キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2025年1月28日(火)
[ 2025年外交・安保カレンダー ]
トランプ第二期政権発足から1週間が経った。「あっという間」と感じたのは、その間、あまりに多くの大統領令が署名され、新たな政策が打ち出されたからだろう。ちなみに、日本では大手マスコミが元国民的アイドルグループメンバーのスキャンダル・芸能界引退問題をめぐり大騒ぎしていた。何と平和な国なのだろうか。
それはさておき、今日本では、というか世界中で、第二期トランプ政権に関する夥しい量の批判的報道が流されている。先週書いた通り、新大統領のバイデン前政権に対する「挑戦的」「挑発的」言動は、明らかに荘厳さや格調を欠いていた。だが、考えてみれば、この種の政治的混乱も、米国政治史の中では決して稀な現象ではない。
この政権を米国内のリベラル系メディアの「受け売り」で批判することも、逆に、保守系メディアの「無批判の賞賛」に共鳴して礼賛することも、あまりお勧めしない。トランプ政権については、何が「本質的な問題」であり、何が「どうでも良いこと」かを、冷静に分析した上でしっかり論じる必要があると筆者は感じている。
こうした問題意識から書いたのが今週の産経新聞のWorldWatchだ。トランプの第二期政権が、第一期に比べ、「進化」していることだけは間違いない。有言実行、戦略性、用意周到さ、どれをとっても8年前とは大違いである。詳細は同コラムをご一読願いたいが、ここでは同コラムで書けなかったことを書こう。
第二期トランプ政権の本質を一語で形容せよと問われれば、筆者は「復讐」と答える。特に筆者が気になるのは、今週文字通り「闇夜に乗じて」、トランプ政権が国務省、国防総省など十数の主要官庁に置かれている内部監察組織のトップを、一斉に一気に解任したことである。これはとても狡猾かつ効果的な手法だと思う。
ワシントンの友人からは未だ何の連絡もない。だが、彼らが今頃「戦々恐々」だろうことは容易に想像できる。昨年まで正しいと思ってやって来たことが、今年になってことごとく「政治パージ」の対象となる。政治的中立ゆえに一定の雇用保証が認められていた一般職の連邦公務員が、突然失職の危機に直面するのだから穏やかではない。
流石に日本ではこんなことは当分起きないだろう。だが、敢えて誤解を恐れずに例え話をすれば、今ワシントンの「闇の政府の職員」呼ばわりされた人々の心情は、恐らく中国の文化大革命時代に吊し上げられた「反動知識分子」や、ナチスドイツの迫害に直面した欧州の「ユダヤ人」にも似た「絶望的思い」ではないかと推察する。
繰り返すが、今米国で起きている政治ドラマは、あくまで米国型民主主義の一側面に過ぎない。他方、そうであればあるほど、このような権力闘争が大統領の一方的勝利に終わるとは限らないことも、米国の民主主義の姿である。やれやれ、今年一年は、8年前以上に、米国政治に振り回されないよう注意しなければ・・・・。
続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
1月28日 火曜日 | イスラエルのUNRWA(国連パレスチナ支援組織)活動禁止法が発効 |
仏大統領、欧州委員会委員長と会談 | |
1月29日 水曜日 | 米国務長官、カナダ外相と会談 |
カナダ・オンタリオ州首相、州議会選挙前倒し実施を発表 | |
1月30日 木曜日 | 米上院、トランプ政権の国家情報長官と国連大使の人事につき公聴会開催 |
1月31日 金曜日 | ミャンマーの国家非常事態宣言が失効 |
イタリア首相、セルビア訪問 | |
英外相、チュニジア訪問 | |
2月1日 土曜日 | トランプ政権、メキシコ、カナダ、中国に関税発動 |
インド財務相、2025年予算案を議会に提出 |
最後はガザ・中東情勢に簡単に触れたい。
ガザ戦争の停戦合意に基づき、これまでにイスラエル人女性7人と300人近いパレスチナ人の交換が実現した。しかし、「悪魔は詳細に宿る」という諺の通り、この交換プロセスがいつまで続くかは今も予断を許さない。むしろ、今週筆者が気になったのは今あまり報じられないシリア情勢である。
NYTによれば、アサド政権崩壊で楽観ムードが広がっていたシリア国内で、旧シリア国軍兵士が自宅に戻ったところ、その兵士により迫害を受けたシリア人たちの襲撃を受けたそうだ。古今東西、人間の感情だけはあまり進化していないようである。今週はこのくらいにしておこう。
2025年重要日程レポート4【1月27日版】
<今週以前から続く会議>
1月13日‐1月31日 児童の権利委員会第98回会合(ジュネーブ)
1月20日‐2月14日 ICAO(国際民間航空機関)、第228回航空委員会(モントリオール)
1月20日‐2月14日 ICAO、第234会期委員会(モントリオール)
1月20日‐3月28日 軍縮会議、第一部(ジュネーブ)
1月
<1月27日‐2月2日>
