キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2025年4月15日(火)
[ 2025年外交・安保カレンダー ]
先週来の株式市場の動揺は「一段落」したのか、それとも、次の嵐の「前兆に過ぎない」のかはわからないが、とにかくパニックは起きていない。いやいや、市場でパニックが起きそうになると、トランプ側近が「警戒警報」を鳴らし、物事の詳細に関心のない大統領が連日のように朝令暮改を続いている、と言った方が正確かもしれない。
要するにこの大統領、政策の詳細よりも、自分自身の人気や政治的権威の維持拡大の方が大事なのだろう。そのためなら前言を翻したり、否定したりすることを何とも思っていないのだ。案の定、経済学者や市場関係者はトランプ政権の「相互主義関税」を「暴挙」「完全に狂っている」などと批判しているが、本当にそうなのか?
先週の産経新聞WorldWatchでは、今回の「高関税」が単なる交渉手段ではなく、(間違ってはいるものの)基本的政策変更の一環で、この政策のブレーンが(第二次大戦前後の悲劇に関する経験則を欠く)「Y(ミレニアル)世代」であることの意味などについて書いた。今週はこれらの論点を更に掘り下げていこうと思っている。
具体的には現在次のような仮説を考えているところだ。
これらの点については今週のJapanTimesに書こうと思っている。
続いて、個人的な話になるが、昨夜米国の友人からアーミテージ元米国務副長官が亡くなった、享年78歳、と連絡があった。うーん、前回会った時はまだ元気だったのに。既に日本でも報じられているので、彼の人となりや業績については繰り返さない。ここでは筆者が外務省時代に見聞きした彼との思い出を幾つか書いてみたい。
アーミテージ氏に最初に会ったのは1988年、筆者が当時の航空自衛隊次期支援戦闘機FSXの担当官として上司と訪米した際、米国防総省の次官補だった時だと記憶する。体はボディビルで鍛えた厚い胸板で、頭もスキンヘッドだが、頭脳明晰で無駄話をしない、実に頼れる男だった。彼なしには日米関係はより険悪だったに違いない。
親分肌で優秀で魅力的な子分たちが大勢いたが、そのうち何人かとは今も交流がある。それだけ近しい存在だった。1991年の湾岸戦争、2003年のイラク戦争の際、(詳細は言えないが)日本は彼に何度も助けられた。常に正論を吐くが、日本の内政にも精通していたからだろう、当然日本にもファンや信奉者が多かった。
当時は日本の政治家や有力者が訪米すると、必ずと言ってよい程「アーミテージ詣」をしていたっけ。でも筆者は外務省退職後のある時点からArmitage Internationalのオフィスには行かなくなった。彼に面会しても、日本の内政に関する矢継ぎ早の質問ばかり飛んできて、こちらからは殆ど質問させてもらえなかったからだ。
もう一つ思い出したのは「アーミテージレポート」のこと。北米局日米安全保障課長時代から今まで、実は「アーミテージレポート」は殆ど読んだことがない。理由は簡単、日本の安全保障政策の改善点は、彼に言われなくても、日本の専門家なら誰でも良く分かっていたからだ。日本の学者には「読んでないの?」とよく馬鹿にされたものだ。
いずれにせよ、我々は米国の偉大な友人をまた一人失ってしまった。リチャード・アーミテージ氏は、冷戦時代から最近までの日米間の意思の疎通に大いに貢献した米国の軍人・政治家だった。彼に匹敵する人物は当分現れないだろう。心からご冥福をお祈りしたい。
さて続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
4月16日 水曜日 | 独首相、ポーランド訪問し首脳会談 |
アンドラ首相、ブラッセル訪問し欧州理事会議長と会談 | |
4月17日 木曜日 | イタリア首相、ホワイトハウスで米大統領と会談 |
4月18日 金曜日 | 米副大統領、ローマ訪問しイタリア首相と会談 |
4月19日 土曜日 | 米・イラン代表団、オマーンで核問題につき協議 |
4月20日 日曜日 | 90日間の米国対外援助停止期間が終了 |
4月21日 月曜日 | IMFと世銀が定期会合(1週間、ワシントンにて) |
オランダ首相、3日間の訪日開始 |
