはない、これが筆者の経験則だ。この点では、「国会答弁システム」全体の問題だという指摘(国民民主党党首も言っている)が正鵠を射ていると思う。

しかし、問題の本質は質問通告の「遅れ」などではない。日本の国会答弁システムがうまく機能しない理由は4つある。第一は閣僚の国会答弁頻度の多さ、第二は「大臣」のレベルの低さ、第三は一部「野党」の「揚げ足取り」質問のお粗末さ、第四は「国会議事録」至上主義である。最後の点が特に重要だが、順次ご説明しよう。

第一に、日本の国会における首相、閣僚の拘束時間の長さは尋常でない。この問題はこれまで何度も議論され、総理大臣や閣僚の負担を減らす措置が導入された筈だが、今まで一度も成功したことはない。これほど首相や閣僚の「価値」が低い、「大安売り」国家は主要国では少ないのではないか。

第二の問題は「大統領制」ではあまり表面化しない。閣僚レベルにはその道の専門家を抜擢することが多いからだ。一方、議院内閣制、特に日本の場合は「論功行賞」で素人が大臣になることが少なくない。素人を短期間でゼロから特訓し、しっかり答弁をさせるには、官僚側に気が遠くなるような準備と努力が必要となる。

第三の問題は、野党の質問の細かさだ。重箱の隅を突く様な詳細な質問を大臣に浴びせ、細かく答弁させてどうするのか。放言、失言を期待しているのかね。政治だから「何でもあり」なのかもしれないが、こんなものは国会の議論ではない。但し、これは自民党が野党だった時代にも見られたこと。これも与野党であまり変わりはない。

最後は国会議事録の重要性だ。新たな法律や政策を打ち出す場合、その判断基準は、多くの場合、国会審議のやりとりの中で決まる。だから、新政策に反対する野党はしつこく、事細かに、場合によっては審議を止めてでも、政府に不利な答弁を引き出そうとする。それが議事録に載れば、事実上の公式解釈となるからだ。

要するに、首相や大臣にはじっくり考え、果断に実行する時間がもっと必要なのに、日本の国会審議は、経験不足の大臣の揚げ足取りばかり試み、あわよくば新政策の解釈基準を実質的に決めようとする戦いの最前線なのだ。しかも、日本の閣僚には「ノーコメント」の権利がない。これでは審議が形骸化するのも当然だろう。

おっと、国会答弁について書きすぎた。お陰で「台湾有事、存立危機事態」について書くスペースがなくなってしまった。この点は今週のJapanTimesに書くので、ご一読願いたい。簡単に言えば、高市首相の答弁は、日本の台湾問題に関する「曖昧戦略」をほんのちょっと「明確化」しただけ、ということ。決して、報じられているように、「手の内を明かした」とは思わない。

さて続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

11月11日 火曜日  パレスチナ自治政府大統領訪仏、仏大統領と会談
イラク議会選挙
インド首相、ブータン訪問(2日間)
カザフスタン大統領、訪露(2日間)
11月14日 金曜日  キプロス大統領訪独、独首相と会談
11月16日 日曜日  チリ総選挙
11月17日 月曜日  上海協力機構首脳会議(ロシア)


最後は、ガザ・中東情勢だが、ガザ「停戦」は未だ「休戦」には至らず、戦争でも平和でもない状態が続いている。むしろ、今の筆者の関心は米シリア首脳会談だ。報道によれば、10日、米大統領はシリアのシャラア暫定大統領とホワイトハウスで会談し、経済協力など両国の関係強化について協議した。米側はシリアの再建、復興を後押しする姿勢を改めて強調し、シリア側は、トランプ氏と「シリアにおける将来の投資機会について話し合った」「シリアは安全保障上の脅威ではなく、地政学的な同盟国と見られている」と語ったそうだ。ふーん、まだ完全な正常化ではないのだろうが、大きな変化であることだけは間違いない。

米側はシリアに「対イスラエル関係正常化」を求め、シリア側は「経済制裁解除と国家再建への協力」を求めたのだろうが、いくらシリアだって、パレスチナ問題の行方を見ずに、今対イスラエル「正常化」カードなど簡単には切れないだろう。今週はこのくらいにしておこう。


2025年重要日程レポート45【11月10日版】

<今週以前から続く会議>

10月30日‐11月14日 ユネスコ総会第43回会期(予定)