27日 EU外相理事会(ブリュッセル)
27日 国際刑事裁判所ローマ規程締約国会議 予算・財務委員会 第46回会議(デンハーグ)
27日‐1月30日 アラブヘルス(アラブ首長国連邦・ドバイ)
27日‐1月31日 国連、第1回定例会(ニューヨーク)
27日‐1月31日 UNDP/UNFPA/UNOPS執行委員会第1回定例会議(ニューヨーク)
27日‐1月31日 人権理事会、強制失踪または非自発的失踪に関する作業部会、第 135 回会合(ジュネーブ)
27日‐2月7日 拷問禁止委員会、拷問およびその他の残虐、非人道的、または品位を傷つける取扱いまたは刑罰の防止に関する小委員会、第 55 回会合(ジュネーブ)
28日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
28日‐1月29日 ブラジル中央銀行、Copom
28日‐1月29日 米国FOMC
29日 カナダ中央銀行政策金利発表・金融政策報告書発表
30日 フランス第4四半期実質GDP成長率(速報値)発表
30日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会、金融政策(フランクフルト)
30日 米国第4四半期GDP(速報値)発表
30日‐1月31日 ユーラシア政府間評議会(カザフスタン・アルマトイ)
30日‐1月31日 非政府組織委員会(ニューヨーク)
31日 ケニア1月CPI発表
31日 24年12月の米個人消費支出(PCE)物価指数(商務省)
2月
2日 トーゴ上院選挙
2日 タジキスタン下院選挙
2日 タジキスタン上院選挙
3日‐2月7日 UNCITRAL、第2作業部会(紛争解決)、第81回会合(ニューヨーク)
3日‐2月7日 国際麻薬統制委員会第142回会議(ウイーン)
3日‐2月11日 WHO、執行理事会、第156回会議(ジュネーブ)
3日‐2月14日 宇宙空間の平和利用に関する委員会、科学技術小委員会、第62回会議(ウイーン)
3日‐2月21日 女性差別撤廃委員会第90回会議(ジュネーブ)
4日 コロンビア2024年12月輸出統計発表
4日‐2月6日 第 15 回国連犯罪防止刑事司法会議地域準備会合: ラテンアメリカおよびカリブ海諸国、第 15 回国連犯罪防止刑事司法会議ラテンアメリカおよびカリブ海諸国地域準備会合 (未定)(サンティアゴ)
4日‐2月7日 ユニセフ、執行委員会、第1回定例会議(ニューヨーク)
5日 ブラジル2024年12月鉱工業生産指数発表
5日 米国12月貿易統計発表
5日 カナダ12月貿易統計発表
5日 国連経済社会理事会(ECOSOC)パートナーシップフォーラム(ニューヨーク)
5日‐2月7日 インド準備銀行金融政策決定会合
5日‐2月8日 リュージュ世界選手権(カナダ・ウィスラー)
6日 オーストラリア2024年12月貿易統計発表
6日 ベトナム2025年1月分の社会・経済統計(CPI、投資、貿易など)発表
6日 アルゼンチン2024年第4四半期貿易統計発表
6日‐2月7日 ECOSOCの調整部門(ニューヨーク)
7日 メキシコ1月自動車生産・販売・輸出統計・CPI発表
7日 コロンビア1月CPI発表
7日 マレーシア2024年12月IIP発表
7日 米国1月雇用統計発表
7日 カナダ1月雇用統計発表
7日 台湾2025年1月CPI発表
9日 リヒテンシュタイン議会選挙
9日 エクアドル大統領選挙
9日 コソボ議会選
9日‐2月12日 Leap25(リヤド)
10日 フィリピン11月直接投資発表
10日 カンボジア2025年1月貿易統計発表
10日‐2月11日 AIサミット(パリ)
10日‐2月14日 社会開発委員会(CSocD)第63回会議(ニューヨーク)
11日 メキシコ2024年12月鉱工業生産指数発表
11日‐5月10日 上院議員候補者および政党の選挙活動期間(フィリピン)
12日 インド2024年10月IIP発表
12日 インド2025年1月CPI発表
12日 トルコ1月国際収支統計発表
12日 フランス2024年第4四半期失業率発表
12日 米国1月CPI発表
13日 ドイツ1月CPI発表
13日 イスラエル1月貿易統計発表
13日 ブラジル2024年12月月間小売り調査発表
13日‐2月23日 ベルリン国際映画祭(ベルリン)
14日 イスラエル1月CPI発表
14日 ロシア中央銀行理事会
14日 米国1月小売統計発表
17日 シンガポール1月貿易統計発表
17日 フィリピン12月OFW送金額発表
17日‐2月19日 エネルギー展示会「EGYPES」
17日‐2月21日 Gulfood(ドバイ)
18日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
18日‐2月20日 Global Health Expo(カンボジア)
18日‐2月20日 International Petroleum Technology Conference(IPTC)(マレーシア)