最後にガザ・中東情勢について一言。先週のネタニヤフ首相訪米では対イスラエル関税17%問題やガザ停戦、人質解放、イランなどにつき、トランプ氏と相当突っ込んだ議論が行われた模様だが、詳細は表に出てきていない。最近のネタニヤフ首相はガザでの攻撃、レバノンでの戦闘など「やりたい放題」状態なのだが、肝心のトランプ氏がこれに「異を唱えた」という話は一切聞かない。あと1週間で第二期トランプ政権発足100日となるが、ウクライナもガザも停戦どころではない状況のようだ。
一方、オマーンではイランと米国の核協議が続いているらしい。直接協議だ、いやオマーンを介した間接協議にすぎない、などと「入り口」論ばかりが報じられているが、実際先週は双方の言い分を聞いたというのが実態だろう。19日に協議が進展することを祈るしかないが、もし協議が上手く行ったら、筆者はむしろ驚くだろう。
米国はイランの核開発停止を求め、イラン側はその前に制裁解除を求めるに違いないからだ。これでは協議は纏まらない、勿論予測し得た事ではあるが・・・。かといって直ぐに戦闘が始まる訳ではない。狐とタヌキの「馬鹿し合い」は当分続くだろう。今週はこのくらいにしておこう。
2025年重要日程レポート15【4月14日版】
<今週以前から続く会議>
2月11日‐5月10日 上院議員候補者および政党の選挙活動期間(フィリピン)
3月28日‐5月10日 代議院、国会議員、州、市、町村長候補者の選挙活動期間(フィリピン)
4月7日‐4月25日 軍縮委員会年次会合(ニューヨーク)
4月7日‐5月2日 拷問禁止委員会第82回会議(ジュネーブ)
4月13日‐4月16日 香港エレクトロニックス・フェア(春)(香港)
4月13日‐10月13日 大阪・関西万博が開幕
4月
<4月14日‐4月20日>
14日 インド3月CPI発表
14日 中国第1四半期貿易統計発表
14日 EU外相理事会(ルクセンブルグ)
14日 3月の中国貿易統計(税関総署)
14日‐4月15日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会、非公式会合(社会政策)(ワルシャワ)
14日‐4月16日 情報通信系展示会「GITEX AFRICA Morocco」(モロッコ・マラケシュ)
14日‐4月16日 独立監査諮問委員会、第70回会議(アディスアベバ)
14日‐4月17日 アフリカ系の人々に関する常設フォーラム第4回会合(ニューヨーク)
14日‐4月18日 FAO、理事会、第177回会議(ローマ)
15日 韓国3月貿易統計発表
15日 英国労働市場統計(2024年12月~2025年2月)発表
15日 フランス3月CPI発表
15日 イスラエル3月CPI発表
15日 米国財務省 半期為替政策報告書提出期限
15日 サウジアラビア3月CPI発表
15日‐4月17日 INATEX、インドインターテックス2025年(ジャカルタ)
15日‐4月19日 中国輸出入商品交易会(広州)
16日 1~3月期の中国GDP(国家統計局)
16日 3月の中国鉱工業生産、小売売上高、1~3月の都市部固定資産投資(国家統計局)
16日 英国3月CPI発表
16日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会、非公式会合(平等)(ワルシャワ)
16日 ユーロスタット、3月CPI(HICP)発表
16日 中国第1四半期経済指標(GDP、固定資産投資、社会消費品小売総額等)発表
16日 カナダ中央銀行政策金利発表・金融政策報告書発表
16日 米国3月小売統計発表
16日‐4月17日 ニューヨーク国際自動車ショー(報道公開)
16日‐4月17日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
17日 ECB定例理事会(金融政策発表と記者会見)(フランクフルト)
18日 グッドフライデー(聖金曜日)(米市場は債券、株式、商品市場が休場。外国為替市場は通常取引)
18日‐4月20日 東南アジア最大のヘルスケア・製薬ショー2025(SEACare)(マレーシア)
18日‐4月27日 ニューヨーク国際自動車ショー(般公開)
<4月21日‐4月27日>
21日 イスラエル2024年第4四半期GDP(確定値)推計発表
21日‐4月24日 宇宙産業カンファレンス「NewSpace Africa Conference」(エジプト・カイロ)
21日‐4月25日 ESCAP第81回会合(バンコク)
21日‐4月25日 Saudi Food Expo(リヤド)
