外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2025年7月10日(木)

外交・安保カレンダー (7月7日-13日)

[ 2025年外交・安保カレンダー ]


今週は本稿執筆がまたもや遅れてしまった。特別な理由があった訳では必ずしもないが、米国時間月曜日の米・イスラエル首脳会談の結果を見てから・・・、いやテキサス州での大洪水で多くの児童を含む犠牲者が出た悲劇へのトランプ政権の対応を見ようか、などと色々考えているうちに時間が経ってしまった。誠に申し訳ない。

6月21日の米軍機によるイラン核施設3カ所への空爆に対するイラン側の反応は今のところ予想通り、要するに、対米攻撃や対米交渉よりも、国内でのイスラエルのスパイ・協力者の取り締まり・摘発の方が忙しいのだろう。このところ中東関係ばかり書いてきたので、今回は他の地域を取り上げたい。

先週はあれだけ対外軍事介入を忌避してきたトランプ氏が「外科手術的」とはいえ直接イラン国内の核施設を空爆したことに内外の注目が集まった。NYTなどを読むと、トランプ政権内は意見が割れていたが、今回は対外不介入主義のレストレイナー、中国重視のプライオリタイザーより、対イラン強硬派のプライマリスト・マキシマリストの声が通ったなどといった「見てきたような」観測記事が散見される。

だが、ワシントンという街には、ワシントン市内、特に時の政権内の意見対立に注目し、時に、それを誇張して書く傾向があることを忘れてはならない。その種の性癖は政治記者特有のものであり、その点は日本も同様で、永田町内の派閥争いに命を賭ける政治部記者が少なくない。そうした側面があることを筆者は否定などしない。

でも、今回の第二期トランプ政権は、従来とは少し違うのではないか、という気がする。第一期政権の場合、大統領周辺には、専門知識に裏打ちされた、一家言を持つ、多くの一言居士たちがいた。彼らに共通したのは「大統領はバカだ」と言って憚らない、程度の差はあれ、一定レベル以上の、実力とプライドを持っていたことだ。

勿論、トランプ氏がそんな連中を重用する筈はない。当時この種の人々は、数少ない例外を除いて、全て任期途中で政権を去っている。だが、今の第二期トランプ政権にそんな矜持を持った政策のプロは見当たらない。だから、大統領の側近たちを政策上の立場だけで分類し、その上でどのグループが優勢か、などと論じても、どれだけ意味があるのか、筆者には疑問が残る。

大統領がしっかりとした戦略・哲学に加え、一定の政策方針を持ち、スタッフの意見に耳を傾け、良く考えた上で決断するなら、この種の議論は将来の政策予測に資すると思う。だが、万一そうでない場合、議論は多くの場合、的外れとなるだろう。この点、情報は漏れてこないが、方針決定にはそれなりの一貫性、方向性のある中国とは違うところだ。

中国といえば、昨日CNNが興味深い話を報じていた。昨年の大統領選の際、トランプ候補が「台湾が侵攻されれば北京を爆撃する」と中国の習近平国家主席に伝えたことがあると語っていた、という。トランプ氏の発言を録音したテープもあるというから驚きだ。

CNNによれば、大口寄付者を対象にした非公開の集会で、習主席と話した際のこととして、「台湾が侵攻された場合にはアメリカが北京を爆撃すると伝えた」と語ったそうだ。また、プーチン大統領に対し、「ウクライナに侵攻した場合にはモスクワを爆撃する」と伝えたことがある、とも発言していたという。習氏の反応についてトランプ氏は「私のことを狂っていると思ったようだ」と振り返っていたというから笑ってしまう。

事実かどうかは問題ではない。仮に事実であっても、トランプ政権関係者は沈黙するし、大統領は否定するだけだろう。問題はトランプ氏の「熟慮せず、思ったことを、そのまま、直感に従って、発言してしまう」という悪癖は全く治っていない、ということ。となれば、やはり、今週の勝者はイスラエルのネタニヤフ首相、ということになる。

あれだけ対外軍事介入を忌み嫌う米国の大統領に、対イラン攻撃を実行させるイスラエル首相の「外交力」は半端ではない。このネタニヤフの政治力・交渉力こそ、中国の「台湾侵攻」の際に米国の介入を当てにしている地域の当事者、特に台湾や日本の政策決定者が学ぶべき能力だと思う。ではその答えは何か。これは来週に取っておこう。

