キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2025年5月21日(水)
[ 2025年外交・安保カレンダー ]
失礼ながら、今週もトランプ外交の「お粗末さ」を書かねばならないのか、と思うだけで、執筆意欲は失せていく。月曜日にはプーチンと米露首脳電話会談があるというので、日本時間火曜日の未明まで頑張って起きていたが、案の定、成果らしい成果は皆無だった。今週も寝不足の一週間になることだけは間違いなかろう。
この電話会談につきブルームバーグは「プーチン氏との2時間に及ぶ電話会談後、トランプ氏は自身のSNSで『ロシアとウクライナは、即時に停戦に向けた交渉を開始する』と投稿したものの、米国は恐らく関与せず、制裁の警告も、期限に関する要求も、プーチン氏に対する圧力もなかった」などと報じている。なるほどね。
しかも、欧州の一部には「トランプ氏が戦争終結への取り組みを放棄し、ウクライナとその同盟国を見捨てるのではないか」と危惧する向きすらあるそうだ。これが事実なら、事態は深刻だ。問題はウクライナを「見捨てるか否か」だけでなく、そもそもトランプ自身が外交の難題に取り組む意欲・気力を「維持できるか」が問われるからだ。
ここまで書いて嫌な予感がしてきた。最近のトランプ氏の言動を追っていると、「もしかして、飽きっぽいこの人はウクライナ、ガザ、イランなどの懸案を解決すると大言壮語したものの、過去過去4か月間、プーチンも、ネタニヤフも、ハーメネイも、誰として取引に応じないため、やる気を失いつつあるのでは・・・」とすら思ってしまうのだ。
失礼を承知で言わせてもらうが、マンハッタンの一角を巡る不動産屋同士の「駆け引き」と「外交交渉」は全く異なる。筆者の30年弱の「外交交渉」の経験に照らしても、このような長い経緯のある、紆余曲折を経た末の複雑な交渉を、辛抱強く続けるための知的、精神的忍耐力がトランプ氏にあるとはどうしても思えないのだ。
その好例がガザの停戦交渉だ。トランプ氏にとっては一つの「取引」に過ぎないだろうが、イスラエルやハマースの当事者にとっては「生きるか死ぬか」の大問題。いくら米国大統領からの圧力とはいえ、簡単に譲歩できないのは当然だろう。後述する通り、今回トランプ氏は湾岸アラブ三か国を訪問したが、イスラエルは訪れなかった。
こうしたトランプ氏のあからさまな態度は、分かり易いと言えば分かり易いが、外交交渉とはこんな単純なものではない筈。こうしてイスラエルを邪険にしても、ネタニヤフはトランプの足元を見ており、痛くも痒くもないだろう。勿論、この点はウクライナ、ロシア、イランの指導者たちも同様である。
さて続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
5月20日 火曜日 | ハンガリー、テュルク諸国機構首脳会議を主宰 |
G7財務相・中銀総裁会合(カナダ、3日間) | |
欧州委員会委員長、チェコ大統領と会談(ブラッセル) | |
5月21日 水曜日 | 米大統領、南アフリカ大統領とホワイトハウスで会談 |
欧州委員会委員長、オランダ首相と会談(ブラッセル) | |
5月22日 木曜日 | 独首相、リトアニア訪問 |
5月25日 日曜日 | 仏大統領、ベトナム・インドネシア、シンガポール歴訪開始(一週間) |
ベネズエラ、議会選挙、地方選挙を実施 | |
スリナム、総選挙 | |
5月26日 月曜日 | ASEAN首脳会議開催(マレーシア) |
最後にガザ・中東情勢について一言。第一期と同様、トランプ氏は最初の本格外遊先としてサウジアラビアを選んだ。同時に、カタル、UAEも訪問した。かなり重要な訪問だと思うのだが、日本メディアではあまり詳しく報じられていない。ご関心のある向きは中東調査会の中東かわら版(最新号)に簡潔な要約があるのでお読み頂きたい。
これを読んで感じるのは、米国の中東外交が大きく変化しつつあること。トランプ氏はリヤドで開かれた「米・サウジ投資フォーラム」で約1時間、如何にもトランプらしい(無駄に長いが無視もできない、と言う意味)大演説をぶっている。この演説のポイントについては今週の産経新聞のWorldWatchに詳しく書いたのでご一読願いたい。