11月

<11月10日‐11月16日>

10日 ロシア8月CPI発表
10日 EU外相理事会
10日 対中相互関税の適用停止期限
10日‐11月12日 包括的核実験禁止条約機構準備委員会第65回会議(ウイーン)
10日‐11月14日 UNCITRAL、第5作業部会(倒産法)、第67回会合(ウイーン)
10日‐11月15日 第24回ASEAN上級法務官会議〔24th ASEAN Senior Law Officials Meeting (ASLOM)〕(フィリピン)
10日‐11月15日 第13回ASEAN法務大臣会合〔13th ASEAN Law Ministers Meeting (ALAWMM)〕(フィリピン)
10日‐11月15日 第1回ASEAN+日本法務大臣会合〔1st ASEAN Plus Japan Law Ministers Meeting(ALAWMM + Japan)〕(フィリピン)
10日‐11月21日 国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)(ブラジル・ベレン)
10日‐11月21日 国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)(ブラジル・リオデジャネイロ)
10日‐11月21日 国際麻薬統制委員会第144回会議(ウイーン)
11日 セム・イスラエル・エキスポ(イスラエル・エアポート・シティ)
11日 イラク国民議会選挙
11日 アイルランド大統領選挙
11日 英国労働市場統計(7~9月)発表
11日 メキシコ9月鉱工業生産指数発表
11日 ブラジル10月IPCA発表
11日‐11月13日 メキシコ産業変革2025年(メキシコシティ)
11日‐11月15日 第18回欧州公衆衛生会議2025年
12日 トルコ10月国際収支統計発表
12日 ドイツ10月CPI発表
12日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)
12日 インド10月CPI発表
12日 ロシア第2四半期経済活動別GDP(速報値)発表
12日 ロシア中央銀行理事会
12日‐11月13日 欧州議会本会議
12日‐11月13日 サウジアラビア国際レストラン&フードサービスショー(リヤド)
12日‐11月14日 シンガポール・フィンテック・フェスティバル 2025(シンガポール)
12日‐11月14日 UNCTAD、国際会計・報告基準に関する政府間専門家作業部会、第42回会合(ジュネーブ)
12日‐11月14日 SEA 2025 - 持続可能な環境アジア(マレーシア)
12日‐11月14日 EMA 2025 - Eモビリティアジア(マレーシア)
12日‐11月15日 「SIAL」シアルインターフード(ジャカルタ)
13日 英国第3四半期実質GDP成長率(速報値)発表
13日 フランス第3半期失業率発表
13日 米国10月CPI発表
13日 ブラジル9月月間小売り調査発表
13日‐11月14日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(予算)
14日 フランス10月CPI発表
14日 米国10月小売統計発表
14日 中国10月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
14日 パキスタンオートショー(パキスタン)
14日 イスラエル10月CPI発表
15日 自民党結党70年
16日 第4回シェルパ会議
16日 イスラエル10月財貿易統計発表
16日 日韓議連総会(ソウル)
16日 チリ大統領選挙、国会議員選挙

<11月17日‐11月23日>

17日 イスラエル10月財貿易統計発表
17日 EU一般問題理事会
17日‐11月18日 上海協力機構(SCO)首相会議(モスクワ)
17日‐11月21日 IAEA定例理事会(ウイーン)
17日‐11月21日 第19回ASEAN国防高官会議〔19th ASEAN Defence Ministers’ Meeting (ADMM)〕、第12回ASEAN国防高官会議プラスおよび関連会議〔12th ASEAN Defence Ministers’ Meeting-Plus(12th ADMM-Plus)and Related Meetings〕(マレーシア)
17日‐11月21日 WFP執行委員会第2回定例会(ローマ)
17日‐11月27日 ILO理事会およびその委員会、第355回会議(ジュネーブ)
17日‐11月28日 ICAO、航空航法委員会、第230回会議(モントリオール)
18日 北朝鮮のミサイル工業節
18日‐11月20日 PIPOC 2025 - 国際パーム油会議・展示会(マレーシア)
18日‐11月28日 ICAO理事会フェーズ第236回会議(モントリオール)
19日 ユーロスタット、10月CPI(HICP)発表
19日 南ア9月CPI発表
19日 英国10月CPI発表
19日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会、非金融政策
19日‐11月22日 ベトナムウッド2025(ホーチミン)
19日‐11月22日 加工・包装展(ジャカルタ)
19日‐11月22日 プラスチック・ゴム博覧会(ジャカルタ)
20日 ECB一般理事会(ハイブリッド)
20日‐11月21日 2025年アジア太平洋水素サミット・展示会(オーストラリア)
20日‐11月22日 グローバル電子インテリジェント製造ショー - ベトナム 2025(ハノイ)
21日 EU外相理事会(開発)
21日 メキシコ第3四半期GDP発表
22日‐11月23日 G20サミット(南アフリカ共和国・ヨハネスブルク)
23日 ギニアビサウ大統領・国民議会議員選挙
23日 サウジアラビア10月CPI発表