さて続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。今週から夏枯れが始まりそうだ。

7月8日 火曜日  仏大統領、訪英(3日間)
7月9日 水曜日 ASEAN外相会議(3日間、マレーシア)
台湾で大規模軍事演習(一週間程度)
7月10日 木曜日 アフリカ連合、外相会合(赤道ギニア、2日間)
欧州議会、欧州委員会委員長に対する不信任投票を実施
7月11日 金曜日  上海協力機構外相会議(北京、2日間)


最後にガザ・中東情勢についてもう一言。先週筆者は「外務省入省後から50年あまり、中東政治情勢を激変させてきたイラン・イスラム共和制はこれからどうなるのだろう」と書いてしまったが、考えれば考えるほど、米国の対イラン直接攻撃は「ゲームチェンジャー」となる可能性が高いと思う。イラン国内の対イスラエル戦争は「米イスラエルvsイラン」戦争の第二幕となるだろうが、この物語がいつ、どのように終わるかをじっくり考える必要があると思っている。

巷ではガザ停戦や核協議の行方といった目先の結果を追い求める向きが少なくないが、今こそ、特に日本は「ポスト米イラン戦争」について深い情報分析と政策議論が必要ではないかと愚考する。今週はこのくらいにしておこう。

2025年重要日程レポート27【7月7日版】

<今週以前から続く会議>

4月13日‐10月13日 大阪・関西万博が開幕
6月16日‐7月11日 人権理事会第59回会議(ジュネーブ)
6月23日‐7月25日 人権委員会、第144回会期(ジュネーブ)
6月23日‐7月31日 マレーシア国会第2回審議(第4会期)
6月30日‐7月31日 国際法委員会第76会期(第2部)(ジュネーブ)
7月6日‐7月7日 BRICS首脳会議(ブラジル・リオデジャネイロ)
7月6日‐7月7日 イスラエル中銀金融委員会会合・経済見通し発表

7月

<7月7日‐7月13日>

7日 メキシコ6月自動車生産・販売・輸出統計発表
7日 FAO理事会第178回会議(ローマ)
7日 5月の毎月勤労統計調査速報(厚労省)
7日 5月の景気動向指数速報(内閣府)
7日 6月末の全国銀行預金・貸出金速報(全銀協)
7日 筒井義信経団連会長会見(経団連会館)
7日 米イスラエル首脳会談(ワシントン)
7日‐7月9日 国際刑事裁判所ローマ規程締約国会議、侵略犯罪に関する改正の検討に関する特別会議(ニューヨーク)
7日‐7月9日 化学物質の分類および表示に関する世界調和システムに関する専門家小委員会第48回会合(ジュネーブ)
7日‐7月10日 欧州議会本会議(ストラスブール)
7日‐7月10日 産業博覧会「イノプロム」(ロシア・エカテリンブルク)
7日‐7月11日 第14回ASEAN・カナダ自由貿易協定(ACAFTA)貿易交渉委員会(TNC)および関連会合〔14th ACAFTA TNC Meeting and Related Meetings 〕(マレーシア)
7日‐7月11日 女性差別撤廃委員会会期前作業部会第93会期(ジュネーブ)
7日‐7月11日 IMO理事会第134回会議(ロンドン)
7日‐7月18日 国際海底機構理事会第30会期第2部(キングストーン)
7日‐7月23日 UNCITRAL、第58回会合(ウイーン)
8日 2025年上半期と6月の企業倒産(民間信用調査会社)
8日 5月の国際収支(財務省)
8日 ブラジル5月月間小売り調査発表
8日‐7月11日 ASEAN関連外相会議(クアラルンプール)
8日‐7月17日 WIPO加盟国会議、第66回会合(ジュネーブ)
9日 メキシコ6月CPI発表
9日 石油製品価格調査(経産省)
9日 パレスチナ人民の奪い得ない権利の行使に関する委員会、国連エルサレム問題に関する国際会議(ダカル)
9日 中国6月CPI発表
9日 米FOMC議事要旨(6月17、18日開催分)(FRB)
9日‐7月20日 AGROEXPO 2025(ボゴタ)
10日 経団連関西会員懇談会
10日 2025年上半期の中古車販売台数(日本自動車販売協会連合会)
10日 6月の企業物価指数(日銀)
10日 日銀支店長会議
10日 決算―セブン&アイ・ホールディングス、ファーストリテイリング
10日 大阪・関西万博アルジェリアナショナルデー(大阪)
10日 ブラジル6月IPCA発表
10日‐7月11日 ウクライナ復興会議(ローマ)
11日 中央最低賃金審議会(厚労省)
11日 ドイツ6月CPI発表
11日 トルコ6月国際収支統計発表
11日 トルコ6月中央政府予算
11日 ロシア6月CPI発表
11日 フランス6月CPI発表
11日 メキシコ5月鉱工業生産指数発表
13日 イスラエル6月財貿易統計発表