ここでは、その「さわり」だけご紹介しよう。第一は、米国歴代政権が推進してきた中東での「国作り」や「軍事介入」政策をトランプ氏が厳しく批判していることだ。バイデン政権だけでなく、湾岸戦争、イラク戦争で中東を変えようとした歴代共和党政権、特にネオコン的政策への決別宣言とも言える内容である。
第二は対イラン政策だ。トランプ氏は「自分はイランと取引したい。選ぶのはイランだが時間はあまり残っていない。もしイランが提案を拒否し近隣国への攻撃を続ければ、大規模かつ最大限の圧力以外に選択肢はない」などと恫喝している。これをイラン最高指導者は「低レベルだ」と一蹴したそうだ。よくぞ言った!
第三はイスラエルとの関係である。トランプ政権とネタニヤフ首相との関係は今や微妙だ。トランプ氏が対イラン取引にご執心だからだが、仮にイランと合意できても、その結果が「旧核合意」を超えることは想像し難い。されば、トランプ中東外交は地域の「バランスオブパワー」を変えつつも、外交的「空回り」が続くだろう。今週はこのくらいにしておこう。
2025年重要日程レポート20【5月19日版】
<今週以前から続く会議>
4月13日‐10月13日 大阪・関西万博が開幕
4月28日‐5月23日 ICAO、航空航法委員会、第229回会議(モントリオール)
4月28日‐5月23日 ICAO委員会フェーズ第235回会議(モントリオール)
5月5日‐5月23日 児童の権利委員会第99回会議(ジュネーブ)
5月12日‐5月30日 児童の権利委員会第99回会議(ジュネーブ)
5月
<5月19日‐5月25日>
19日 EU外相理事会(ブリュッセル)
19日 ユーロスタット、4月CPI(HICP)発表
19日 中国4月固定資産投資、社会小売品販売総額発表
19日‐5月23日 犯罪防止刑事司法委員会第34回会議(ウイーン)
19日‐5月27日 WHO、世界保健総会、第78回会議(ジュネーブ)
20日 EU外相理事会(防衛)(ブリュッセル)
20日 英文学賞「ブッカー国際賞」発表
20日‐5月21日 ニュー・テック展示会2025(テルアビブ)
20日‐5月21日 米グーグルの開発者会議「グーグル I/O」(米加州マウンテンビュー、オンライン併用)
20日‐5月22日 SEMICON Southeast Asia 2025(シンガポール)
20日‐5月22日 バイオメッド・イスラエル2025(テルアビブ)
20日‐5月22日 Saudi Entertainment and Amusement Expo(SEA)(リヤド)
20日‐5月30日 国際麻薬統制委員会第143回会議(ウイーン)
21日 メキシコ3月小売・卸売販売指数発表
21日‐5月22日 欧州議会本会議(ストラスブール)
22日 EU競争力担当相理事会(域内市場・産業)(ブリュッセル)
22日 メキシコ第1四半期GDP発表
22日 アクシス・テルアビブ(テルアビブ)
22日‐5月23日 CTBTO:作業部会A、第67回会合(ウイーン)
23日 パレスチナ問題の平和的解決と二国家解決の実施のためのハイレベル国際会議準備委員会(ニューヨーク)
23日 メキシコ4月貿易統計発表
23日 シンガポール2025年4月CPI発表
23日 OECD2025年第1四半期G20貿易統計発表
23日 EU競争力担当相理事会(研究・宇宙)(ブリュッセル)
23日‐6日1日 第7回農業動物資源見本市「SARA」(アビジャン)
24日 エクアドル大統領就任式
25日 さいたま市長選投開票
25日 ベネズエラ国会議員選挙
<5月26日‐6日1日>
26日 シンガポール2025年4月工業生産高指数発表
26日 EU外相理事会(開発)(ブリュッセル)
26日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
26日 サウジアラビア3月貿易統計発表
26日 メモリアルデー(戦没者追悼の日)(米市場休場)
26日‐5月28日 国連ハビタット、常任代表委員会の第3回公開会議(ナイロビ)