21日‐4月27日 モロッコ国際農業展「SIAM 2025」(モロッコ・メクネス)
21日‐5月2日 先住民問題常設フォーラム、第24回会合(ニューヨーク)
22日 イスラエル3月財貿易統計発表
22日‐4月26日 UPU、郵便業務理事会、第1回定例会(スイス・バーン)
23日 メキシコ2月小売・卸売販売指数発表
23日 カザフスタン2024年所得別GDP発表
23日 ロシア第1四半期鉱工業生産指数発表
23日‐4月24日 G20財務相・中央銀行総裁会議(米国・ワシントン)
23日‐4月24日 ソーラーテックインドネシア、イナトロニクス(ジャカルタ)
23日‐4月25日 東南アジア最大のヘルスケア・製薬ショー 2025年(SEACare)(マレーシア)
23日‐4月27日 中国輸出入商品交易会(広州)
23日‐5月2日 上海国際モーターショー
24日 サウジアラビア2月貿易統計発表
24日 韓国第1四半期GDP(速報値)発表
24日 南南協力に関するハイレベル委員会組織セッション(ニューヨーク)
25日 ロシア中央銀行理事会
25日‐4月27日 IMF・世界銀行春季総会(米国・ワシントン)
25日‐5月2日 第21回上海国際自動車工業展覧会(上海モーターショー2025)
<4月28日‐5月4日>
28日 メキシコ3月貿易統計・雇用統計発表
28日 EU農水相理事会(ルクセンブルグ)
28日 CIS経済評議会(ウズベキスタン・タシケント)
28日 カナダ総選挙
28日‐4月29日 EU環境相理事会、非公式会合(ワルシャワ)
28日‐4月29日 国際組織犯罪防止条約締約国会議、銃器作業部会、第12回会合(ウイーン)
28日‐5月2日 国連地名専門家グループ第4回会合(ニューヨーク)
28日‐5月2日 人権理事会、状況作業部会、第35回会議(ジュネーブ)
28日‐5月2日 UNCTAD貿易開発委員会第15回会合(ジュネーブ)
28日‐5月9日 核拡散防止条約の再検討会議第3回準備委員会(ニューヨーク)
28日‐5月9日 情報委員会第47回会議(ニューヨーク)
29日 イスラエル3月国別財貿易統計発表
30日 ブラジル3月全国家計サンプル調査発表
30日 タイ金融政策委員会2回目
30日 サウジアラビア2024年貿易統計発表
30日 米国2025年第1四半期GDP(速報値)発表
30日 ドイツ3月労働市場統計発表
30日 フランス2025年第1四半期実質GDP成長率(速報値)発表
30日 ドイツ2025年第1四半期実質GDP成長率(速報値)発表
30日 カザフスタン2024年需要項目別GDP発表
30日 ケニア4月CPI発表
30日 1~3月期のユーロ圏域内GDP速報値(EU統計局)
30日 1~3月期の米GDP速報値(商務省)
30日 3月の米個人消費支出(PCE)物価指数(商務省)
30日 4月の中国製造業購買担当者景況指数(PMI)(国家統計局)
5月
1日 英地方選
1日 インドネシア4月CPI発表
1日 オーストラリア3月貿易統計発表
2日 インドネシア第1四半期GDP発表
2日 韓国4月CPI発表
2日 米国4月雇用統計
2日 ユーロスタット、3月失業率発表
3日‐5月4日 第9回カンボジアフェスティバル2025年(カンボジア)
4日 タスマニア州議会上院選挙(オーストラリア)
4日 ルーマニア大統領選挙
5日 トルコ4月CPI発表
5日‐5月8日 欧州議会本会議(ストラスブール)
5日‐5月9日 第13回世界公共雇用サービス協会(WAPES)世界会議(アビジャン)
6日 米国3月貿易統計発表
6日‐5月7日 ブラジル中央銀行、Copom
6日‐5月7日 米国FOMC
7日 ブラジル3月鉱工業生産指数発表
7日‐5月8日 EU外相理事会、非公式会合(ワルシャワ)
8日 メキシコ4月CPI発表
9日 ブラジル4月IPCA発表
9日 メキシコ4月自動車生産・販売・輸出統計発表
9日 中国4月貿易統計発表
10日 中国4月CPI発表
11日 アルバニア議会選挙
11日‐5月14日 セレクトUSA投資サミット(メリーランド州ナショナルハーバー)
12日 メキシコ3月鉱工業生産指数発表
12日 フィリピン2025年中間選挙
12日 インド3月IIP発表
12日 インド4月CPI発表
12日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