<7月14日‐7月20日>

14日 中国第2四半期貿易統計発表
14日‐7月18日 経済社会理事会、持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム、理事会主催第11回会期(ニューヨーク)
14日‐7月18日 人権理事会、先住民族の権利に関する専門家メカニズム、第18回会議(ジュネーブ)
14日‐7月31日 拷問禁止委員会第83回会期(ジュネーブ)
15日 中国第2四半期経済指標(GDP、固定資産投資、社会消費品小売総額等)発表
15日 サウジアラビア6月CPI発表
15日 イスラエル6月CPI発表
15日 米国6月CPI発表
15日‐7月17日 IEW2025 - 国際エネルギー週間2025(マレーシア)
16日 米地区連銀景況報告(ベージュブック)(FRB)
16日 英国6月CPI発表
16日‐7月20日 中国国際サプライチェーン促進博覧会(北京)
17日 米国6月小売統計発表
17日 英国労働市場統計(3~5月)
17日 ユーロスタット、6月CPI(HICP)発表
17日‐7月18日 G20財務相・中央銀行総裁会議(南アフリカ共和国・クワズールナタール)
17日‐7月18日 水素を繋ぐAPAC2025(オーストラリア)
20日 参院選が投開票(調整中)
20日 イスラエル6月国別財貿易統計発表

<7月21日‐7月27日>

21日‐7月23日 ビューティービジネスマレーシア2025(マレーシア)
22日 東京都議会議員任期満了
22日 メキシコ5月小売・卸売販売指数発表
22日‐7月25日 フード&ホスピタリティ・エキスポ(ジャカルタ)
23日 シンガポール6月CPI発表
23日 大阪・関西万博エジプトナショナルデー(大阪)
23日‐7月24日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
24日 ロシア上半期鉱工業生産指数発表
24日 サウジアラビア5月貿易統計発表
24日 トルコ中銀金融政策会議
25日 ロシア中央銀行理事会
25日‐7月26日 全米知事会夏季会合(コロラド州コロラドスプリングス)

<7月28日‐8月3日>

28日 メキシコ6月貿易統計・雇用統計発表
28日‐8月1日 第36回環境に関するASEAN高級実務者会議〔36th Meeting of ASEAN Senior Officials on Environment (ASOEN) and Related Meetings〕(マレーシア)
29日‐7月30日 ブラジル中央銀行、Copom
29日‐7月30日 米国FOMC
29日‐7月30日 オーストラリアクリーンエネルギーサミット(オーストラリア)
29日‐7月31日 国際農業技術、農業(ジャカルタ)
29日‐7月31日 鉄道輸送見本市(ジャカルタ)
29日‐7月31日 オフショア、海上貨物、造船所、海事産業博覧会(ジャカルタ)
29日‐7月31日 化学、石油化学、プロセス産業(ジャカルタ)
30日 ドイツ2025年第2四半期実質GDP成長率(速報値)発表
30日 米国第2四半期GDP(速報値)発表
30日 カナダ中央銀行政策金利発表・金融政策報告書発表
30日‐8月1日 MIFB 2025 - マレーシア国際食品・飲料見本市(マレーシア)
31日 ブラジル6月全国家計サンプル調査発表
31日 ドイツ6月労働市場統計発表
31日 トルコ6月貿易統計発表
31日 ケニア7月CPI発表
31日‐8月1日 大阪・関西万博サウジアラビア「Fortune Favors the Bold: Enabling the Start Up Ecosystem」(予定)(日本・大阪)