<11月24日‐11月30日>

24日 ロシア1~8月鉱工業生産指数発表
24日‐11月25日  EU-アフリカ連合(AU)サミット
24日 EU外相理事会(貿易)
24日‐11月27日 ヘルスILウィーク(テルアビブ)
24日‐11月27日 欧州議会本会議
25日 メキシコ9月小売・卸売販売指数発表
26日 米国第3四半期GDP(改定値)発表
27日 金融政策発表(パキスタン)
27日 トルコ10月貿易統計発表
27日 メキシコ10月貿易統計発表
28日 EU外相理事会(防衛)
28日 メキシコ10月雇用統計発表
28日 ブラジル10月全国家計サンプル調査発表
28日 インド10月IIP発表
28日 インドGDP第2四半期統計発表
28日‐11月30日 アニメフェスティバルアジアシンガポール2025(シンガポール)
30日 ホンジュラス大統領選
11月中 OECD2025年第3四半期G20貿易統計発表
11月中 集団安全保障条約(CSTO)首脳会議(キルギス・ビシケク)

12月

1日 インドネシア10月貿易統計発表
1日 インドネシア11月CPI発表
1日‐12月5日 第19回世界水会議 「The World Water Congress」(モロッコ・マラケシュ)
2日 ブラジル10月鉱工業生産指数発表
2日 南ア第3四半期GDP発表
2日 モーションコントロール、オートメーション、ロボティクス&パワーソリューション 2025(イスラエル・テルアビブ)
3日 トルコ11月CPI発表
3日‐12月6日 「Manufacturing Indonesia 2025」製造業インドネシア2025年(ジャカルタ)
4日 ブラジル第3四半期GDP発表
4日 米国10月貿易統計発表
4日‐12月6日 「Vietnam Medi-Pharm Expo 2025」ベトナムメディファーマエキスポ2025年 (ベトナム)
5日 ユーロスタット、第3四半期実質GDP成長率発表
5日 米国11月雇用統計
8日 中国11月貿易統計発表
8日 サウジアラビア第3四半期GDP発表
8日 EU競争力担当理事会(域内市場・産業)
8日‐12月9日 アグロ・マショブ2025(イスラエル・オファキム)
9日 EU競争力担当理事会(研究・宇宙)
9日 メキシコ11月CPI発表
9日‐12月10日 ブラジル中央銀行、Copom
9日‐12月10日 米国FOMC、経済見通し発表
9日‐12月12日 食品展示会「Food Africa」(エジプト・カイロ)
10日 ブラジル11月IPCA発表
10日 カナダ中央銀行政策金利発表
10日 米国11月CPI発表
10日 中国11月CPI発表
10日 ロシア11月CPI発表
10日‐12月13日 国際食品・飲料展示会「Salon international de l'alimentation et des boissons」(モロッコ・カサブランカ)
11日 イスラエル11月財貿易統計発表
11日 トルコ中銀金融政策会議
11日 ブラジル10月月間小売り調査発表
11日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)
12日 トルコ11月国際収支統計発表
12日 ロシア第3四半期経済活動別GDP(速報値)発表
12日 フランス11月CPI発表
12日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会
12日 メキシコ10月鉱工業生産指数発表
12日 インド11月CPI発表
15日 イスラエル11月CPI発表
15日 サウジアラビア11月CPI発表
15日 トルコ11月中央政府予算
15日 中国11月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
15日 パキスタン中央銀行金融政策決定会合
15日 EU外相理事会
15日‐12月18日 欧州議会本会議
16日 英国労働市場統計(8~10月)
16日 EU一般問題理事会
17日 南ア11月CPI発表
17日 英国11月CPI発表
17日 ユーロスタット、11月CPI(HICP)発表
17日 米国11月小売統計発表
17日‐12月18日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会
18日 ECB定例理事会(金融政策発表と記者会見)(フランクフルト)
18日 メキシコ10月小売・卸売販売指数発表
18日 米国第3四半期国際収支統計発表
18日‐12月19日 欧州理事会(EU首脳会合)
19日 ロシア中央銀行理事会
19日 米国第3四半期GDP(確定値)発表
23日 メキシコ11月貿易統計発表
24日 メキシコ11月雇用統計発表
24日 米国第3四半期対外資産負債残高統計発表
24日 ロシア1~11月鉱工業生産指数発表
26日 ケニア12月CPI発表
26日 インド11月IIP発表
28日 ミャンマー総選挙
28日 中央アフリカ大統領・国民議会議員選挙
30日 ブラジル11月全国家計サンプル調査発表
30日 ロシア第3四半期需要項目別GDP(速報値)発表
31日 トルコ11月貿易統計発表
12月中 最高ユーラシア経済評議会(ロシア・サンクトペテルブルク)
12月中 ロシア大統領がインド訪問
12月中 ギニア大統領・国民議会議員選挙


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問