26日‐5月28日 国際組織犯罪防止条約締約国会議、技術支援に関する政府専門家作業部会、第16回会合(ウイーン)
26日‐5月30日 アフリカ開発銀行年次総会(アビジャン)
26日‐6月5日 国際法セミナー第59回(ジュネーブ)
27日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
27日 4月の欧州新車販売(欧州自動車工業会=ACEA)
28日 ロシア1~4月鉱工業生産指数発表
28日 ドイツ4月労働市場統計発表
28日 マレーシア4月貿易統計発表
28日 「OPECプラス」閣僚級会合と合同閣僚監視委員会(JMMC)(ウィーン)
28日‐5月29日 WHO執行理事会第157回会合(ジュネーブ)
28日‐5月30日 国際組織犯罪防止条約締約国会議、国際協力作業部会、第16回会合(ウイーン)
29日 ブラジル4月全国家計サンプル調査発表
29日 チリ2~4月雇用統計発表
29日 トルコ4月貿易統計発表
29日 米国2025年第1四半期GDP(改定値)発表
29日‐5月30日 アスタナ国際フォーラム
29日‐5月30日 国連ハビタット総会、第2回会合再開(ナイロビ)
30日 インドGDP2024年度第4四半期統計発表
30日 ブラジル第1四半期GDP発表
30日 メキシコ4月雇用統計発表
30日 国連ハビタット執行理事会第2回定例会(ナイロビ)
30日 UNDP/UNFPA/UNOPS、ユニセフ、WFP、UN-Womenの執行委員会、UNDP/UNFPA/UNOPS、ユニセフ、WFP、UN-Womenの執行委員会合同会議(ニューヨーク)
30日‐6月1日 アジア安全保障会議(シンガポール)
31日 5月の中国製造業購買担当者景況指数(PMI)(国家統計局)
6月
1日 メキシコ、初の裁判官選挙
1日‐6月30日 ASEAN文化情報委員会情報小委員会第26回会合(26th ASEANCOCI-SCI)(ジャカルタ)
2日 人種差別撤廃条約締約国会議第31回会合(ニューヨーク)
2日‐6月4日 国連でパレスチナに関するハイレベル国際会議(ニューヨーク)
2日‐6月5日 UNDP/UNFPA/UNOPS執行委員会年次総会(ニューヨーク)
2日‐6月5日 人権条約機関議長会議第37回会期(ジュネーブ)
2日‐6月5日 IBE 2025 - International Beauty Expo(クアラルンプール)
2日‐6月13日 ILO、国際労働会議、第113回会期(ジュネーブ)
3日 ブラジル4月鉱工業生産指数発表
3日 ユーロスタット、4月失業率発表
4日 米地区連銀景況報告(ベージュブック)(FRB)
4日‐6月5日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
4日‐6月7日 International Industrial Week 2025
5日 米国4月貿易統計発表
5日 ECB定例理事会(金融政策発表と記者会見)(フランクフルト)
5日 トルコ5月CPI発表
5日‐6月6日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(運輸・通信)(ルクセンブルク)
6日 ユーロスタット、第1四半期実質GDP成長率発表
6日 米国5月雇用統計
9日 サウジアラビア2025年第1四半期GDP発表
9日 中国5月貿易統計発表
9日 中国5月CPI発表
9日 メキシコ5月CPI・自動車生産・販売・輸出統計発表
9日‐6月11日 APHM International Healthcare Conference & Exhibition 2025(クアラルンプール)
9日‐6月13日 国連海洋会議(仏ニース)
9日‐6月13日 IAEA定例理事会(ウィーン)
10日 英国労働市場統計(2~4月)発表
10日 ブラジル5月IPCA発表
10日‐6月12日 タシケント国際投資フォーラム(ウズベキスタン・タシケント)
11日 メキシコ4月鉱工業生産指数発表
11日 米国5月CPI発表
11日 ロシア5月CPI発表
12日 トルコ4月国際収支統計発表
12日 インド4月IIP発表