12日‐5月13日 EU教育・青年・文化・スポーツ相理事会(ブリュッセル)
12日‐5月13日 アフリカCEOフォーラム(アビジャン)
12日‐5月14日 水処理展示会「WATREX Expo 2025」(エジプト・カイロ)
13日 英国労働市場統計(2025年1月~2025年3月)発表
13日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
13日 トルコ4月国際収支統計発表
13日 アルゼンチン第1四半期貿易統計発表
13日 米国4月CPI発表
13日‐5月14日 ChipEx 2025(テルアビブ)
14日 韓国4月雇用統計発表
14日 ドイツ4月CPI発表
14日 アルゼンチン4月CPI発表
14日‐5月15日 Saudi Arabia Green Energy Week(SAGEW)(リヤド)
14日‐5月15日 パームオイル博覧会 2025年(ジャカルタ)
14日‐5月17日 METALTECH マレーシア2025年(マレーシア)
15日 英国3月GDP速報値発表
15日 フランス4月CPI発表
15日 インドネシア4月貿易統計発表
15日 米国4月小売統計発表
15日 ブラジル3月月間小売り調査発表
15日 韓国3月貿易統計発表
15日 サウジアラビア4月CPI発表
15日 EU外相理事会(貿易)(ブリュッセル)
15日‐5月16日 APEC貿易担当大臣会合(韓国・済州)
15日‐5月17日 石炭・エネルギー博覧会(ジャカルタ)
15日‐5月18日 カンボジア国際宝石・ジュエリー 2025(カンボジア)
16日 ロシア4月CPI発表
16日 ロシア2025年第1四半期GDP成長率(速報値)発表
16日 フランス2025年第1四半期失業率発表
16日 シンガポール2025年4月貿易統計発表
17日 連邦議会選挙(上院半数と下院同時選挙)(日程未決定)(オーストラリア)
18日 ポーランド大統領選挙
19日 EU外相理事会(ブリュッセル)
20日 EU外相理事会(防衛)(ブリュッセル)
19日 ユーロスタット、4月CPI(HICP)発表
19日 中国4月固定資産投資、社会小売品販売総額発表
20日‐5月21日 ニュー・テック展示会2025(テルアビブ)
20日‐5月22日 SEMICON Southeast Asia 2025(シンガポール)
20日‐5月22日 バイオメッド・イスラエル2025(テルアビブ)
20日‐5月22日 Saudi Entertainment and Amusement Expo(SEA)(リヤド)
21日 メキシコ3月小売・卸売販売指数発表
21日‐5月22日 欧州議会本会議(ストラスブール)
22日 EU競争力担当相理事会(域内市場・産業)(ブリュッセル)
22日 メキシコ第1四半期GDP発表
22日 アクシス・テルアビブ(テルアビブ)
23日 メキシコ4月貿易統計発表
23日 シンガポール2025年4月CPI発表
23日 OECD2025年第1四半期G20貿易統計発表
23日 EU競争力担当相理事会(研究・宇宙)(ブリュッセル)
23日‐6日1日 第7回農業動物資源見本市「SARA」(アビジャン)
24日 エクアドル大統領就任式
26日 シンガポール2025年4月工業生産高指数発表
26日 EU外相理事会(開発)(ブリュッセル)
26日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
26日 サウジアラビア3月貿易統計発表
26日‐5月30日 アフリカ開発銀行年次総会(アビジャン)
27日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
28日 ロシア1~4月鉱工業生産指数発表
28日 ドイツ4月労働市場統計発表
28日 マレーシア4月貿易統計発表
29日 ブラジル4月全国家計サンプル調査発表
29日 チリ2~4月雇用統計発表
29日 トルコ4月貿易統計発表
29日 米国2025年第1四半期GDP(改定値)発表
29日‐5月30日 アスタナ国際フォーラム
30日 インドGDP2024年度第4四半期統計発表
30日 ブラジル第1四半期GDP発表
30日 メキシコ4月雇用統計発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問