19日 フィリピン2025年1月国際総合収支(BOP)統計発表
19日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策、バーチャル会議)
19日‐3月20日 Foresighting Forum 2025: Charging Forward(オーストラリア)
20日 トルコ中銀金融政策会議
20日 香港2025年1月CPI発表
20日‐2月21日 G20外相会合(南アフリカ共和国)
20日‐2月22日 PAKAR PERTANIAN EXPO(マレーシア)
20日‐2月22日 Malaysia Technology Expo 2025 「マレーシアテクノロジーエキスポ・2025年」(マレーシア)
21日 ロシア中央銀行理事会
21日‐23日 Diving & Resort Travel Expo Malaysia 2025 「ダイビング&リゾートトラベルエキスポマレーシア・2025年」(マレーシア)
24日 EU外相理事会(ブリュッセル)
24日 ユーロスタット、1月CPI(HICP)発表
24日 シンガポール2025年1月CPI発表
24日 イスラエル中央銀行金融委員会会合
24日‐2月28日 開発政策委員会(CDP)第27回会合(ニューヨーク)
25日 OECD2024年第4四半期G20貿易統計発表
26日‐2月27日 G20財務相・中央銀行総裁会議(南アフリカ共和国)
27日 米国第4四半期GDP(改定値)発表
28日 EU一般問題理事会(結束政策)(ブリュッセル)
28日 ケニア2月CPI発表
28日 インドGDP2024年度第3四半期統計発表
3月
1日 ウルグアイ大統領就任式
1日‐3月4日 Malaysian International Furniture Fair(MIFF)(マレーシア)
2日 ドイツ・ハンブルク州議会選挙
2日‐3月5日 Export Furniture Exhibition(EFE)(マレーシア)
3日 米国1月貿易統計発表
4日 ユーロスタット、1月失業率発表
5日 オーストラリア2024年第4四半期GDP統計発表
5日‐3月7日 Vietship 2025 - International Exhibition on Shipbuilding and Offshore Technology(ハノイ)
5日‐3月8日 VIFA EXPO 2025 - 16th International Furniture and Home Accessories Fair Vietnam(ホーチミン)
6日 オーストラリア1月貿易統計発表
7日 ユーロスタット、第4四半期実質GDP成長率発表
7日 米国2月雇用統計
7日 台湾2月CPI発表
7日 台湾2月貿易統計発表
7日 メキシコ2月CPI発表
7日 ブラジル2024年第4四半期GDP発表
8日 西オーストラリア州議会選挙(オーストラリア)
9日‐3月11日 Nano.IL.2025(イスラエル・エルサレム)
10日 フィリピン12月直接投資発表
10日 カンボジア2月貿易統計発表
12日 マレーシア1月IIP発表
12日 インド2024年12月IIP発表
12日 インド2月CPI発表
12日 米国2月CPI発表
12日 カナダ中央銀行政策金利発表
14日 アルゼンチン2月CPI発表
14日 フランス2月CPI発表
14日 ドイツ2月CPI発表
17日 米国2月小売統計発表
17日 シンガポール2月貿易統計発表
17日 フィリピン1月OFW送金額発表
18日‐3月19日 Energy Storage Australia 2025(オーストラリア)
18日‐3月19日 ブラジル中央銀行、Copom
18日‐3月19日 米国FOMC、経済見通し発表
19日 ユーロスタット、2月CPI(HICP)発表
19日 フィリピン2月BOP統計発表
19日 フィンテック・ジャンクション(テルアビブ)
20日 香港2月CPI発表
20日 米国第2024年第4四半期国際収支統計発表
20日 台湾2月投資統計発表
20日‐3月21日 欧州理事会(ブリュッセル)
24日‐3月26日 サイバーテック・グローバル(テルアビブ)
25日‐3月27日 SEA ASIA 2025(シンガポール)
26日 米国2024年第4四半期対外資産負債残高統計発表
26日 英国2月CPI発表
27日 米国2024年第4四半期GDP(確定値)発表
28日 メキシコ2月雇用統計発表
28日 ドイツ2月労働市場統計発表
28日‐5月10日 代議院、国会議員、州、市、町村長候補者の選挙活動期間(フィリピン)
31日 米国通商代表部(USTR)2025年外国貿易障壁報告書(NTE)提出期限
31日 コロンビア2月雇用統計発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問