12日 インド5月CPI発表
12日 ブラジル4月月間小売り調査発表
12日‐6月13日 EU司法・内務相理事会(司法)(ルクセンブルク)
13日 フランス5月CPI発表
15日 トルコ5月中央政府予算
15日‐6月17日 G7サミット首脳会合(カナダ・アルバータ州カナナスキス)
16日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(エネルギー)(ルクセンブルク)
16日 中国5月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
16日‐6月17日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
16日‐6月18日 Energy Asia 2025(クアラルンプール)
16日‐6月19日 欧州議会本会議(ストラスブール)
17日 EU環境相理事会(ルクセンブルク)
17日 米国5月小売統計発表
17日‐6月18日 ブラジル中央銀行、Copom
17日‐6月18日 米国FOMC、経済見通し発表
17日‐6月27日 ITU理事会、2025年会期(ジュネーブ)
18日 ユーロスタット、5月CPI(HICP)発表
18日 ロシア第1四半期経済活動別GDP発表
18日 英国5月CPI発表
18日‐6月21日 サンクトペテルブルク国際経済フォーラム(ロシア・サンクトペテルブルク)
19日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ルクセンブルク)
19日 トルコ中銀政策金融会議
19日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会(社会政策)(ルクセンブルク)
20日 トルコ5月中央政府予算
20日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ルクセンブルク)
20日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会(保健)(ルクセンブルク)
22日 通常国会会期末(調整中)
22日 日韓基本条約締結から60年
23日 トルコ5月貿易統計発表
23日 UNEP常任代表委員会第170回会合(ナイロビ)
23日 シンガポール5月CPI発表
23日 メキシコ4月小売・卸売販売指数発表
23日 EU外相理事会(ルクセンブルク)
23日‐6月24日 グローバルAIショー・リヤド(リヤド)
23日‐6月25日 包括的核実験禁止条約機構準備委員会第64回会期(ウイーン)
23日‐6月26日 サイバー・ウイーク 2025(テルアビブ)
23日‐7月31日 マレーシア国会第2回審議(第4会期)
24日 米国第2025年第1四半期国際収支統計発表
24日 EU農水相理事会(ルクセンブルク)
24日 EU一般問題理事会(ルクセンブルク)
24日‐6日26日 NATO首脳会議(オランダ・ハーグ)
25日 WTO2025年第1四半期財貿易統計発表
25日 ロシア1~5月鉱工業生産指数発表
25日‐6月27日 医療機器展示会「Africa Heatlh ExCon」(カイロ)
26日 イスラエル・モバイル・サミット2025(テルアビブ)
26日 米国2025年第1四半期GDP(確定値)発表
26日 メキシコ5月貿易統計発表
26日 ECB一般理事会(バーチャル会議)
26日‐6月27日 欧州理事会(ブリュッセル)
26日‐6月28日 フランス語圏経済人会議(REF)(コンゴ共和国・ブラザビル)
27日 ブラジル5月全国家計サンプル調査発表
27日 メキシコ5月雇用統計発表
27日‐6月30日 MIJF SE 2025 - Malaysia International Jewellery Fair Spring Edition(クアラルンプール)
30日 米国2025年第1四半期対外資産負債残高統計発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問