8月

1日 インドネシア7月CPI発表
1日 大阪・関西万博中央アフリカナショナルデー(大阪)
1日 米国7月雇用統計
1日 ブラジル6月鉱工業生産指数発表
2日 大阪・関西万博マリナショナルデー(大阪)
3日 アルゼンチン全党同時開放型義務的予備選挙(PASO)
4日 第77回ASEAN統合イニシアチブ(IAI)タスクフォース会議
4日 トルコ7月CPI発表
4日 大阪・関西万博ブルキナファソナショナルデー(大阪)
4日‐8月5日 第48回ASEAN経済統合に関するハイレベルタスクフォース(48th HLTF-EI)(マレーシア)
5日 米国6月貿易統計発表
5日 フィリピン7月CPI発表
5日 韓国7月CPI発表
6日 台湾7月CPI発表
6日 タイ7月CPI発表
6日 7月のベトナム社会・経済統計発表(CPI)
6日‐8月8日 VME 2025 ベトナム製造業博覧会「Vietnam Manufacturing Expo」
(ハノイ)
6日‐8月8日 国際家電博覧会(ジャカルタ)
6日‐8月8日 国際ギフト&家庭用品博覧会(ジャカルタ)
7日 中国7月貿易統計発表
7日 メキシコ7月CPI・自動車生産・販売・輸出統計発表
7日 チリ7月貿易統計発表
7日‐8月9日 ベトフード&ビバレッジ 2025年 + プロパック ベトナム 2025年(ホーチミン)
8日 フランス第2四半期失業率発表
8日 コロンビア7月CPI発表
8日 チリ7月CPI発表
9日 中国7月CPI発表
11日 メキシコ6月鉱工業生産指数発表
12日 ブラジル7月IPCA発表
12日 トルコ7月国際収支統計発表
12日 英国労働市場統計(4~6月)発表
12日 インド7月CPI発表
12日 米国7月CPI発表
13日 ドイツ7月CPI発表
13日 ブラジル6月月間小売り調査発表
13日 アルゼンチン7月CPI発表
13日 ロシア第2四半期GDP成長率(速報値)発表
13日 ロシア7月CPI発表
13日‐8月15日 国際再生可能エネルギー産業(ジャカルタ)
13日‐8月16日 第9回カンボジア国際機械産業見本市:CamboAuto、CamboPlas、CamboPack、CamboPrint、CamboAgrotech、CamboFoodtech、CamboMachtool、CamboToolware、CamboP&E(カンボジア)
13日‐8月16日 第9回カンボジア国際繊維・衣料産業展示会(カンボジア)
13日‐8月16日 カンボジア国際繊維・アパレルアクセサリー展示会(カンボジア)
14日 韓国で「慰安婦の日」
14日 英国第2四半期実質GDP成長率(速報値)発表
14日 サウジアラビア7月CPI発表
14日 フランス7月CPI発表
14日 香港2025年年央人口統計発表
14日‐8月16日 2025年ベトナムスポーツショー(ホーチミン)
15日 米国7月小売統計発表
15日 中国7月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
15日 フィリピン6月OFW送金額発表
15日 韓国で日本の植民地支配からの解放を記念する「光復節」
15日‐8月17日 カンボジア「フードプラス」エキスポ 2025年(カンボジア)
15日‐8月17日 カンボジア「ヘルス&ビューティー」エキスポ2025年(カンボジア)
17日 ボリビア大統領選挙、国会議員選挙
18日 シンガポール7月貿易統計発表
19日 フィリピン7月BOP統計発表
19日 カナダ7月CPI発表
20日 英国7月CPI発表
20日 トルコ7月中央政府予算
20日 ユーロスタット、7月CPI(HICP)発表
20日 南ア7月CPI発表
20日‐8月22日 第9回アフリカ開発会議(TICAD)(横浜市) 
20日‐8月22日 VIETFISH 2025 - ベトナム水産国際展示会(ホーチミン)
21日 大阪・関西万博トーゴナショナルデー(大阪)
21日 メキシコ6月小売・卸売販売指数発表
21日 香港7月CPI発表
22日 メキシコ第2四半期GDP発表
22日 マレーシア7月CPI発表
25日 シンガポール7月CPI発表
25日 大阪・関西万博セネガルナショナルデー(大阪)
25日 サウジアラビア第2四半期貿易統計発表
26日 OECD2025年第2四半期G20貿易統計発表
26日‐8月29日 VIFA ASEAN 2025 - ベトナム ASEAN 国際家具・ホームアクセサリー見本市(ホーチミン)
26日‐8月29日 第12回ASEAN社会福祉開発大臣会合および関連会合
27日 ロシア1~7月鉱工業生産指数発表
27日‐8月29日 国際農業技術見本市(ジャカルタ)
27日‐8月29日 国際加工・包装見本市(ジャカルタ)
27日‐8月29日 アバストゥール2025年「Abastur 2025」(メキシコシティ)
28日 インド6月IIP発表
28日 トルコ7月貿易統計発表
28日 メキシコ7月雇用統計発表
28日 米国第2四半期GDP(改定値)発表
28日‐8月30日 カンボジアにおける第7回国際実験室・分析・バイオテクノロジー・科学機器・技術展示会・会議(カンボジア)
29日 大阪・関西万博ベナンナショナルデー(大阪)
29日 ブラジル7月全国家計サンプル調査発表
29日 ドイツ7月労働市場統計発表
29日 フランス第2四半期実質GDP成長率(速報値)発表
31日 ケニア8月CPI発表


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問